実りの色は赤い果実 -09-




 しっとりと冷えた空気に包まれた、まだ朝露の残る早朝の裏庭。
 そこは表ほど手入れもされていないが、その分広く動ける空間があり、多少の運動をする
 にはもってこいの場所だった。




「遅れてゴメン!!」

「―――今日も元気だね。」
 シンが顔を出すと 剣を腰に佩いたキラが笑顔でおはようを言ってくる。
 遅れたことに関しては彼も気にしていないのか何も言われなかった。


 泊まった翌日の朝、剣の稽古に付き合ったキラの腕を知ったシンが指南してくれと頼み込
 んだのだ。
 上の兄は政務が忙しく、下の兄は国に帰って来ない。相手がいないんだとシンが言ったの
 をキラは笑顔で承諾してくれた。

 けど、頼んだ自分が寝坊で遅れるとは失態だ。
 …それを笑顔で許してくれるのがキラだけど。ちょっと甘えすぎかもしれない。
 だって、キラは―――… "ここ"は、全てを許してくれるから。
 だけどそれに甘えてばかりじゃダメだから、今度からは気をつけようと思って心の中で深
 く反省した。


「よく眠れた?」
「え? あー おかげさまで不思議なくらい今日もぐっすり。でも朝起きたらステラが寝て
 てビックリした……」
 早速シンも身体を捻り全身を軽くほぐす。
 走ってきたおかげで身体はすでに温まっていたからそれで準備は万端だ。
「ん? あれね、ぐっすり寝てたから。」
 2人とも僕が運んだんだ、と。
 ピンと筋の通った立ち姿で その姿に似合わずあははーと朗らかにキラが笑う。
「ってキラのせいかよ!」
「あのままじゃ風邪引くと思ったから。ダメだった?」
 きょとんとして首を傾げるキラはそれの何がおかしいのかと不思議そうだ。

「そういう問題じゃないだろーッ!」
「え、えッ??」
 思わず叫んでしまった自分の反応は間違ってないと思う。

 この年上の天然青年は妙に男女間の意識が薄いというか。
 時々どういう環境で育ったのかと思いたくなる。
 恋人と一緒に暮らしているくせに不思議だ。
 …いや、本当に恋人同士なのかは聞いたことないけど。一緒に住んでるし、雰囲気にして
 みてもたぶんそうなんだと思うから。


「俺も男なんだよッ お願いだからその辺考慮してくれ……」
 切実に願う。
 普通 朝目が覚めて隣に女の子が寝てたら驚くから。

「あはは ごめんね。次からは気をつけるよ。」
 あんまり期待しない方が良さそうな返事をしつつ、キラはすらりと剣を抜く。
 訓練用のものではなく、れっきとした実践用の剣だ。
 それなりの身分以上の者しか持てないような意匠が施されたそれは、キラの育ちの良さを
 窺わせた。…ただそれがあまりに自然すぎて気づきにくいけれど。


「―――さて、早くしないと朝食の時間になってしまうね。そろそろ始めようか。」

 ころりと話題を変えたキラは一瞬にして纏う雰囲気を変える。
 鋭くなる視線と 硬くなる周りの空気。
 剣を持ったキラはいつもと全然違っていた。

「こういうのって身体で覚えるしかないからね。準備はいい?」
 軽い口調とは裏腹に、その姿には一分の隙もない。
 普段はぽやぽやしてるくせにこの変化にはいつも戸惑う。
 キラの気迫に圧されながら シンも負けじと剣を鞘から抜くと真正面から構えた。

「…そんなにガチガチになってちゃ動けないよ。肩の力を抜いて。」
 シンの様子を見て 困ったようにキラが言う。
 それに無茶を言うなと言いたいが、飲まれてしまいそうになるのを抑えるのに精一杯で 
 それすら言えなかった。

 キラはおそらく兄達と同等…もしくはそれ以上の実力の持ち主。
 全力を出していないと分かっていても、その雰囲気だけで圧されてしまう。

 でもそれを悟られるのは癪だから、ありったけの意志をかき集めて彼を睨んだ。
 シンの視線を受けたキラはそれを合図だと思ったらしい。


「―――じゃあ 行くよ。」

 声と共に、キラの姿が目の前から消えた。






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シンとキラは仲良しです。今のところ。
剣技のシーンは書けないのでカットして良いですか(汗)
いずれ別のところで気合い入れて書くので…!



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