お伽話のそれから -02-




「14だ。」
 苛立ちを隠さずキラの部屋に入ってきたイザークは 勧められた椅子に乱暴に座ると目の
 前のキラにそれ一言だけを伝える。
 けれどさすがにそれだけでは意味が分からず困った顔で首を傾げれば、彼は余裕をなくし
 ていたことに気づいたのかいくぶん落ち着いた様子で謝った。
「ヤツは自分のことも周りのことも一通り覚えていた。ただ どうやら14才以降の記憶が
 ないらしい。」
「14、…」
 説明を付け足された数字をキラはもう一度口の中で小さく転がす。

「可愛いげのなさは変わらないが、自分の記憶と違う周りの状況に戸惑いがあるようだ。」
 最初は馬鹿にされているのかと思ったが、レノア王妃も同席の前でそれはないだろうと途
 中で気づき、それ以降はどこまでの記憶がないのか確かめることに終始した。
「…14才じゃ僕と出会う大分前… それなら知らなくて当たり前ですね。」
 さっきから気づいてたが 彼女のあまりに冷静な表情にイザークは逆に不安が募る。
「…大丈夫か?」
「え?何がですか?」
「いや…」
 そんなはずはないか。周りの為にそう努めているだけだ。
 彼女の胸中を察して それ以上は口を噤んだ。



「実はもう一つ問題があるんだが…」
 アスランを混乱させたくないからと、キラのことは伏せておくと2人で決めた後。
 苦い顔でイザークが切り出した。
「ヤツはその頃はまだ父の手伝いをしていない。」
「…それって つまり」
 キラの顔もさすがに強張る。
 今のアスランは国王とほぼ変わらない量の政務をこなしていた。
 近々行われる近隣諸国を招いての晩餐会も任されているくらいだ。

 でも、"記憶を失った14才の"アスランは、つまり"政"に関しては何も知らないというこ
 とで。

「政務に関しては期待できない。」

 落ち込んでいる場合ではなくなってしまった。













「これが18の俺…」
 記憶より一回りほど大きい自分の手を眺め下ろす。
 何が気に障ったのか分からないが、急に怒り出したイザークに「鏡を見ろ!」と怒鳴られ
 て姿見に映した自分はどう見ても14の少年ではなかった。
 子ども特有の顔の丸みはすっかり削げ落ち、すらりと縦に成長した背も均整のとれた体躯
 も記憶とは異なっていて。
 イザークの姿からしてもどうやら間違っているのは俺の記憶の方のようだ。
 実感はないが、今の自分は"記憶喪失"というものらしい。
 ―――本当に 全く実感がないのだが。



 …そういえば、とアスランはふと思い出す。

 彼女はどうしたのだろう?
 目覚めて最初に見たあの美しい人は。

 悲しい顔をさせてしまった。そのときの彼女が頭から離れなくて。
 彼女はいったい何者なのだろうと、記憶がないことを悔やんだのはその時だけ。


「また 会えるだろうか…」
 しかしその期待は虚しく、その後しばらく彼女と会うことはなかった。






NEXT


---------------------------------------------------------------------


キラとイザークは相変わらず仲良しです。兄妹として。
そしてアスランが14才だそうですよ… 見た目18でも中身が子ども…
あ、年齢はDESTINY設定なので アスランもキラも18才です。



BACK