実りの色は赤い果実 -14-




「面白いコトになったなー」
 玉座に座ったオムニ王ネオはクスクスと人の悪い笑みを浮かべる。

 …先日使者を送ったオーブは今頃どんな騒ぎになっているだろうか。
 あの姉姫は怒鳴りながら文句を言っているかもしれないし、いつも隣にいる彼はそれを止
 めるのに必死かもしれない。
 まさかこんな展開になるとは自分でも思わなかったが 自分自身は意外に余裕だった。



「何が面白いのさ。」
 ひょこっと現れた2番目の息子は、呆れた顔をしながら玉座の手摺りに腰かける。
 ネオは行儀が悪いなんて言うつもりもなく、見下ろされても気にせずアウルを見上げた。
「アンタはキラで良いと思ってんの?」
 何を考えていたのかは筒抜けだったらしい。さすがは息子だ。
 その、呆れているというより 少し怒っている様子の彼の心境は図れない。
 ネオにできるのは正直に答えることくらいか。…嘘でも言おうものならものすごい口撃が
 返ってくることは目に見えていたから。

「…あわよくば、とは思っていた。だがこんな展開になるとは思ってなかったな。」
 キラを迎え入れることはむしろ歓迎に思っていた。スティングと同様自分もキラにならス
 テラを安心して任せられるから。
 だから老臣達が何やら始めた時も止めなかったのだ。
 何もせずにキラが手に入るならこんなに楽なことはない。


「キラにはあの人がいると分かってて?」
「……、あー そういえばいたな、手強いライバルが。」
 今思い出したとでもいう風にネオはすっとぼける。

 キラを追いかけ森に入ったプラントの姫君―――"ラクス"。
 婚約者を守れなかったと闇に沈んでいたキラに光を与えた姫だ。
 もちろん彼女のことを忘れていたわけではない。

「でも今彼女は国に帰ってるんだろ? なら問題無いじゃないか。」
「あーそれさ、この前姐さんに聞いたけど 彼女は今もキラのとこにいるってさ。」
 彼の言う"姐さん"というのはAAのマリューのことだ。そこからの情報ならまず間違いは
 ない。
 なかなか世の中は上手くいかないものだ。
「なんだ。つまらん。彼女が国に帰ってると聞いたからチャンスだと思ったんだがな。」
 残念だとネオが呟くと、アウルはますます顔を顰めて睨むような目を向けた。

「キラがどうして森にいるのかを知ってるアンタが そんなこと考えてるなんて知らなかっ
 たよ。」
 アウルの"想い"はそこに集約されていた。
 彼はキラを慕っている。つまりはそういうことだ。…心配していたのだ 彼は。
 息子の分かりにくい優しさにネオはこそっと笑った。


「……キラはそういう運命なんだ。どう転んでもな。」


 自分はキラの願いが叶わないことを知っている。
 どんなに森に逃げても、キラは"王族"という枷から逃れることは出来ない。
 それはキラ自身もよく分かっていることだ。

 だから、ならばせめて彼の負担にならないように ここへ迎え入れたいと思った。
 そうすればキラも気が楽だろうと思って。
 自分とキラは似ていたから キラの気持ちはよく分かっていた。


「…しかしライバルがいるのは困るな。さて、どうしたものか……」

























「こんな朝早くから何なんだよ…」
 眠気MAXの不機嫌な状態でキラに連れてこられたシンは ブスくれた顔で文句を垂れる。
 今彼らがいるのは塔の屋上で、そこにはステラとラクスの姿もあった。
 一体今から何が始まるというのか。

「―――見て。」
 シンの隣に並んだキラが指差したのは もうすぐ夜が明ける東の方角。

 彼の指先を目で追って、"そこ"に辿り着いたシンの目は それを見た瞬間に一気に覚めて
 しまった。


 闇色に光が混じり藤色に変わっていく空。
 さらにピンク色から白に近くなり、光の筋が山々の形をなぞるように走っていく。

 ―――そして現れたのは、輝く太陽。

 光は弧を描くように広がり闇を吹き飛ばし、世界に鮮やかな色を与える。
 そして自分に降り注ぐその様は まるで光の洪水だった。


 言葉を失くして魅入っているシンの隣でキラがくすりと笑う。
 そのシンの向こうにはステラがいて、彼女もはしゃいで飛び跳ねていて。
 太陽が昇りきるまで、4人はそこから離れなかった。






「願いが叶いそうな、そんな光景ですわね。」
 最後にラクスがそんなことを呟く。
 分からないではない。それほどまでに神秘的で美しい情景だった。

「ステラはおかしがいっぱいたべたい!」
「そんなんいつでも叶うじゃん。」
 勢いよく答えた彼女にシンは笑いながらツッコミを入れて、自分の願いは何だろうなと考
 えて。
 わりとどうでも良いことしか浮かばなかったから声に出すのは止めた。
 たぶんそれはステラの願いごとと大して変わらない。


「―――キラの願いは?」
 代わりに、隣でただ笑っているキラに唐突に話題を振った。
 どう答えるか期待して待っていると、しばし逡巡したキラはふと遠くを見つめる。


「…自由、かな。何にも縛られない そんな"自由"が欲しい。」



 なんだか重く聞こえた答えは、キラをどこか危なげな印象に見せていた。






    >>NEXT


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ページの都合上、アスランとカガリのシーンはカットされました。(…)
この分だと2人の出番は後半に入ってからかな…

ラクスもいるのに存在感がないんですよね… シンが主役だからでしょうか?



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