実りの色は赤い果実 -08-
カーテンの隙間から漏れる白い光と窓の外の小鳥の鳴き声で目が覚める。 重いカーテンが引かれているせいで部屋の中はまだ薄暗いが、それらは確かに朝を告げて いた。 「………あれ…?」 寝惚けて回らない頭で シンは普段との違いを何となく感じて不思議に思う。 ここが王宮の自分の部屋ではないことはすぐに気づいたが、違和感はたぶんそのせいでは ない。 ―――借りた部屋は意外と快適なものだった。 王宮の部屋ほどではないが広さも窮屈さを感じさせないほどには十分にあり、調度品のセ ンスも良く格調高い一級品ばかり。 それにベッドもシルクで2人は余裕で寝れるサイズだ。 森の中の この不思議な屋敷に泊まって数日経つが、過ごしにくいと思ったことはない。 だから 不快とかそういう意味ではなくて。 柔らかくてあたたかいものが腕の中に潜り込んでいるのだ。いや、自分が抱き込んでいる というべきか。 何だろう これは…… シンが身動ぎすると 腕の中の何かもゴソリと動く。 だんだんと目が冴えてきたシンは正体を知ろうと視線をそこへと落として、 「○×※▲―――ッッ!?」 声にならない叫び声を上げた。 …あまりに驚きすぎてとっさに声が出なかったのだ。 腕の中で丸まっている金色の髪。 それは暖をとるように シンの胸にさらに頭をこすりつけてくる。 もはやシンは動くことすら出来なかった。 「な、な、、…どうしてステラがここにッ!?」 思いっきり動揺しながらもう一度確認する。 しかし何度見ても、そこにいるのは紛れもなくステラ本人。 夢だと思いたくても ここまで目が覚めてしまえばそれも不可能だった。 一体に何が起こったのだろうと昨日の記憶を必死でかき集める。 「…あ。そういえば昨日カードゲームしててそのまま……」 何とか状況は思い出すが、ベッドに入った記憶がない。 無意識のうちに潜り込んでしまったのだろうか。 そんな馬鹿なと思うけれど、でも事実2人はここにいる。 ゴーン ゴーン … ぐるぐるパニクるシンの思考をかき消すように 塔の鐘が時間を知らせる音を鳴らした。 「っヤベ… 時間ッ!!」 いつも同じ時間に鳴るその鐘を聞くとき、いつもならシンはすでにこの部屋にいない。 それを思い出したシンは慌てて飛び起きる。 「…ン、」 「っ ぁ…!」 ステラを起こしたかと思って 覗き込んでみるが、彼女は丸まってまだ夢の中。 それに胸を撫で下ろして、今度はそろりとベッドから降りた。 それからいつもテーブルの上にきちんと畳まれて置いてある服に手早く着替えて、着てい た服はその下のカゴに放りこむ。 どんな仕組みか分からないが、基本的に何もしなくてもこの屋敷は暮らせるように出来て いた。 本当にどんな仕組みか謎で仕方ないのだが。 「急げ…!」 とりあえず今は時間がない。 キラと約束している時間は過ぎている。 ステラを起こさないように扉は静かに閉めてから、シンは廊下を全力疾走でいつもの場所 へ向かった。 シンがこの屋敷に来てからもう数日が過ぎている。 何となく帰る気が起こらなくて 気持ちに引き摺られるようにずるずると過ごしてしまっ た。 キラも好きなだけいて良いよと言ってくれたからそれに甘えて。 ここは居心地が良い。 キラもラクスも気持ちを乱さないし、それにここには―――ステラがいる。 彼女にだけ感じる、初めて会ったとは思えないほどの 傍にいると安心する気持ち。 この気持ちの正体は、分かるようなまだ分からないような。 けれど、まだ誰にも感じたことがない気持ちだということだけは分かった。 それを戸惑いながらも少しずつ受け入れてきている。 ―――それがこれからの自分の未来さえ決めることになるとは知る由もなく、シンは今目 の前にある幸せをただ追っていた。 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- これもシンステでやってみたかったシチュエーションの1つです♪ シン視点のシンステは書きやすくて良いです。 …でも何でしょう、男女が同じベッドで寝てたのにこのピュアさ……(笑)