実りの色は赤い果実 -15-




「じゃあ 問題を出すから答えてね。」



 言われるがままについて行って、つれて来られたキラの部屋。
 さらに促されるままに本が積み上げられたキラの机の前に座って。

 ―――そしてそんなことを急に言われても。


「急になんなんだよ!?」
 叫んでしまった自分はきっと悪くない。
 訳も分からずそんなことを言われたら 誰だって混乱するはずだ。


「いや、ある程度は良いかな〜と思ってたんだけど、さすがにちょっと心配になって。」
 何が、と言おうとして 不意にこの前のことを思い出す。
 そういえば キラをこの前呆れさせた一件があったな、と。
「他国とはいえ王族の顔どころか名前も覚えていないのは問題だと思うんだよね。」

 机の上の分厚い数冊の本の背表紙はどこかで見覚えがあった。
 けれど どこかで経験したその光景を思い出すことはまだ頭が拒否していて。

 ……今さら逃げ出そうったって無駄だというのも分かっていたけれど。


「今日から毎日2時間、みっちり叩き込んであげるね。」
 その笑顔がとても怖かった。





「…とはいえ、いきなり詰め込んだって覚えられないからね。まずはザフトから始めよう
 か。」
 思いっきりシンが固まっていたせいか、キラは優しい声でそう言った。
 ああそれなら と、ホッと肩を撫で下ろしたシンの顔を見てキラは苦笑いする。
 そして 机のすぐ隣の窓枠に腰かけると 1つ目の問いを投げた。

「イザークは何代目の国王?」
 どんな問題がくるのかと構えたわりには案外簡単で肩透かしをくらう。

 けれど、余裕を持って答えられたのは最初の数問だけ。
 それが大間違いだと気づくのはすぐのことだった。




「主都ディセンベルから海岸の町までの距離は?」
「え、ちょ」

「じゃあ 葡萄酒の生産量が1番多いのはどこ? そして去年の生産量は?」
「生産量!?」

「ザフト国唯一の女帝 アン女王が最初に行った政策は?」
「ぅ…」

「隣の大陸の国アーモリーが最後に攻めてきたのはいつ?」
「……(汗)」



 終いには沈黙ばかりが増えていった。
 習った記憶はあるのだが、どれもまともに聞いてなかったせいでろくに覚えていない。
 自分の無知を思い知らされた気分だった。


 そういえば――― …キラはさっきから何も見ていない。
 まさか全ての答えが頭に入っているのか。
 実際 シンが答えられなかった問題には後で答えを教えている。

 ここまでの知識を持っているのはザフトの貴族でもそうそういないはず。
 それは必要無いからだ。キラくらいの年齢ならなおさらまだ早いと言われる知識量。

 キラの謎はますます深まるばかりだった。



「やっぱり再勉強かなー…」
 キラの呟きはシンを現実に引き戻す。
「2時間じゃ終わらないね。」
「って、そんな急に全部覚えられるかッ!!」
 事も無げに告げられた宣告は、黙っていられず逆ギレに近い形で怒鳴り返した。

 こんな広すぎる知識を今日1日で覚えられたらそれは人間じゃない。
 今までサボっていた自分も悪いが キラの基準も問題ありだ。

「んー それもそうだね。じゃあ今日はザフト王室の歴史だけにしておこうか。」
 なんでそんな 王室家庭教師並の知識持ってるんだよ、とはもう言わない。
 たとえ"王室の歴史"が普通知られるようなものでは決してなくても、キラがそれを知って
 いることにはもう驚かないことにした。
 内容ごとに毎回変わる彼らより、キラはきっと知っている。
 その知識量は計り知れない。…下手すれば国王並だ。
 怖いとも思ったが、同時に興味深かった。キラがどこまで知り尽くしているのか知りたい
 と思う。



「頑張ったら1つだけ、君の疑問に答えようか。」


 逆らおうともしなくなったシンを見て、キラはそんなご褒美を提案した。
 それをシンが承諾したのは言うまでもない。






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当初は予定になかったのに、書き出したら1話で収まらなかった不思議…
私はシンとキラのコンビが相当好きなようです(笑)



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