実りの色は赤い果実 -31-




 庭園の中には蔦を模した精緻な細工の白く瀟洒な東屋もあるが、2人が遊ぶ時は脇にある
 小庭園の芝生の上が多かった。
 そこに座り込んで日向ぼっこをしたり、時には本を持ち込んで読書をしたり。
 たまに キラかラクスが呼びに来るまで昼寝をすることもあった。

 大好きなその場所で、シンとステラはその日の気分で様々に過ごす。


 ―――そして、今日の2人の興味は手近に咲いた花たちのようだった。






「ステラは赤と白はどっちが好き?」
 右手と左手にそれぞれバラの花を一輪持ってシンが聞くとステラは両方を見比べて考え込
 む。
 咲いている中でも特にキレイな花の形。棘がすでに取り去ってあるのもシンの彼女への配
 慮だ。
「白!」
「そっか。じゃあ はい、こっち。」
 元気に答えた彼女に白を手渡し、もう一方は自分の胸に差す。
 それを見たステラが自分もと強請ったので、茎を短く切って髪に差してやった。
「ありがとう! シン、だいすき!!」

(ま、まぶしすぎる…ッッ)
 笑顔に見事にやられながら、抱きついてくる彼女からこっそり視線を逸らす。
 可愛すぎて眩しすぎて、これ以上直視したら心臓が壊れると思った。


 言葉にも行動にも 他意がないのは十分分かっている。
 彼女の"好意"はシンのそれとは違う。
 自覚したのはかなり前だから 随分冷静な考えもできるようになっていた。

 でも、最初の頃に比べればずっと仲良くなったし。最近はシンとばかり一緒にいるし。
 少しくらいは期待してもいいかもと思う。




「あ、あのさっ」
「?」
 突然正面に向き直ると、きょとんとしているステラの両肩をがっしと掴む。
 ここは勢いでいくしかない!

「キラと俺はどっちが好き!?」
「キラと、シン…?」
 小首を傾げたステラの返答は少し間が空いた。

「ステラ、キラすき。」

「そっか…」
 負けた、とシンは凹む。
 付き合いの長さ故か、やっぱりキラには勝てなかった。

「キラはふわふわする。ネオとおんなじ。だからすき。」
 彼女特有の感覚的な理由は、ある意味的確でシンも何となく納得してしまう。
 ステラがキラに求めているのは父親のような優しさだ。
 だからキラは彼女にベタ甘だし、そんな彼にステラも懐くのだろう。
 別にステラの父親になりたいわけじゃないけれど、壁は大きいなーと溜め息をついたとき、
 彼女は「シンは、」と付け足した。

「…シンは、どきどきする。すきだけどいたくてこわい。」
「え?」
 自身の胸を抑えて言葉を紡ぐステラはどこか戸惑った様子でシンを見上げる。
「かんがえるとくるしくなる。ステラ、びょうき?」

「〜〜〜ッ!!?」
 その瞳を潤ませた上目遣いも破壊力抜群だが、彼女の言葉はそれ以上だった。
 シンは湯気が出そうなほど耳まで真っ赤にして思わず口元を押さえる。


(…いや、ちょっと待て。何だそれ。)

 完全に頭が混乱していた。

(今の発言は何だ? 幻覚か? 夢なのか??)

 けれど さっきの言葉は確かに彼女の口から出た。それは事実で。


「シン?」
 砂糖菓子のように甘い声。
 その声で、彼女はシンの心に爆弾を投下させたのだ。





「…… それ、病気じゃない、と、思う…」
 なんとか搾り出した回答は、けれど彼女の疑問の解消には至らなかった。
「じゃあ なに?」
 何も知らない少女はストレートに疑問をぶつけてくる。
 彼女はただ知りたいだけなのだろうが、それを自分に答えろというのは無理な話だ。

「〜〜〜それはキラかラクスに聞いて!」
「どうして?」
「どうしても!!」


(俺が言えるか! 間違ってたら間抜けだし!)




 …でも、期待はして良いのかもしれない。


 ほんの少しだけ、明るい未来が見えた…ような気がした。






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ある意味バカっプルなシンステでした。
ちょっと遊びすぎて長くなったので今回も前後編ぶった切りです。



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