実りの色は赤い果実 -34-




 まさかこんな所で兄弟が再会するなんて思わなかったから心底驚いてしまった。




「どうしてシンがここにいるんだ?」
 ここはキラの屋敷で、シンはザフトにいるはずで。面識も無いはずの2人がこうして自然
 に一緒にいるのも不思議な話だ。
 そもそも、シンがここにいるなんて話はキラから一言も聞いていなかった。
 ここに来るまで数度キラとは鳩を使って手紙のやり取りをしているのにも関わらず、だ。
 まぁ、自分達の反応を満足げに笑んで見ているから、たぶんこの反応を見たいがためにわ
 ざと言わなかったんだろう。コイツはそういう奴だ。
 長い付き合いでその辺は十分知っているし、今更言って直るものでもないので敢えて何も
 言わないことにした。

 …それにしても、と アスランはシンをじっと見る。


 久しぶりに会った弟は、自分が知っている彼と少し違って見えた。
 身長はもちろん伸びているようだが、アスランが感じたのはそういう外見的なものではな
 く、もっと内面的なものの話だ。
 完全にとはいえないが、少し子どもっぽさが抜けた気がする。

 何か、変わるような出来事があったのだろうか…?



「そっちこそ。オーブにいるんじゃなかったのかよ。」
 同様に知らされてなかったらしいシンも、納得のいかない顔をしてアスランを睨むように
 見ていて。
 それは俺じゃなくてキラに向けるものじゃないんだろうかと思いつつ、オーブに行ったき
 り戻らない自分にも非はあるからそれにはそれ以上触れずにおいた。
「俺はキラに伝えることがあったからカガリと一緒に来たんだ。…そういえば、イザーク
 はこのことを知っているのか?」
「…あ。」
 もう1人の兄の名前を聞いた途端、シンの顔がさっと青褪める。
 まさかそんなことはないだろうと思って言ったつもりが、どうやら何も言っていないらし
 い。
「お前な…」

「―――大丈夫だよ。」

 呆れたアスランが説教を始める前に 横からフォローを入れたのはキラだった。
「僕がイザークには伝えたから。滞在の許可もちゃんと得てるよ。」
「な、なんだぁ…」
 ホッとしたーとシンが胸を撫で下ろすと、「そういう問題じゃないだろう」とアスランは
 呆れる。
 2人のこの打ち解けようからするとかなりの長期滞在だということも容易に想像がついた
 からだ。
「…お前はもう少し王弟としての自覚を」


「シンー? キラー?」

「あ! やべ!」
 シンが開けっ放しにしていた扉の向こうから少女の声が聞こえると、シンはアスランの声
 はもう聞こえないかのごとく あっという間に声の方へと姿を消す。
 今まで何にしても兄が1番だったシンには有り得ないその行動に呆気にとられたアスラン
 を余所に、少しして シンは1人の少女を伴って戻ってきた。



「キラ!」
 シンと同じくらいの年頃の少女はキラを見つけると走ってきて飛びつく。
「ステラにもできたの!」
 嬉しそうに語る少女は今のところキラしか目に入っていないらしい。
 キラの方はといえば、行動は特に問題視していないらしく、腰に巻きついてきた彼女の金
 の髪を優しく撫でてやりながら 言葉の方の意味が分からないと首を傾げた。
「何ができたの?」
「治療だよ。この前ステラがケガした小鳥を拾ってきただろ? キラのようにやるって言う
 から、だから一緒に俺も手伝って。」
「そっか。」
 シンの補足説明を聞いたキラがえらいねーと笑顔でもっと撫でると、彼女はますます上機
 嫌で笑う。
 そんな兄妹というより親子っぽいやり取りに和んでいるのはキラ達だけで、向かいにいる
 カガリとアスランは聞き間違いではない名にぎょっとした。

「ちょっと待て。今"ステラ"って…」
「うん。オムニの姫君だよ。」
 あっさりと肯定されてしまい、2人揃って頭を抱える。
 シンだけでも驚いたのにまさかもう1人いたとは。
「どうしてここに彼女までいるんだ!?」
 あまりの驚きにカガリは思わず立ち上がって叫び、それに驚いたステラがびくりと震えて
 縮こまってしまった。
 彼女の怯えた瞳に気づいたカガリは慌てて座り直し、彼女をあやすキラに視線で問う。
「王に頼まれて一時預かってるんだ。―――そしてシンが帰らないのは彼女のためだよ。」

「「………。」」
 含みを持たせたキラの笑顔を見た2人は、そのまま後ろのシンに視線を移す。
 今の言葉で何故か全部悟れてしまった。
「な、なんだよ!?」
 2対の瞳に無言で見つめられ、居心地の悪さに耐え切れずに怒鳴る。
 しかし 当たり前だがそれで怯むような2人ではなかった。
「おめでとう、シン。」
 お前にもようやく春が来たのか。
 この上なく爽やかな笑顔で兄からそう言われたシンは、いろいろなことへの恥ずかしさに
 カッと顔を真っ赤に染める。
「だぁあああっ やめろ、その言い方! その笑顔がむかつく!」
「照れるなよ。」
「照れてない!」
 完全にからかう姿勢でカガリはにんまり笑っている。
 そしてそれを受け入れられるほどシンはまだ大人ではなかった。
 けれどどんなに叫んだところで相手には暖簾に腕押し状態だ。

「良かった。一人置いてきたことを心配していたんだ。でももう安心だな。」
「ッッ!」
 トドメはアスランの本気で安堵した表情と言葉。
 素でそんなことを言われてしまっては何も言い返せず、後はカガリの玩具になるだけだっ
 た。






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どうしてアスラン視点になったんだろう…
ちなみにカガリとシンはほぼ初対面です(笑)



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