実りの色は赤い果実 -40-
ステラをキラに預け、シンはスティングと共に部屋の中央へ足を進める。 今までもそうだったからと、勝負はそのままこの謁見の間で行われることになった。 城内で最も広いここなら2人が戦うとしても広さは十分だ。 ただ一応の安全のために、キラ達はネオのいる玉座の傍、スティング達に付いて来た側近 は扉の前に避難した。 「勝負はシンプルに1本勝負。参りましたと言わせた方が勝ち。」 最も中立に近いアウルが審判を務める。 R e a d y 「じゃあ、準備は良い?」 Fight 「始め!」 「ッ!」 先に仕掛けたのはシン。 けれどスピード重視の代わりに軽い彼の剣は一度受けてすぐ弾かれた。 弾いたそのスピードを活かし、今度はスティングが攻撃に回る。 シンは振り下ろされたそれを真正面からまともに受けることになってしまった。 (重…っ!) 剣の重さと勢いにさらに彼の力とが合わされ、威力は数倍に達している。 手が痺れてそれから動かせない。 けれどこのまま防戦にまわるのは自分らしくない。 「んの…!」 負けん気で何とか弾き返すと、反動を利用して間合いを取った。 「…キラ、お前"教えた"な?」 今度は互角に打ち合いを始めた2人を見守りながら、ネオは玉座の隣に立つキラに声をか ける。 ちらりと見た彼は涼しい顔で微笑っていた。 「分かりますか?」 あっさり肯定を返した彼にネオは当然だと返す。 稽古をつけたこともあるネオはキラの太刀筋もよく知っていた。 「基本はザフトだが、どことなくお前に似ている。」 元々キラはオーブを基本として、アスランと過ごすことでザフト、ネオが相手をしたこと でオムニの型が混じっている。 全てを柔軟に取り入れることで自己流に育ってしまったキラの型は独特で、だからキラは 今まで誰にも教えたりしなかった。 スティングにもアウルにも、どんなに頼まれても教えたりしなかったのだ。 暗にそれを責めると、キラは不可抗力だとそんな言い訳で返してきた。 「でも教えたつもりはないですよ。僕はただアスランとイザークの代わりに相手をしてい ただけです。」 その中で彼が勝手に覚えてしまっただけ。 だから教えたわけではない、と。 「だって不公平でしょう? 彼には貴方がいるけれど、シンには誰もいないなんて。」 「…まぁそういうことにしておくか。」 「軽すぎるんだよッ!」 また弾かれ、その隙を衝かれて防戦に回される。 相手の剣は重く、このままでは体力も減らされる一方だ。 これ以上長引かせるわけにもいかなかった。 ―――勝機は一度。タイミングを外せば終わりだ。 けれどそのきっかけが掴めず、シンは壁際へと追い詰められていく。 「シン…!」 ステラはシンが負けることよりもケガをする方が心配だった。 ケガをすると痛い。 痛そうな顔をするシンを見るのはイヤ。 「シン!!」 「―――大丈夫だよ。」 思い立ったままに飛び出そうとする彼女の肩をキラがやんわり引く。 そうして浮かぶ笑顔は確信を持ったもの。 「シンを信じて。」 「…、うん。」 泣きそうになっていたステラは、余裕すら見えるそれに安心したのか力を抜いた。 キラはシンを心配していなかった。 彼が勝つと確信していたから。 毎日欠かさず行っていた早朝訓練。 めきめきと力をつけてきたシンが負けるとは思わない。 「もうすぐ勝負がつくよ。―――ほら。」 最後の一撃と、スティングが剣を振り上げた一瞬の"間"を利用して横に飛ぶ。 目標を失って慌てて方向を変えてももう遅い。 スティングが体勢を立て直す前に、シンの下からの一撃が剣の付け根に命中した。 「……!」 甲高い音と共に剣が高く飛ぶ。 宙を舞ったそれは、一回転して振ってくると石造りの床に突き刺さった。 「―――勝ったぜ。これで文句はないだろ?」 さっきとは逆にシンが相手に剣を突きつける。 勝負はそこで決まった。 「…ずっりーよな、俺には1度も教えてくれなかったくせに……」 スティングも気づいていた。 シンの太刀筋の向こうに"彼"が見えていたから。 尊敬していた。自分よりも上だったキラ。 彼ならばステラを渡しても良いと思っていたのに。 けれど、悔しいけれどキラもステラの相手にこの男を選んだのなら。 「……参りマシタ。」 しょうがないから認めてやるよ。 「シン!」 勝負が決まった途端、飛んで抱きついてきたステラをシンは慌てて受け止める。 「よかった… ケガ、してない?」 覗き込む彼女は本気で心配そうにしていて。 そんな彼女を安心させたくて、シンはいつもより殊更柔らかく微笑んだ。 「うん。してないよ。」 「ホント?」 「ホントにホント。」 だんだん笑顔になっていくステラにつられてシンもまた笑顔を深める。 2人には周りというものがすでに見えなくなっていた。 ―――とりあえず、そんなバカっプルは放っておくとして。 「さて、今度こそあちらの王に書簡を届けなきゃならんな。」 「オーブにもよろしくお願いします。」 ネオとキラは早速話を進め始める。 老臣達の耳に入る前に進めておかなければ変にややこしくなるからだ。 「ステラがお嫁に…ステラが……」 シンとステラのラブラブ(現実)からは目を逸らし、スティングは端の方で一人落ち込む。 出会って10年、大切に育ててきた妹がついに他人のものになってしまったのだ。 これが悲しまずにいられるだろうか。 「…いーかげん諦めなよ。」 それをアウルが肩を叩いて慰める。 正直言えば面倒臭いのだが、ステラは自分達で手一杯だし、ネオもキラも忙しそうで他に いないから仕方なかった。 シンとステラの仲は認められた。それで1つ目の問題は解決。 けれど、 もう1つの問題が残っていることには誰も気がついていなかった。 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- うわ。長っ! 調子に乗り過ぎました… でも楽しかったです。 あまりに楽しすぎて一気に書き上げてしまいました。 でも見直してないのでどこか変かもしれません…(汗) …ラクス様の出番がない(汗)