実りの色は赤い果実 -16-
「はい、ここまで。」 キラがパタンと本を閉じたのと同時に、力が抜けたシンは机に突っ伏す。 思った以上に辛かった。 3時間近くも机に座っていたなんて、自分にしてみればとんでもない快挙だ。 「よくやったね。約束通り 1つだけ質問して良いよ。」 キラは笑いながら宥めるようにシンの肩を叩く。 そうだ、その為に頑張ったのだ。 キラの言葉にシンはがばりと顔を上げる。 知識量を測りたいのもあったが、それでもこんなご褒美がなければやってられなかった。 …ずっと不思議に思ってたこと。 いつか誰かに聞きたいと思っていたこと。 それはキラのことではなく、―――ステラのことだった。 「…ステラはなんであんなしゃべり方なんだ?」 「え?」 予想外の質問だったのか、キラは一瞬きょとんとした。 けれどそれはすぐに少し意地悪い笑みに変わる。 「気になる?」 「あ、いや、可愛いんだけど。ただ、不思議だなって。同い年にしてはなんか……」 「幼いって?」 彼のストレートな言葉にシンは少し躊躇って口篭もる。 「はっきり言うと そうなんだけど…」 ステラはシンと同じ年だ。 けれど接していると、なぜか妹を相手にしているような気分になる。 その中でも彼女の独特の言葉遣いは気になった。 王族は普通より高等な教育を早く始める。しかも厳しく。 そんな環境に育って どうして。 「…あの子の育ちはちょっと特殊だからね。」 「へ?」 「君になら話してもいいかな。」 キラは再び窓枠に腰かけ、今日も青く澄んだ空に目を向ける。 誰のことを思い出しているのか しばし遠い目をして、またシンへと視線を戻した。 「このことを話すには、まず今のオムニ王が国王になる前のことから話さなきゃならない んだけど。」 「…つーか、アンタはなんでそんなトコまで知ってんだよ。」 「ん? オムニの現国王とは即位前から親交があったから。」 あっさりと普通じゃない事実を返される。 現オムニ王が即位したのは10年ほど前じゃなかっただろうか。 「アンタいくつだ…」 「君より2つ上の18才。」 「実は嘘だろ、それ。」 シンのツッコミにキラはヒドイなーと苦笑う。 「ってか僕のことは置いといて。」 ふと真面目な顔になったキラは 静かな声で昔話を語り始めた。 「―――かの国王がまだ王子だった頃、どちらかというと奔放な性格をしていた彼は 宮廷 生活のしがらみを嫌ってほとんど王宮には寄り付かず諸国を回っていたんだ。」 「ラクス〜」 木陰に座って小鳥達と戯れていたラクスの元へステラが走ってやってくる。 彼女が立ち上がると小鳥達は羽ばたき去っていくが、キラがいつも連れている緑の小鳥だ けはそのままラクスの肩に残った。 「シンがいないの。しらない?」 不安そうな顔で見上げる彼女に ラクスはにこりと微笑む。 そういえば彼女にはまだ事情を説明していなかった。 「あの方ならキラと一緒にお勉強中ですわ。」 「おべんきょう?」 小鳥と同じ仕種で首を傾げるステラの可愛らしさにラクスはさらに笑む。 「そう、とっても大切な… ですからステラさん、少しだけ我慢してくださいますか?」 「…うん! ステラ がまんする!」 少しだけ考えたのは、きっと意味を理解しようと考えたから。 元気良く答えた彼女は本当に素直で可愛らしい。 「ありがとうございます。ステラさんは優しい方ですわね。」 優しく頭を撫でられたステラは 褒められたこともあってかとても満足そうに笑った。 「―――彼は父王との折り合いも悪く、その分 余計に意識が外に向いてしまったんだ。」 全ての始まりはそこから。 それは1人の少女の悲劇と、ある国王の後悔の記憶。 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- …というワケで、次回はオムニ現国王の過去です。 完全に好き勝手やってますね〜 本当はキラに語らせるつもりだったんですが、ダラダラしていて面白くなかったので。 たぶん1話で終わるはずです。そうしないと話が進まないので…