実りの色は赤い果実 -22-




(シン…?)
 回廊を走り抜けながら 見失ってしまった後ろ姿を探す。

(シン、どこ―――…?)

 嫌いだと叫んだシンが1番泣きそうな顔をしていた。
 言われたキラより傷ついてるみたいだった。


 …ひとりはさびしい。
 ネオに会う前のステラが知らなかったその気持ちは、知ってしまった今は泣きたくなるく
 らい嫌なこと。
 シンもきっと一緒だと思う。
 だから、ステラはシンを探している。


「いた…!」
 体力に意外に自信があるステラの息もさすがに上がってきた頃、裏庭の木の下に座り込む
 彼の姿を見つけた。











 あんなタンカを切った後だ。このまま屋敷を出てしまっても良かった。
 でも、そうするにはここは居心地が良すぎた。

 大嫌いな"オーブの王子"は許せない。
 でも、"キラ"のことは嫌いじゃなかった。むしろその逆。

 どうすれば良いのか分からない。嫌えば良いのか、許せば良いのか。
 …分からなかったから。

 どこにも行けず、毎朝キラと稽古していたここに腰を下ろして。そして動けなくなってい
 た。



「シン……」
 ふわりと、俯いていたシンを温かさが包み込む。

「ステラ、シン すき。」
 頭を抱え込まれるように抱きしめられて、降ってくるのはたどたどしくて可愛い声。

「キラもすき。みんな、いっしょがいい。」
 純粋な白い言葉は雪のように心に降り積もる。けれど言葉の温かさは春のよう。

「だから、ケンカはいや。…なかなおり、して。ね?」
 それは心の最奥まで染み渡り、頑ななシンの心をも解かしだした。




「……分かってる。アスランが帰らないのはオーブのためだけじゃないってことも。…イ
 ザークの立場を守るためでもあるって…… 知ってるんだ。」
 規則正しく脈打つ音に安堵感を覚えながら、シンは独り言のようにポツリと呟く。

 2年前、当時王だった父はアスランを世継ぎにしようとした。
 それはアスランがはっきり突っぱねたことで無効になり、その場で解決したのだが。
 王宮にはその時の影響がまだ残っている。
 それを知っているから、アスランは以前よりさらに王宮に寄り付かなくなった。
 シンももう子どもではないし さすがにそれくらい分かっている。

「…でも、取られたみたいで嫌だったんだ。いつだってアスランは オーブの話ばかりして
 たから。」
 弟の俺より幼馴染のその双子の方が大事なのかって… ヤキモチだったんだ。

 自覚はしていた、理解してもいた。
 ただ、認めたくなかった。
 だってこんな感情は幼い子どもが持つようなものだったから。

 でも、一度認めてしまえば逆に落ち着くことができた。
 すんなり受け入れられるような余裕すら心に生まれている。
 ―――こんなに簡単だったのに、随分時間がかかってしまったなと内心で苦笑いした。



「―――ありがとう、ステラ。すっきりした。」
 声が軽くなったことに気づいたのか、ステラも身を離してシンの顔を覗き込んできた。
「なかなおり?」
「うん。今からキラに謝りに行くよ。」
 ステラににこりと笑いかけると彼女も嬉しそうに笑み返す。
 彼女の笑顔は胸の中に明かりが灯るみたいに温かくて優しい。
 それに背中を押されるように立ち上がると、膝立ちだった彼女も一緒に立ち上がって。

「ステラもいく。」

 寄り添うようにしてぎゅっと手を繋がれた。
「ッ!?」
 手を繋ぐのなんて初めてじゃないはずなのに、その手の柔らかさに 突然どくんと心臓が
 高鳴る。

「みんないっしょ。ステラ、うれしい。」
「う、うん…」
 …おかしい。何故かさっきみたいに心が落ち着かない。逆に動悸は激しくなるばかり。
 さっきと同じはずなのに、彼女の笑顔がキラキラと輝いて見えた。

 …心に余裕ができた分だけ、もう1つの気持ちにも気づいてしまったようだ。



(ヤバイ、かも…)
 それ以上は彼女の顔がまともに見れなくて、シンは不自然に視線を空へと逸らす。


 …鈍くない自分が 今はちょっとだけ恨めしかった。






    >>NEXT


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こーのラッキースケベ!! …さあ、どこのことでしょう(笑)
えーとステラにギュッとされるとですね、彼女の心臓の音が聞こえるわけで。
…つまりはそういうことなのです。(何が)

さて、まだもう少し夢見の森組で遊びます。
シンステーv (キララクも書きたい…)



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