実りの色は赤い果実 -10-




 バラの棘を丁寧に取り去って、長い茎はハサミで切り落とす。
 今日は朝摘みの白バラをメインにして全体をパステル調でまとめてみた。

 朝食堂の花瓶に花を生けるのはラクスの日課で、同時にラクスの楽しみでもある。
 王宮ではやらせてもらえないことができるというのは正直楽しい。
 あそこでは何でも周りがやってしまうので、生け花も教養として身に付けるだけで、こん
 な風に好きなだけ好きな花を飾ることは出来なかったから。



「…ぉ はよ、う……」
「あら、おはようございます。ステラさん。」
 眠い目を擦りながら入ってくるステラにラクスは顔を上げて微笑む。
 まだ眠そうにしている彼女は ラクスと目が合った後すぐに何かを探して視線を巡らせた。

「…シン、は?」
 何よりも1番に出てくる名前にラクスは微笑ましく思って笑みを零す。
 最近やってきた可愛い客人達は 見た目も中身も本当に可愛らしい。
「今日もキラと朝のお稽古ですわ。もうすぐ戻ってらっしゃるでしょうから一緒に待ちま
 しょう?」
「うん…」
 ラクスは頷くステラの傍まで行くと、彼女の寝癖を手ぐしで整え 胸元で斜めになってい
 るリボンを結び直してやった。
 ありがとうと呟くように言って、ステラは次に部屋の全ての花達に挨拶をする為に窓際に
 走って行く。これはステラの日課だ。


 すっかり日常となった柔らかな朝の風景。
 彼女の後ろ姿にもう一度微笑んで、ラクスはテーブルに並んで置いてある中から一輪の白
 バラを手に取った。














「腹減ったー」
 シンとキラが朝食堂に入ってきたのは、ちょうどラクスが花瓶をテーブルの中央にセット
 し終え、ステラが肩に停まった緑色の小鳥に挨拶していた時だった。
「ご苦労様です。」
 振り返ったラクスはニコニコと笑顔で2人を出迎える。
 すでに2人はシャワーに行ってきたようでサッパリした様子だ。

「シン! おはよう!!」
 彼女のその反応はまるで猫のようだった。
 声にピンと反応を示したステラは 跳ねる勢いで元気に彼らのところへ駆け寄る。
「おはよう ステラ。」
 この時ばかりはシンも満面の笑顔だ。…それにキラとラクスが微笑ましいと温かい視線を
 送っていることを彼は知らない。
 ひとしきり笑顔を交わすと ステラは今度は隣のキラの方を向いた。

「キラもおはよう!」

 彼の場合には飛びついて頬にキスを送る。
 それも毎日のことなので キラもそれを慣れたように普通に受け止めた。
 けれど それを他人事だとさらっと受け流せないのがシンだ。どことなく不機嫌な顔でそ
 の光景を眺めている。
 そんな複雑な心境のシンに気づいたキラはステラを僅かに引き剥がすとにこりと微笑みか
 けた。

「ね、ステラ。シンにはおはようのキスはしてあげないの?」
「シン…に?」
 思いもしなかった言葉に首を傾げ、くるりとシンの方を向けばシンはすごく慌てた様子。
「!? ちょ、何言ってんだよ!」
 冗談じゃない!と叫ばれて、ステラは胸がちくりと痛んだ。
 何故だかすごく悲しい気持ちでいっぱいになる。

 キラもネオもスティングも喜ぶのに シンはそういうことをされるのが好きじゃないらし
 い。
 これはステラの大好きだよって気持ちを込めた挨拶なのに。

「…いや?」
 シュンとステラが項垂れると、彼は今度はものすごく焦った顔になった。
「やッ そういう意味じゃなくて…!」

 どうやらステラが思ったのとは違ったらしい。
 でもじゃあどうして「冗談じゃない」なんて言うんだろう?

 分からない表情のままじっとシンを見つめると、シンは顔を真っ赤にしながらさらに1歩
 下がる。
 やっぱり嫌なのかな?と泣きそうな気分になっているステラに、キラがクスクスと笑いな
 がら耳元で囁いてきた。
「シンは恥ずかしがり屋さんだからね。だからステラからしてあげると良いんだよ。」
「そうなの…?」
 すぐ隣のキラの顔を見つめると、彼はにこりと笑って頷く。
 そうなんだと納得したのと同時に心はホッと落ち着いた。

「うん。分かった。」

 決めた後のステラの行動は早かった。
 え、とシンが状況を把握する間もなく ぎゅーっと首に抱きつく。
「シン、おはよう!」
 いつもみんなにしているように 頬にふんわりとキスをすると、振り払われも拒まれるこ
 ともなくて。
 …でも、シンの様子がおかしかった。
「…シン?」
 みんなは返してくれる笑顔の「おはよう」がない。
 見るとシンは完全に固まってしまっていた。

「しーんーー?」
 離れて目の前で何度手を振っても反応してくれない。
 シンは一体どうしてしまったんだろう?
 理由がステラにはさっぱり分からなかった。
 その隣ではキラが堪えきれなくなってクスクスと笑っているが、その意味ももちろんステ
 ラには分からない。
「…予想以上の純粋さだね。」
「??」
 笑いすぎて涙まで出てきたらしいキラは指でそれを拭き取り、それでも止まらないらしく
 お腹を抱え込んで背を向けた。

 その笑い声がシンにも聞こえたのか、ようやく自分を取り戻した彼はぐるっと首を回して
 キラを睨む。


「〜〜〜ッ 何教えてんだ キラーっっ!!」


 さっき言ったこともう忘れたのかー!?


 屋敷中に響き渡る勢いで、シンの絶叫が木霊した。




 そして今日も、楽しい1日が始まる。






    >>NEXT


---------------------------------------------------------------------


9話が短いので10話も同時にUPしてみました。
シンステ書くのはスッゴイ楽しいですvv
からかうキラも書いてて楽しいです。シンってなんて弄り甲斐があるんだろう…v(S)



BACK