実りの色は赤い果実 -30-
シンに促されてステラは静かにラクスの背後にまわる。 そして、そっと彼女の背中を押した。 …少し 強めに。 「きゃ…っ」 「!?」 突然のことにバランスを崩して倒れこんだラクスを 咄嗟にキラが受け止める。 至近距離で目が合って、互いに一瞬だけ固まって。 …すぐに離れるかと思った熱は 逆に彼女を包み込んだ。 (え……?) 抱きしめられている。それに気づいたラクスはビックリしてしまって。 離れようとしたけれど さらに強く拘束されてしまった。 「ごめん。…ずっと君に触れるのが怖かった。」 夢かと思った。 けれど、痛いほど強く脈打つ心臓は確かな現実を伝えていて。 「触れたら消えてしまいそうで… 夢ではいつも君が消えてしまうから。」 キラの息遣い、キラの心臓の音、生きている音がこんなに近い。 ―――それならキラにも自分の音が聞こえているのだろうか。 恥ずかしいけれど、離れられない。温かく優しく 抗いがたい拘束に囚われて。 「君のことを好きになる度に不安になっていった。君はいつまでここにいてくれるんだろ うって。」 「……?」 信じられないひとつの言葉。 もう一度頭の中で反芻して、それでも信じられなくて。 「すき…?」 力を緩めてもらえないから、彼の顔を見ることはできない。 当然のことのように言われてしまって、それが本気なのかも分からない。 「―――うん。君のことが好きだよ。」 けれど、そんなラクスの心配を余所にあっさりと肯定したキラは、ようやく拘束の力を緩 めてラクスを見た。 たった今告白したとは思えないほどキレイなキレイな笑顔。 …でも、素直に信じるには片想いの時間が長すぎて。 「……フレイ、さんのことは…?」 キラのかつての婚約者の名前。 キラを庇って命を落とし、今もキラの心に住み続ける女性。 彼女の口から出たその名に、キラは「やっぱり誤解してたんだ」と苦笑いする。 「彼女のことは忘れないよ。たとえ他の人が忘れても 僕だけは覚えていなくちゃいけない と思う。」 ずきりと胸の奥が痛む。 彼女はやはりキラにとって特別なのだと。 泣きそうになったラクスの頬にキラがゆっくり触れた。 「だって… 大事な、友達のことだから。」 「え……?」 「2年前――― フレイに許してもらえた気がするあの日から、彼女はずっと大事な友達だ と思ってる。」 ずっと彼女は罪悪の対象だった。 守れなかったことを悔やんで、最期の夢を何度も見て。 …けれどあの日、ニコルが見せてくれた彼女のキオク。 あの日から彼女は傷じゃなくて思い出になった。 今は笑顔しか思い出せない。 「本当は覚悟が決まるまで、君に言う気はなかったんだけど… 誤解されたままなのも嫌だ し。」 何の"覚悟"かはラクスには分からない。 でも彼は、そのこと以上にラクスのことの方が重要だと。 …これを一体どう解釈すれば良いのだろう。 頭では分かっても、夢のようなことに感情が追いついていかなくて。 「逃げていてばかりでゴメン。それでもまだ君の気持ちが変わっていないのなら―――」 触れていた場所から離れていく彼の手を反射的に引きとめて ラクスはその手に頬を寄せ る。 細く見えて本当は自分よりも大きな手のひら。その熱に触れてやっと現実を実感できた気 がする。 「私の想いは変わりませんわ。星空の下で誓ったあの時のままです。」 2年越しの告白の続き。彼女の返事にキラは嬉しそうに笑んだ。 キラの顔がゆっくりと近づいてくる。 そっと目を閉じると ふんわりとやさしいキスが唇に振ってきた。 次に目を開けたときには、最上級の笑顔がそこにあって――― 「待っていてくれてありがとう…」 「せいこう?」 「うん、大成功。ステラのおかげだ。」 2人から少しだけ離れた場所で、2人はコソコソと頭を寄せ合う。 ステラにラクスとこの部屋に篭ってもらって キラの本心を知ろうと思った。 予想以上にキラがうろたえてちょっと驚いたけれど、それにしてもこんなに上手くいくと は思わなかった。 けれど、これでもう 見ている方が切なくなるようなあんな表情を見なくて済むかと思う とホッとする。 この屋敷には笑顔がとても似合うから。哀しい顔は似合わない。 「よかったー」 まるで自分のことのように喜ぶステラはにこにこ顔で2人を見遣る。 人の悲しみも自分のもののように受け入れる素直な少女は 喜びも同じだったらしい。 「ね、シン!」 (あー もう可愛すぎてどうしよう……) 完全な惚気は心のうちに留めておいて、、 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- ぶった切り後半です。 そしてキララク、おめでとう。 まだ付き合ってなかったんかい!とツッコミを入れたのは私です。 あーこれでやっと連載も後半部に入れます。長かった…!