実りの色は赤い果実 -44-




 キラとシンが辿り着いたときにはすでに大立ち回りが始まった後。
 AAの他のメンバーも駆けつけていて、彼女の部屋は黒と白の衣が入り乱れていた。

「オンナ1人にずいぶんな数だな。」
「これだけの数が城に入れたことに感心するね。」
 キラとシンも剣を抜き、早速戦闘態勢に入る。
 そしてお互い何も言わずに同じタイミングで飛び出した。




「―――遅い。」
「ッな、!?」
 視界に相手が映った次の瞬間には、黒装束の男の意識は闇に落ちる。
 鋭い切っ先はあっという間に相手の獲物と意識を失わせていった。


「成果が出てるみたいだねー」
「てーか スティングの奴より全然弱ぇんだから当たり前だろ。」
 口調や表情に緊張感は一切見られないが、2人の前に敵の姿はすでにない。
 そうして2人はラクスの傍まで難なくたどり着くことができた。



「ラクス、マリューさん。」
 2人の姿を認めると、マリューは「頼むわね」と言い残してそこを離れる。
 狙いはラクス一人だが、増え続ける刺客をなるべく彼女に近づけさせないためだ。

 マリューは他のメンバーの加勢に入り、一気に敵が床に転がる数を増やしていった。
 さすがはAAの中でも1、2を争う実力の持ち主だと感心しつつ、キラも前方の刺客に狙
 いを定める。
「ラクス、ここから離れないでね。」
「キラ…」
 不安げというよりは心配そうな声がしてキラが後ろを振り返れば、やはりその声そのまま
 の表情をしたラクスがじっと見つめていた。
 キラはそれににこりと微笑み返す。
「心配しないで。」
 ラクスはそれに傷ついたような顔をする。
 自分の身が招いた事態でキラが傷つくことを憂いているのだろう。

 だから、キラは殊更に大丈夫だという笑顔を見せた。

「"今は"1人じゃないから大丈夫だよ。」



 フレイを目の前で失った、あの日の記憶はまだ色褪せてはいない。
 守りたくても守れなかった。その時の後悔はきっと一生持ち続けるのだろう。
 けれど、だからこそ今度は間違えたりしない。

 ―――そう。あの時と違うのは、1人ではないこと。
 AAもシンも キラを助けてくれる。


「ね、だから君は自分の身を守ることだけを考えてて。」
「…はい。」
 鈴をぎゅっと握り締めて小さく頷く彼女に、もう一度大丈夫だよと答えてキラは苦笑いし
 た。


















 実力の上ではAAやキラ達の方が確実に上回っていた。
 本来ならすぐに片が付くはずの、それくらいの相手。

 しかし、キラ達の予想に反して彼らは苦戦を強いられることとなった。




「きゃあっ」
「ミリアリア!」
 腕を切られて座り込む彼女を、サイの剣が危機一髪のところで救う。
 彼女の声で踏み出しかけていたキラはそれに気づいて足を留めた。
 ミリアリアも腕を押さえてはいるものの意識はあるらしく、一先ず安心して再び意識を目
 の前に戻す。



(…おかしい。)
 予想以上に長引く攻防戦に、キラの中でその思いはだんだん強くなっていた。

 どこからやって来ているのか どんなに倒しても敵の数が減らないのだ。
 むしろ逆に増えているような気もしていた。

 …そして、おそらくその推測は間違っていないのだろう。
 彼女の手の中で鳴り続けている涼やかな音色がその存在を示している。




「このままじゃキリがない! 元を断たないと…ッ」
 ミリアリアを庇いつつ剣を振るうサイの、珍しく焦った声が聞こえた。




 ―――本当は離れたくない。彼女を守るのは自分だ。
 でも、状況を打破できるのも自分しかいない。

 …大丈夫、ここにはシンがいる。



 意を決したキラは振り返り ラクスに手を伸ばした。
「ラクスっ 鈴を貸して!!」
「え…? あ、はい。」
 握り締めていたそれをラクスは戸惑いつつも言われるまま差し出す。
「ありがとう。」
 それを受け取りキラは彼女の傍から離れた。
 驚いたのはシンだが、説明をしている時間も余裕も今のキラにはない。
「シン、しばらく1人で耐えてて!」
「は!? ちょ、キラッ!!?」
 問答無用でシンに彼女を任せて、キラはベランダから外に飛び出した。


















 リィ―――ン

 頭が痛いほどの高い音。
 だんだんと大きくなるその音に不快感を覚えながらもひたすら走る。

 この先にきっとあるはずだ。
 この鈴が示す"警告"の元となるものが。





 そして、ほどなくしてキラは白壁に立てかけられた明らかに不自然な鏡を見つけた。
 鏡面には雲の隙間から微かに見える月が映し出されている。


「これ、か…」

 リィ―――ン ッ

 鳴り響く音はさらに大きくなっていて、頭痛さえ感じ始めていた。
 それを握り締めて、空いた手で剣を構える。
 その時、不意にゆらりと鏡に映る景色が歪み、闇色の煙が鏡の中を覆った。

「…ッ」
 嫌な予感を覚え、咄嗟に振り下ろした剣で鏡を叩き割る。

 ピシリ

 ひび割れた音は意外に静かだった。
 割れ目は鏡面全体に広がっていき、呻き声のような変な音が奥から響く。
 行き場をなくした闇色の渦が外に出ようともがき、鏡を揺らすがそれよりもひび割れの方
 が早かった。


 割れる、とキラがとっさに身構えようとした時、

 パリ――― ンッ

 空気を引き裂き割れた鏡の破片は、キラに降り注ぐことなく水の泡のように目の前で消え
 た。






    >>NEXT


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…アクションのシーンは苦手です(汗) 必ずどこか似てしまうから。

で、マリューさんは強いです。DESTINYでもそうだったように。
実はあの襲撃の夜を微妙に意識はしてますー



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