実りの色は赤い果実 -02-
ザフト国城内、国王執務室。 そこでは王であるイザークが羽根ペンを手に執務に勤しんでいた。 そして 書類と共にディアッカがもたらした噂に耳を傾ける。 「…ほう。オムニの姫が伴侶探しか。」 面白い話だと言いつつも イザークの反応はそこまでだった。 それ以上の興味はないようで 再び書類にペンを走らせる。 「お前は名乗りださねぇの?」 身分的には次期宰相候補、現側近であるディアッカだが、同時に親友でもある2人は普段 敬語を使わない。 それはイザークの希望であり、だからそれが彼らの"普通"だ。 「彼女が正妃の器なら考えるがな。あの天然姫に務まるとは思えん。」 「厳しいな。」 容赦無い返答にディアッカは苦笑いするしかない。 けれどそれすらも当然だと返されてしまった。 「大体俺は新米王だ、そんな暇は無い。」 確かに彼は2年前に即位したばかりで、まだ学ぶべきことも多く 今が一番大切な時期で もある。 だからそんな余裕は自分にはない と。 「けど相手はオムニだぜ? こんなチャンス 滅多にないと思うんだけど。」 それにはしばし考える。 確かに何もしないのも失礼かと思って。 「…まぁ、友好な関係を持つには必要か。その役はシンに任せよう。良い社会勉強だ。」 シンはイザークの弟で前王の第3子。現在反抗期真っ最中の16歳だ。 その名前が出た途端にディアッカは「大丈夫か?」と心配そうな顔を向けた。 「失敗したらどうするんだ?」 「別に。成立しようがしまいが特に問題は無いだろう。」 任せるには不安な部分もあるが、イザークとしては特に問題視していなかった。 要は「その気がある」と示せば良い。 プラントは姫が1人、オーブの"彼"が名乗りを上げる可能性も低い。 なら我が国くらいは…と思ったのだ。 「ところでそのシンはどこだ?」 「…あー 話によるとまた抜け出して一人で遠乗り行ったらしいぜ。」 つまりはまた脱走した、と。 視線をあさっての方に向けたディアッカの返答を聞いた途端、イザークは予想通りブツッ と切れた。 「あーいーつーはーーっ! いつまでそんなガキっぽいことしてれば気が済むんだっ!!」 「仕方ないんじゃない? 大好きな兄が2年も帰って来ないんじゃ。」 シンの気持ちを的確に把握しているディアッカはそう言って肩を竦める。 「…ったく。ホントにガキか……」 シンの兄でありイザークの弟でもあるアスランは現在国外―――オーブにいる。 元々頻繁にオーブに行っていた彼だが、カガリと婚約してからはほとんど国に戻っていな かった。 シンは母親が幼い頃に他界してしまった為にアスランの母レノアに育てられ、それ故アス ランにもよく懐いていた。 そのせいか 彼が国に帰らないことを快く思っていないようで。 だからといって、それでどうして脱走に結びつくのかはよく分からないが、それが彼なり の反抗らしい。 「アスランはオーブの世継ぎ姫の伴侶だ。国王になる男が頻繁に戻って来れるほど暇なわ けないだろうが。」 イザークの言うことは正論だ。 確かにそうだと納得しながらも、ディアッカはシンの気持ちも分かるから内心複雑だ。 「分かってるけど納得できないから子供なんだろ?」 イザークも本当は分かっている。相手は半分しか血が繋がっていないとはいえ弟だ。 けれどそれでは困るのだ。 「さっさと成長して欲しいものだ。末とはいえ あいつも王子なんだからな。」 イザークはそうぼやきながら痛むこめかみを抑える。 一国の王子として。王の弟として。 イザークに子どもがいない今、次の王位継承権は彼にあるのだから。 「今回の件で少しは成長するんじゃない?」 「…そうだと良いがな。」 あまり望めなさそうだ と、イザークは深い溜め息をつき、それにはディアッカも苦笑い するしかなかった。 「あ。噂といえば。こっちはプラントのことなんだけどさ―――…」 気を取り直したディアッカが 思い出したようにもう1つの噂話を切り出す。 「…な、に……?」 それは有り得ないはずの話。 さすがのイザークも驚いて我が耳を疑った。 >>NEXT --------------------------------------------------------------------- 今回は新米国王イザークと側近ディアッカの話でした。 そして次回が主人公の登場です。