実りの色は赤い果実 -38-




 周りを囲んでいた風が止む。
 途端に空気が変わって、温度差に一瞬身震いした。

 南のオーブから北のオムニへ。
 森の屋敷がオーブの北に位置しているといっても、パナーニ山を挟んでさらに北にあるオ
 ムニは遠い。
 コレだけの距離を移動したのならかなりの温度差があるのは仕方がないけれど。



「さすがはレイ。ピッタリだね。」
 目の前にそびえ立つ石造りの城門を見上げてキラは感心する。
 幾度か訪れたから知っている。城門と門番の服装も、確かにオムニのもので間違いない。
 そのレイは、キラの賛辞に「ありがとうございます」と一言返すと消えてしまった。

「てゆーか、思いっきり驚かれてんだけど……」
 突然目の前に現れた彼らに門番達は目を丸くして固まっている。
 それを不憫そうに見ながらシンが呟くが、そこは笑顔で流すことにして。

「えーと、僕達は…」
「な、何者だ!?」
 話しかけようとキラが1歩踏み出すと、彼らは持っていた槍を交差させて行く手を阻む。
 その目は不審に満ちていた。

「…ま、当然言われるよなぁ。」
 何もない空間からいきなり人間が何人も現れたのだ。
 これで不審に思わなければ、門番としての資質を問われる。
 さてどう説明するかとシンが思案していると、シンの腕から離れたステラが彼らの元へと
 飛び出した。

「ただいま!」
「!? ステラ姫さまっ!?」
 見間違えるはずもない自国の姫君の登場にまた驚かされる。

 散歩と称して城内をどこでも歩き回るこの姫君は、城のほとんどの者と顔見知りだ。
 当然門番の彼らも姫君の顔は良く見知っていた。

「城内が落ち着くまでは戻られないはずでは…!?」
 彼女はまだここへ戻れる状況ではないはず。
 まだ例の伴侶探しの騒ぎは収まっていないのだ。彼らの驚きは当然だった。
「ネオとおはなししたいからかえったの。シンとキラとラクスもいっしょ。」
「「…??」」
 彼女の言っている意味が分からず、彼らが向けた視線はシン達の方。
 今彼女が言った名前と確かに数は合っているが…


「―――シン、何か身分証明になるものを。」
「あ、そうか。」
 キラに耳打ちされてハッとしたシンは、腰に佩いた剣を取って翳した。

「ザフト国王弟シン。国王にお目通り願いたい。」
 王族しか持つことが許されない各王家の紋章は、これ以上にない身分証明だ。
 さっと表情を変えた門番は慌てて敬礼を返した。
「はっ! か、かしこまりました!!」
「…では、後ろの方々は?」
 門番は後ろの2人にもおそるおそる尋ねる。
 ステラ姫にザフトの王族。とくれば、一緒にいる彼らもきっと只者ではないと容易に想像
 できた。
「これの返事をしに来たと伝えて欲しいんだけど。」
「私も同じ件でお話がありまして。」
 そう言いながら、それぞれ王家の紋章が入ったもの―――キラはシンと同じく剣の柄を、
 ラクスは指輪を彼らに見せる。
 …やっぱり只者ではなかった。

「! 今すぐ取次ぎ致します!!」
 
 続けてキラが見せたオムニ王の刻印付きの書状を見た彼らは、今度こそ大慌てで奥へと駆
 けて行った。























 正式な訪問とのことで、彼らは謁見の間へと通された。
 ただし、急な訪問だったためか、大臣以下家臣の姿は見えない。
 この扱いはある意味失礼に当たるのかもしれないが、キラ達にしてみればそちらの方が好
 都合だと黙っておくことにした。
 …あの老臣達が出てくるといろいろ厄介だとキラはよく知っていたから。



「―――よく来たな。」

 たった1人だけの供を連れて、袖の後ろから王が現れる。
 その姿が見えた途端にステラは顔をパッと明るくして シンの後ろから飛び出した。
「ネオ!」
「お帰り、ステラ。」
 首に飛びつく娘を抱きしめ返して優しい声音で言葉を返す。
 頭をポンと撫でてやれば、彼女はますます笑みを深めて擦り寄った。

(……えーと、…)

 シンはオムニに来たのも初めてで、当然現王に会ったのもこれが初めてだ。
 北の国の王らしく上質の毛皮のマントを羽織るその姿は威厳に満ちていて、雰囲気をとっ
 ても"王"の理想そのままだ。
 今ステラに向けているのは父親としての顔だが、彼の資質は先ほどの第一声で十分推し量
 れるものだった。
 …ただひとつ奇妙なのは、顔の上半分を覆う黒い仮面をしていること。
 すでに見慣れているキラ達と違い、それを初めて見たシンは驚いた表情のまま固まってし
 まっていた。


「…その仮面外しませんか? はっきり言って変です。」
 キッパリとそう言いきったのは、彼の登場時から渋い顔をしていたキラだ。
 どうやら彼はその仮面が気に喰わないらしい。
「そりゃあ お前はこっちの方が見慣れてるからだろ。」
 そう言いながらも、他に誰もいないからか彼はその仮面をあっさり外す。
 仮面までしているくらいなのだから人に見せられない傷でもあるのかと思えば、仮面の下
 から現れたのは、金髪碧眼の かなり容姿の整った男性の姿だった。

「隠す必要無いような…」
 顔には傷1つなく、ステラの父親という点からすればずいぶん若く見える。
 むしろ隠さない方が相手に好印象を与えそうなものだし、シンには彼の行為が不思議に思
 えた。
「あれね、若い頃いろいろやらかしてるから不都合なんだよ。」
 シンの呟きにキラがしれっと答える。
 大問題の発言にシンはギョッとするけれど、寛大な王は苦笑いを返しただけだった。
「人聞きの悪い。そんな風に言ったら誤解を招くじゃないか。」
「次期王が顔を隠さず大陸中まわるなんて、バカじゃないですか。」
 仮にも相手は一国の王のはず。
 それなのにこの発言は、2人が昔からの知り合いだと聞いていなければ慌てて口を塞ぐと
 ころだ。
「容赦無いなー」
 それをさらりと流すだけの、この王の性格もあるのかもしれないけれど。



「ま、俺のことはどうでもいい。今回の急な訪問、一体どうしたんだ?」
 それ一言で彼は本当に話題を終わらせてしまった。
 ネオは玉座に深く座ると足を高く組み、肘掛けに腰を下ろしたステラの頭を撫でながらキ
 ラに問う。
 キラもどうでも良いと思ったのか、それ以上は何も言わずに例の書状を広げた。
「"コレ"の返事に来ました。」
「ついにステラと結婚する気になったか?」
 面白半分に聞く彼に、キラは「まさか。」とすっぱり言い切る。

「即答か。分かってたがな。」
 それを聞いたネオの方も残念だと言いつつ表情が伴っていなかった。

 キラの隣で微笑んでいる彼女の姿を見ても、結果は自ずと分かっていたからだ。
 それに、キラが自身で選んだ道なら彼もとやかく言う気はなかった。




 想い合う相手と結ばれない運命

 そんなものは自分達だけで良いと、、、






    >>NEXT


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すみません。間を開けまくりました(汗) 書く時間がなかっただけです、ハイ…
フラマリュの過去が書きたいです。旧携帯にネタが溜まってるんですよー
別にネオ自身がこだわってたわけでもないので、数行で解決したキラの方の問題(笑)



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