実りの色は赤い果実 -29-




 前を歩くシンが1つの部屋の前で立ち止まる。

 そこは普段は使っていない空き部屋で、そこに何があるのかとキラは不思議に思った。
 付いて来いと言われて一緒に来たが どうしてここに連れてこられたのかはまだ分からな
 い。
 そんなキラの心情など気にも止めず彼がそこの扉を開けると、中から明るい話し声が漏れ
 聞こえてきた。

 ―――そしてそれは、キラもよく知った声で、、


「ステラ、できあがった?」
 先に入ったシンが真っ先に見つけた少女に声をかけると、彼女はぴょんと椅子から降りて
 駆け足でやって来る。
「シン! みて!!」
 そうして嬉しそうに彼女が差し出した白い布にはいくつもの色鮮やかな花が配され、まる
 で彼女のように可愛らしい。
 …ちなみに、机の上に高く積まれた白い布の塊は見ないことにした。
「頑張ったじゃん。」
「うん!」
 シンが頭を撫でて褒めると、よほど嬉しかったのかニコニコ笑顔で頭を手のひらにすり寄
 せてくる。
 恥ずかしいが手を退けることもできずにされるがままのシンは、ここに来た当初の目的を
 すっかり忘れていた。





「ラク ス…?」
 まだ扉前に突っ立っていたキラは唖然としてそれだけを何とか呟く。
 現実に頭がまだ追いついていなかった。
「はい?」
「どうして、ここ、に…?」
 振り向いて、応える声を聞いて、優雅な所作で立ち上がるその姿を見ても。まだ。
 どこかおかしいキラの態度に気づきながらも さすがにその意味までは組めなかったらし
 く、ラクスはキラの問いかけに首を傾げた。

「ステラさんが刺繍をしてみたいとおっしゃったので… それが何か?」
「そ、そう…」
 そこでようやく肩の力が抜けた。…ホッとしたというよりは脱力してしまって。
 壁についた自分の手が小さく震えていたことには気づいていないフリをした。

 キラが動かない代わりにラクスの方から近づいてくる。
 けれど キラに話しかける前に彼女は隣のステラの方ににこりと微笑みかけ、するとステ
 ラもこくりと頷いてシンの手から離れた。

「ステラ?」
「シンにあげる!」
 持っていたそれを差し出されてシンは心底驚く。
「え!? で、でも最初はお父さんにあげるって…」
 欲目を抜いても上手にできたそれを受け取るべきは彼女の父親のはずで。
 それは彼女が1番最初に言っていたことだ。
 だから自分は失敗作でも良いから欲しいな〜なんて、ちょっと思ったりもしたけれど。

「いちばんはシンがいいのッ」

 必死な様子で言う いつになく真剣な顔。
 どうしようもないくらい可愛いそれと言葉に シンは思いっきり心臓を打ち抜かれた。

「ありが と…」
 おそるおそる受け取って、そっと撫でてみる。
 どうしようすごく嬉しい。
 他に気の利いた言葉も浮かばなくて、ただありがとうをくり返すしかできないけれど。
 それに彼女は満足そうに微笑っていたから。

 本当のお礼はもう少し待って。







 そのやりとりに微笑みながら ラクスも手に持っていたものをキラへと差し出す。
「こちらはキラに。」
 真白いハンカチに刺繍された大輪のバラはキラの瞳と同じ色。
 色の濃淡で微細な光と影を表現しているそれは、通常のものより若干大きめの花だった。
「ステラさんに教えている間に少々派手になってしまいましたけれど。ご迷惑ならば捨て
 てしまっても構いま」
「迷惑なんかじゃないよ。」
 ラクスの言葉を遮ってまでキッパリと否定されて ラクスは目を丸くする。
 皺が寄らないように丁寧にたたんで、キラは嘘のない瞳でそれを見つめていた。
「嬉しいよ。君がくれるものならなんでも。」
 そんなストレートな言葉も初めて聞いた。
 キラはいつも何も言わなかったから。
 だから、喜んでくれているかも分からないまま、ただの自己満足のつもりで。
「ですが、1度も使われたところを見たことが…」
「勿体無くて使えないよ。全部大切に仕舞ってる。」
 戸惑いがちに尋ねた問いにもはっきりとした答えが返ってくる。
 それにラクスは混乱してしまった。

 今日のキラは一体どうしたのだろう。
 有り得ないほど真っ直ぐに気持ちを伝えてくる。
 頬に熱が集まるのを感じながら ラクスは何を言えば良いのか迷っていた。





 ラクスの後ろで 2人はシーッとお互いに人差し指を立てる。
 キラとラクスの為の作戦はあと1つ。
 シンが目で促すと、ステラはラクスの背後に近づいて、、、

 ―――そっと彼女の背中を押した。






    >>NEXT


---------------------------------------------------------------------


何故かシンステがいちゃつき始めました…(苦笑)
てか お子様カップル楽しすぎですーv

次回でようやくキララクも完結です。



BACK