実りの色は赤い果実 -23-
「じゃあ、ずっと逃げてたのもアスランが理由だったんだ。」 勉強自体は嫌いじゃなさそうなのに不思議だったんだ と、ようやく納得できた様子でキ ラは言った。 あの後きちんと仲直りしたシンとキラは前と変わらない関係を保てている。 …いや、何でも話せるようになった分だけ 以前より仲は良くなったのかもしれない。 それもきっとステラのおかげで、仲違いが変に長引かなかったからだと思う。 「どうせ子どもだよ!!」 キラは彼の言葉を反芻しただけなのに、シンは何故か拗ねたように怒鳴って 乱暴に愛馬 の背に鞍を乗せた。 「…何も言ってないのに。」 心外だと返しながら、キラも同じように白毛の馬に鞍を乗せて準備を整える。 今日はあの丘まで遠乗りにでかけようと 2人は昨日約束していたのだった。 「馬鹿なことしてるって分かってたんだ。でも、もしかしたらって思ったら…」 対照的な色をした愛馬を並べて歩く途中、シンは独り言のように呟く。 勉強をしなかったら叱りにきてくれるかもしれない。 心配だからと傍にいてくれるかもしれない。 そんな、子どもみたいな考えでみんなに迷惑をかけて。 「…気持ちは分かるよ。逃げても意味がないって分かってても…… どうしようもないんだ よね。」 どこか遠い目をして言った彼のそれは"共感"などではなく、彼も同じ思いをした"経験"な のだと その時シンは悟ってしまった。 オーブの王子であるはずのキラがこんな森の中にいるのも、何か複雑な理由があるのだろ う。 キラが何から逃げているのかは分からないけれど、どこか似ている自分達だから。何とな く分かってしまうのだ。 「てかさ、キラはなんで自分のこと隠してたんだ?」 知った途端怒り狂ってしまったのは自分だが、いつかは知られるそれを敢えて隠していた 様子のキラが気になった。 だって、ステラのことはすぐに教えてくれたのに。 「え、僕の正体知ったら帰っちゃうと思ってたから。ある程度勉強終わるまでは内緒の方 が良いかなって。」 「……オイ、」 前半は図星だからともかく、後半は納得いかない。 そこまで心配されている自分も問題なんだろうけれど、それが理由ってどうなんだ。アン タは俺の家庭教師かなんかかと。 そう思ってぶすくれてみせると、「まぁ それは冗談だけど。」と苦笑いで付け足された。 「ステラがね、君といる時とっても楽しそうなんだ。だから、少しでも長く一緒にいてほ しくて。」 ゴメンねと言われて言葉を失った。 ―――"ステラ"。それは今一番大切に思う少女の名前だ。 万年反抗期と人に言われる自分が驚くほど素直になれたのは彼女のおかげ。 彼女が素直な気持ちをぶつけてくれたから、シンも素直に返すことができた。 あの時あの場に彼女がいなかったら キラとはあのままずっとすれ違ったままだっただろ う。 今も思い出す あの感覚。 抱きしめられたとき、お菓子みたいな甘い香りがした。 とても温かくて 柔らかくて――… 「―――ッ!!」 あのときの感触をリアルに思い出して真っ赤になる。 違うそうじゃなくて、と慌てて思考を切り替えようとするけれど。 浮かんだのは彼女の笑顔。特に手を繋ぐと いつもとても嬉しそうに笑ってくれた。 (……そういえば手のひらも柔らかかったな…って、だからそうじゃなくて!!) 忘れようとジタバタと暴れる彼に驚いたのはキラだ。 一人で突然百面相を始めてしまったシンを不審に思って首を傾げた。 「シン? どうしたの?」 「えっ!? いや、なんでもないッ!!」 不思議そうに尋ねてくるキラに思いっきり首を振って否定する。 「…、耳まで真っ赤になって言われても説得力無いよ。」 呆れて言われて、でも何も言えずに口をパクパクさせるしかできなかった。 シンの様子から何かを悟ったのか キラはそれ以上何も聞かずにいてくれたけど。 「シン!」 姿が見えた瞬間にステラはパッと表情を明るくする。 それから駆けだした彼女がシンの首に押し倒す勢いで飛びつくまではすっかり見慣れてし まった日常風景。 「―――ッッ」 けれど、抱きつかれてまた思い出したシンは真っ赤になって固まってしまった。 せっかく最近は慣れてきたのにこれではふりだしに戻ったようなものだ。 不思議そうな顔をするもののステラに離れる気はないらしく、おかげでいつまで経っても シンも元に戻れなかった。 「ラクス、留守番お願いね。」 それを横目に見やりながら、キラはラクスに鍵を預ける。 実際ラクスがそれを使うことはないのだが、一応の形のようなものだった。 「楽しんでいらしてください。……ところで、シンはどうされたのですか?」 ガッチガチに固まったシンをラクスも心配そうに見る。 けれど、問われたキラにも理由はさっぱり分からなくて。 「それが僕にもよく分からないけど… たぶんしばらくすれば元に戻るよ。」 大好きな遠乗りに出掛ければたぶんシンの調子も戻るだろう。 そんな気楽な考えで、キラは鉄柵の門を押し開けた。 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- シンを中心に据えるとどうしてもラクスの存在が薄くなりますね… てゆーかシンとキラが仲良すぎてどうしようかなという感じです。この話はノーマルCPよね?と自問してみたり(オイ) 本当はもう少し仲悪くさせるはずだったんですけど。ダメだ、すっかり懐いてしまってる…