緑の森に夕陽は落ちる -05-
「稽古について来るのは、止めてくれないかな…」 稽古場の入り口で待ち伏せていたキラは、ラクスがいつものように現れると 少し申し訳 なさそうにそう言った。 落ち着かないのだと正直に説明すると、彼女はどこか嬉しそうにして笑う。 「やっと仰いましたわね。」 「へ?」 自分でも間の抜けた声が出たと思った。 今、彼女は何と言った? 「嫌だと仰るのに無理は言いませんわ。」 言わないからわざと無視していたのかと、今更ながら理解する。 このふんわりとした雰囲気に騙されてはいけない。 この前も適確な言葉でキラの感情を揺さぶったのは彼女だ。 彼女はカガリと同じく国を継ぐ者なのだと、その時初めて認識した。 「その代わり、2つほどお願いを聞いてくださいませんか?」 「2つ?」 落ち着いた雰囲気でみんなと鍛錬ができるなら、ある程度までは聞くつもりだけれど。 「毎日私達と昼食をとること、そして週に1度は一緒にお茶の時間を。」 …つまり、彼女がここに来る以外は今まで通りにしろということか。 少しだけ考えてから、キラは肯定の意味で頷いた。 「…分かった。約束するよ。」 落ち着かないよりはだいぶ良い。 それに、カガリに会いにくいと思っているキラの背中を押してくれているのも分かったか ら。 「ありがとうございます。」 それは僕が言うべきことだ。 そう思ったけれど、彼女の笑顔にタイミングを失って飲み込んだ。 その日のティータイムは庭園でと言い出したのはラクス。 東屋に準備をしてもらって4人で囲んだ。 キラが逃げないのでカガリは上機嫌。アスランも安心したようだ。 キラも今日は落ち着いて鍛錬ができたし、もっと早く言えば良かったとさえ思った。 「キラ、あちらへ行ってみませんか?」 ラクスが指差したのはちょうど満開のバラ園の方。 誘われたのはキラだけで、アスランとカガリは行ってらっしゃいと手を振っている。 まあいいかと了承したキラは、2人を置いてラクスとバラ園の中へ入った。 午後の明るい日差しの下で赤やピンク、オレンジのバラがさまざまに咲き誇っている。 オーブの庭園はあまり手を入れない自然な姿が特徴だ。 ザフトの幾何学的で整然とした配置も美しいが、この国の自然に伸びる姿もキラは美しい と思う。 …そういえばプラントはどうなのだろう。 芸術の国と言われているのだから、もっと洗練されているのだろうか。 そんな風に考えた自分に気づいて少し驚いた。 今まで興味を持たなかったことを考えたのは、心に余裕が出てきたせいか。 「――――」 キラはふと赤いバラの前で立ち止まり、大きな一輪に触れる。 そして思い出した情景に そのまま動けなくなった。 「どうされたんですか?」 離れてしまったキラに気がついてラクスが戻ってくると、一緒にその花を覗き込みながら キラに尋ねる。 視線はその赤い花に落としたままで、キラは今ここに立っていることが不思議なんだと答 えた。 「もうずっと、ここには来てなかったなって。」 赤いバラを見ると彼女を思い出す。 『カガリ様が光り輝く太陽のような大輪のヒマワリならば、彼女は優雅に咲き誇る深紅の バラね。』 彼女を例える時、誰もがバラを想像した。 彼女自身はそれをあまり快く思っていなかったようだけれど。 『やあよ。あんな自己主張の激しい花。もっと可愛いものが良いわ。』 『ピッタリじゃないか…』 呆れた声で言ったカガリと睨み合ったこともあったっけ。 …思い出すから、ずっとここには来なかった。 どうして忘れていたんだろう。 まあいいかとあっさり了承したさっきの自分を本当に謎に思う。 「私は白の方が好きですわね。」 沈んでいきそうになる気持ちを留めたのは、彼女のそんな言葉。 「え?」 弾かれるように顔を上げると、彼女は優しい笑みを浮かべていた。 「私の部屋の前庭に咲いているのですけれど。」 どうやらマイナスモードに気づかれたらしい。 関係ない言葉に見えて、その笑みは全てを悟っている。 彼女の表情にホッとしたキラは知らず詰めていた息を吐いた。 「―――君のイメージそのものだね。」 すっとキラの顔にも笑みが浮かぶ。 それは自然に出たものでもあったけれど、男としての矜持もあったかもしれない。 ここで暗い顔をし続けるのは誘ってくれた彼女にも悪いと思ったから。 「そうですか?」 「うん。君には白がよく似合う。」 ありがとうございますとラクスも笑みを深める。 そうながら2人は、赤いバラを離れてさらに奥へと進んだ。 「ラクスって、キラをどう思ってるんだ?」 今はキラの頭くらいしか見えないほど奥へ行ってしまった2人を眺めながらカガリがぼそ りと呟く。 そういえば彼女がキラを構う理由を深く考えたことはなかった。 自分よりはラクスをよく知るアスランの方にそのまま視線を向ければ、彼は何だか微妙な 顔をしている。 「……彼女は昔から可愛いものが好きだったからな。」 「ああ、そういう…」 妙に納得してしまいつつ、カガリもまた微妙な気分を隠しきれなかった。 キラは時々読めないが、基本的には可愛い。 今は例のことやらいろいろあって少し捻くれているだけだ。 ラクスがアスランから話を聞いていたなら、キラの元々の性格も知っているはずだ。 だから興味を持ったのか。 やっぱり噂は噂でしかないのだと、カガリは改めて実感した。 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- キラ、マスコット扱い(笑) まあ、今のところはそんな感じです。 ラクス様は可愛いものや綺麗なものが大好きなんですよ。 だからカガリやアスランも好きです♪ 意外とキラフレ度が下がりました。 本当はもっとキラフレかなと思ったんですけど。ラクス様パワーか。 フレイは赤いバラのイメージです。「星の王子さま」の影響…? ↑王子さまとバラがどうしてもキラとフレイに変換されてしまうのです(笑)