実りの色は赤い果実 -35-




「…で、何を伝えに来たって?」
 散々からかわれた後、満足したカガリからようやく開放されたシンは本題へと話を戻す。
 くそぅ この双子そっくりだ…!と、内心毒づいたことはなんとか心の中に留めておいた
 けれど。

「これだよ。」
 キラに書状を手渡され、正式のものらしい上質な紙をぱらりと開く。
 そして、…目を通した内容にシンは愕然とした。
「キラがステラの伴侶候補!?」

 別におかしいことじゃない。王族であれば政略結婚なんてよくあることだし。
 むしろ年齢的にもつり合っていてお似合いだと思う。
 でも、それは他人事の場合だ。
 よりによって、ステラと、…キラだなんて。
 ……敵わないじゃないか。


「…?」
 シンの様子を見ても意味が分からないステラはきょとんとして首を傾げる。
「はん、りょ…? って、なに??」
 普段使われるような言葉ではないから聞き覚えもなかったらしい。
「伴侶――― つまりキラとステラさんが結婚するということですわ。」
 複雑な心境故に言葉を詰まらせたシンの代わりに ラクスが優しく答えてくれた。
「けっこ、ん…」
 結婚の意味はさすがに分かっていたらしく、口の中で転がすように数度呟く。
 そしてまだ抱きついたままだったキラをじーっと見上げた。

「候補、だろ?」
 それを機嫌を斜め35度に傾けながら見ていたシンがそこを強調してはっきり言い放つ。
 まだ候補だ、決定じゃない。それはシンにとって唯一の希望という名の砦だ。
「だが最有力だ。あっちはほぼキラで決定しているらしい。」
 対するようにアスランが告げたのは客観的な事実。
 そこに何の意図もないのは分かったが、シンを凹ませるのには十分だった。

 オムニ王が選んだのは、"シン"ではなく"キラ"。
 それにキラだって、正式な申し出を断るなんてそう簡単にできるはずがない。

 キラはどうするつもりなんだろう…?



「さて。どうする?」
 面白がって聞いたのはカガリ。
 彼女のその言葉は、何故か、"シン"に向けられていた。
「え?」
 戸惑う彼にカガリの方が不思議そうな顔をする。
 シンにしてみれば彼女の言葉の方が不思議なのだが。
「何もしないのか? ―――何もしないまま、諦めるんだな?」

 彼女の言葉は深くシンの胸に突き刺さった。
 それは確かに今、シン自身が一瞬ではあれ考えたことだ。
 けれど、それを他人に言われるとどうしてこんなに苦しいんだろう。

「誰が…ッ」
「うん? それで?」
 無意識に出た言葉に カガリが面白そうに返してくる。
 じっと自分を見つめる挑戦的な視線。それを受けたシンは 逆にスッと頭が冷えた。

 誰が、誰を諦めるって?

「―――直談判してやる。」

 ステラを誰にも渡したくない。
 それがたとえキラでも。
 どんなに自分が不利だったとしても敵わなくても。

 国王が決めた相手がいたからと、それでステラを諦めるなんて出来ないから。


 シンの言葉にカガリは満足そうに笑う。
 他の面々も、よく分かっていないステラ以外はよく言ったとばかりに笑顔を見せた。




「ステラさん。」
「?」
 そんな中、1人きょとんとしていた彼女に視線を合わせてラクスが問う。
「確認ですわ。ステラさんは結婚されるなら、キラとシンではどちらがよろしいですか?」
「キラと、シン……?」
 彼女の言葉を受けて、ステラは2人を交互に見る。


 ここに来る少し前、「結婚して欲しい」と言ってステラのところに来る人が何人もいた。
 スティングは「ダメだ」と言ってその人達と決闘して、アウルは呆れて見ていて。
 ネオは「本当に好きな人と結婚して欲しい」と言った。
 その時はあまり意味が分かっていなかったけれど。…でも 今なら分かる。

 "特別に好きだということですわ。"

 ラクスが教えてくれたこと。
 初めて知った "特別に誰かを好きになること"。



「…シン。」
 キラから離れて立ち上がったステラは、とてとてとソファの後ろに回ってシンの腕に抱き
 つく。
「ステラは、シンがいい。」
 シンは驚いて固まっていたけれど、それを見ながらキラがニッコリ笑った。

「決定だね。」








 目的地、オムニ王宮。
 目標、ステラとの仲を認めてもらうこと。
 相手はオムニの国王でステラのお父さんでもある人。


 …勝算も戦略も何もないけれど。

 ステラは俺を選んでくれた。
 だったら、引く理由なんてないはず。



 シンがステラを見ると 彼女は嬉しそうに笑顔を見せる。

 それに勇気をもらって、いざオムニへ―――!






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カガリが出張ったのは予想外です。漢らしいカガリが大好きです。
そんな感じでシンステもどさくさ紛れにCP成立(笑)



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