実りの色は赤い果実 -21-
"食事はいつもみんな一緒で"というここの家主の妙なポリシーの下、今日も4人揃っての 夕食の席。 その日の話題はシンの遠乗りだった。 「見晴らしの丘って勝手に呼んでんだけど、すごく眺めが良いんだ。」 いつもどこに行くのかという問いにシンは上機嫌で答える。 この屋敷に来てからは1度も門の外に出ていないが、本来彼は馬に乗るのが好きだった。 もちろん馬も大好きで、今でも愛馬の世話を自分で毎日こなしているほどだ。 「それってどの辺?」 「塔からも見えるヤツ。ここからだと北側になるかな。」 シンの説明を受けて ああアレかと心当たりに至ったキラが手を叩く。 「ザフトとの国境近くのあの高台だね。まだ行ったことないけど確かに気持ち良さそう。」 あれ?とそこでシンは疑問を持った。 「ここはザフト領じゃなかったのか?」 ずっとそう思っていた。 ステラと出会った場所からこの屋敷までかなり歩きはしたが、それでもまだ国内だと思っ ていたのだ。 ここから一番近い首都はザフトのディセンベルだし、馬をとばせば往復でも半日足らず。 けれど、ここがザフトじゃないなら…? その先は考えたくない。何となく嫌な予感がした。 「うん。位置的にはオーブの領内になるよ。」 「オーブ…?」 その名を聞いた途端シンの表情が変わる。 よりによって…… 一番安心できる場所が、まさか一番――― 「…シンはオーブが嫌い?」 嫌悪感を露わにする彼に、キラは静かに問うた。 「―――嫌い…? 決まってんだろ。俺は、オーブなんか大っ嫌いだ!!」 感情のままに叫んだ言葉はやけに響いて気まずさを増す。 勢いで立ち上がったシンに真正面から否定を受けたキラは、哀しそうな寂しそうな顔でシ ンを見ていた。 「どうして?」 「そ、それは……っ」 凪いだ海のような声にシンは言葉を詰まらせる。 理由なんて言えなかった。あまりに子ども過ぎて。 「…大好きな兄を取られてしまうから?」 「っ…!?」 代わりに答えたのもキラ。 いきなり核心に触れられてギクリとする。完全な図星だった。 「アスランもずっと気遣ってたよ。残してきた弟が心配だって。」 兄の名前をとても馴染んだもののように 彼は自然と口に出す。 そしてそれは2人を旧知の仲だと知らしめるもので。 「 いつかオーブの美しい景色を見せてあげたいけど シンはオーブが嫌いだから。嫌いな 理由は自分にあって、それはとても哀しいことだって。」 「…アンタ 本当に何者なんだ?」 アスランの名を気軽に口にし、かなり深いところまで知っている口振りで話す。 まるで家族か親友でもあるかのように。 「…アスランの、親友って言ったら良いのかな。」 シンの疑問に少し躊躇う気配を見せたキラは、困った顔で真実を告げた。 『オーブにはかけがえのない親友と、守りたい大切な子がいるんだ。』 2年前にオーブの姫と婚約し、そのまま帰って来ない兄の言葉を思い出す。 …まさか、 「オーブの王子か…!?」 「今は違うけどね。」 ようやく知れたキラの正体。 でも、そんな答えなら知りたくもなかった。 「そんなん関係ないだろ…っ! アンタ達がいるから アスランは国を出てったんじゃない か!!」 「シン…!?」 椅子を倒したのにも構わずに部屋を飛び出したシンをステラが慌てて追いかける。 2人の姿が扉の向こうに消え、そこで我に返ったキラも続こうとしたが、立ち上がる前に ラクスに止められた。 「キラが行けばシンはますます反発します。」 久々に焦っている様子のキラを宥め、ラクスは再び椅子に深く座らせる。 シンの性格をよく分かっているキラは何も言えなくなって、傍らに立つ彼女を心配そうに 見上げた。 こうなることを知っていたから告げなかった。 シンがどれだけ兄を好きかも知っていたから、教えることができなかった。 泣きそうな心地になるキラとは逆に、ラクスは大丈夫だと微笑む。 「ここは彼女に任せてみましょう。」 誰よりもシンを優先して追いかけた、何かに目覚め始めた姫君に。 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- ここを書きたいがために、今までシンにキラの正体を教えてませんでした。 そしてシンはブラコンです、はい。 ラクスは少ししか出てませんが… なんというか男らしい方ですね…(苦笑) 次回はシンステです。もうずっと書きたかったんです!