お伽話のそれから -07-
寝室のソファに腰を下ろし、アスランはゆったりと寛ぐ。 まずまずの結果に充実した気分の彼とは対照的に 後から入ってきたキラは少し疲れてい るように見えて、アスランは手招きして隣に座るように言った。 「どうだった?」 「…君 本当に14才?」 座るのではなく前で立ち止まった彼女は 自信満々に聞く彼にどこか呆れたように返す。 最初の頃こそ緊張で青い顔をしていたものの、空気に慣れてしまえばその後は堂々とした 態度で彼はやってのけたのだ。 キラが見ている隣で彼は完璧に"跡継ぎの王子"を相手に印象付けた。 「もっと大人だったらこんなことしないだろう?」 そう言ってアスランは笑う。 その返答にキラは完全に呆れてしまった。 「…失敗したらどうするつもりだったんだよ。」 結果成功したから良かったものの、キラは内心気が気じゃなかったのだ。 けれど当のアスランはケロッとしていて。 「別にどうもしない。俺が行ったのは、母上に『キラは可愛いから 貴方という番犬がいな い今日はきっといろんな男性に声をかけられて困るわね』と言われて心配だったからだ。 行ってみれば本当に囲まれてるし。」 それどころかアスランの心配は全く別の場所にあったらしい。 場の空気に飲まれて緊張していたくせに、乗り込んできた理由は分かり易いくらいに単純 なものだった。 確かに"大人"ではやらない "子ども"が持つ行動力。そこには感心するしかない。 「しかし、キラは本当にモテるな。若い王子達は皆キラの所に集まっていた。……どいつ もこいつも近付き過ぎだろう。」 何を思い出したのか 急に拗ねたようにブツブツ言い出すアスランは、感情表現がより素 直だ。 あからさまに妬いている様子に肩の力を抜くと、キラは笑いながら隣に座る。 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。僕の王子様は君だけだもの。」 今のアスランは知らないことだが、キラはアスランのためにそれまでの自分を捨てた。 ニコルに頼めばたぶんすぐに元に戻れたのにそうしなかったのも、必死で女としての振る 舞いを覚えたのも。 アスランだったから。キラも アスランが好きだったから。 「僕は君が好きだからここにいるんだ。君以外見てる余裕ないよ。」 よく考えたら告白してるのと同じだったけれど。 頬を赤らめてキラを凝視しているアスランがちょっと可愛くて、だから別に良いかと思っ た。 それはキラの正直な言葉。何も飾らない本当の気持ちだ。 アスランが好きだから、それは何があっても変わらない事実。 「キラ…」 熱を含んだ視線と声に胸がとくんと高鳴る。 彼の瞳がゼロまで近づいて、自然と唇が重なって。 抵抗する気もなかったキラは目を閉じてそれを素直に受け入れた。 「……えーと、」 本当に軽い 一度だけのキス。 キラから離れたアスランは 自分の行動に戸惑ったように固まってしまう。 「ちょっと、キスした君が赤くならないでよ… 僕の方が恥ずかしくなるじゃないか。」 こういう所は"14才"らしいと思うけれど。 いつもと勝手の違う反応にキラの方も気恥ずかしくなってしまった。 キスだけで照れてしまうなんて何年ぶりのことだろう。 「ねぇ 何か言ってくれないと僕もどうしようもないんだけど……」 さらに彼の手は引き寄せられた時のまま頭の後ろに回されていて キラは身動きも取れな い。 離れたいわけではないから振り払うことはしないけれど、そのままでいたら何も出来なく て困ってしまっていた。 「…じゃあ、もう一度キスしても良いか?」 僅かな逡巡の後、遠慮がちにそう尋ねる彼にキラはクスクス笑う。 「そんなのわざわざ言わなくても良いよ。僕は君のものなんだから。」 そんなに躊躇って言うほどのことだろうかとキラは思ったけれど、アスランの方は不安げ に瞳を揺らしていて。 「…でも キラは俺に触れないだろう? だからダメなのかってずっと不安に思ってた。」 彼の言葉はキラには意外だった。 そんな風に思われていたなんて思いもしなかったから。 「そんな恥ずかしいことできないよ。…それに君は14才だから。」 手を出したら犯罪かな、なんて。 その返答は向こうも予想外だったらしく 唖然としているのを見て苦笑う。 「お互い遠慮してただけなんだね。」 このとき初めて 2人は気持ちを通わせ合った。 キラにとっては2度目の、そして"アスラン"にとっては初めての、―――愛の誓い。 「「愛してる」」 そして、もう一度キスを――― 夜が明ける少し前、アスランより早く目が覚めたとき。 たまにあるその時間はキラにとって幸せな時間のひとつだ。 自分を包み込む逞しい腕、あたたかな体温、普段より幼く見える無防備な寝顔。 全部キラのもの、キラだけが見れる"アスラン"だ。 昨晩彼から彼のキモチをもらった。 そして彼は 有りのままのキラを受け入れてくれた。 "アスラン"が知らないこと――― 元は男であることも全て話したキラを。 2度目の誓いはたくさんのキスと共に。 たくさんたくさんキスをして、たくさん「愛してる」を言って。 そしてそのまま一緒に眠った。 抱きしめたまま眠る 彼の寝顔に目を細める。 とても幸せな時間。 ここは1番安心できる場所。 1度は失くした大切なモノたち… 再びこの手に戻ってきたのは奇跡に近いことだ。 「アスラン 愛してる―――」 目を覚ました君はどんな顔をするだろう? キラがおはようと言ったら彼は何と言うだろうか? それが今は1番楽しみだった。 NEXT --------------------------------------------------------------------- ロクに推敲してませんがUPです(汗) とにかくキラとアスランのラブラブが書きたくて。 あ、もちろん「一緒に寝た」だけで、何もなかったですよ。14才ですから(笑)