※お1人にのみ捧げたものなので、お持ち帰りはご遠慮下さい(いないとは思いますが…)



そんな平和なザフトの1日。




「―――ようこそ、我がヴェザリウスへ。」

 秘書1人のみを連れて訪れたラクスの出迎えに立っていたのは 隊長のクルーゼと艦長の
 アデス、そしてアスランの3人だった。
 今朝方急に決まった訪問にしては妥当な出迎えの数だと思う。
 さすがはクルーゼ隊長だと 彼への評価を1つ上げた。


「ご苦労様です。」
 にこやかな笑みで応じ、ラクスはクルーゼと握手を交わす。
 仮面のせいで相変わらず表情はよく分からないが、とりあえず態度は友好的だ。
 
「ところで… 今回の訪問は随分と急でしたがどうかされましたか?」
 それはきっと聞かれるだろうと思っていたことだったから、表情1つ変えずに受けること
 ができた。
 確かに最高評議会議長子息が急に艦を訪れたら 何かあったのかと勘繰られても仕方ない。
 けれど事実何かの思惑があったわけでもないので ラクスは素直に謝罪の言葉を述べる。
「申し訳ありませんでした。たまたま寄港先が重なったのでご挨拶をと思っただけだった
 のですが… 迷惑をかけてしまったようですね。」
 それは本当のことだ。
 もっと早く分かっていたことなら事前に連絡を入れるつもりだった。
 それにもし何か裏があるのなら もっと上手くやる。
「いえ、そういう意味ではありませんよ。ただもう少し早ければいろいろと準備できたと
 思いまして。」
「どうぞお気遣いなく。友人達に挨拶したらすぐに帰ります。」
 挨拶は建前で 本来の目的はそっちの方。
 そこまで聞くと彼も納得したようでようやく詮索を止める。

「ならば艦内でも見学されて行かれたらどうでしょう。案内はこの者に任せますので。」
 そう言って彼が指したのは 初めて会ったわけでもないのにカチンカチンに緊張している
 アデス、……ではなく、その隣に立ってさっきから一言も言わないアスランだった。


「…なんですか、その不機嫌面は。失礼な。」
「気にするな。これが地顔だ。」
 確かに表面上はいつも通りだが、ラクスから見れば明らかに機嫌が悪いと分かる。
 ラクスも伊達に彼と長い付き合いをしているわけではない。

 現議長の子息、父が任期を終えれば最年少で評議会入りが噂され、今もうすでに父の片腕
 として才覚を発揮していると評判のラクス。
 隊長ですら敬語の相手にこの態度は本来不適当だが、2人はアカデミー時代からの友人、
 ラクスの方も理由は久々に会う友人に対してその態度はなんだという感じなので構わない
 ようだった。

「後は任せる」と言い残して、隊長と艦長は2人(+秘書)に背を向け格納庫から出て行っ
 た。








「あ、ラクスだ。…アスランずるい。僕も会いたいのに。」
 格納庫の真ん中にラクスの姿を見つけ、キラはその遠さに溜め息をつく。
 ラクスがメールをくれたのに気づいたのは今朝のこと。それではさすがにどうしようもな
 くて。
「良いなぁ…」
 仲良く話している(ように見える)2人をじっと眺め続けていたら、置いて行くぞとイザー
 クに頭を小突かれた。
「仕方ないだろう。貴様は仕事、わきまえろ。」
「…はぁーい。」
 どんなに文句を言ってもキラも軍人だ。
 偶然に会えることを期待するしかないと諦めて とっくに歩き出していたイザークを慌て
 て追いかけた。









 ラクスもまた 格納庫から出て行くキラの後ろ姿を視界の端に捉える。
「…キラは仕事ですか?」
「ああ。運が良ければ会えるだろう。」
 彼女が消えた扉を見たままで呟くと 如何にもやる気なさげな応えが返ってきた。
 後ろの秘書には「後は任せて休んでください」なんて気を遣っているのに、ラクスに対し
 てはいつも以上に素っ気無い。
「気の利かない人ですね。変わってくれてもいいのに。」
「お前に気を利かせる必要性を感じない。だいたいお前が急に来たりしなかったら俺は今
 頃部屋で寝ていられたんだぞ。」
 むくれて言ってもアスランに逆に言い返される。
 ついでに機嫌が悪い原因も判明した。ようは夜勤明けで眠いらしい。
「それに、案内もなにもラクスは今更不要だろう。」

 ラクスがここを訪れるのは初めてではない。
 むしろ知り尽していると言っても差し支えないくらいだ。
 放っておいても好き勝手回れるはずのラクスにわざわざ案内する必要はない と。
 それを聞いてラクスは苦笑いする。
「体よく押し付けられたんでしょう。私もあの人も互いにどうも相性が悪くて。」
 民間人が1人で戦艦内を歩き回るのも問題だということで"案内役"がついたのだろうが、
 その役をアスランに任せたのは互いにそのことを知っているからに他ならない。
 話すだけで腹の探り合いになるのだから そんな疲れる相手とは長時間いたくないのが互
 いの本音だった。
「だからって俺を巻き込むな… さっさと終わらせて帰るぞ。」
 それ以上言う気は失せたのか ただ深い溜め息をつかれる。
「キラ達に会うまでは帰りませんよ。」
 このままだとぐるっと回るだけで追い返されそうだったので きちんと目的を告げた。
 会えずに帰ってしまったら、一体何の為に1日予定をずらしてまでヴェザリウスに来たの
 か分からない。
「ハイハイ。見つかれば良いな。」
 そんなラクスの気持ちなど気にもせず、アスランはぞんざいな返答を返すとさっさと歩き
 出す。
 いくら眠いからといっても 久しぶりに会う友人に対してあまりに冷たくはないだろうか。
 さすがのラクスも機嫌を急降下させ、大股で追いつくと 衝動のままに彼の腕を思いっき
 り掴んで引き止めた。
「さっきからものすごくいい加減じゃないですか? ちゃんと仕事はしてください。」
 仮にも軍人なら上司の命令は聞くべきだ。そう言ってじとりと睨む。
 いつものアスランならここで謝るくらいはしたかもしれないが、今日の彼は無表情で見下
 ろすだけで捕まれた腕もすぐに振り払った。
「お前と会話して神経擦り減らす余裕も気力もないんだ。大人しく付いてこい。」

 いつもならなんだかんだで付き合ってくれるアスランが冷たい。
 そこでラクスもアスランの状況を悟った。

「…そんなに眠いんですか。」
「当たり前だ。」
 ここまで機嫌が悪いとなると相当のようだ。
 聞けば二徹明けだと返ってきた。
「舌戦がやりたいならイザークとやってくれ。」
「はいはい。」

 さすがに今日のアスランで遊ぶのは止めておこうと、優しいラクスは思ったのだった。



















 案内は名目上のことで実際はただ適当に歩いているだけだ。
 けれど一度通った道と被らないようにしている辺りがどんなに眠くてもアスラン・ザラと
 いうべきか、とても彼らしいと思う。
 ちなみに秘書は「友人同士気兼ねなく話したい」という理由で休憩に入ってもらった。


「ラクス! 久しぶりですね。」
 廊下の向こうから ラクスの姿を認めたニコルが若草色の髪を揺らして走ってくる。
 その後ろからはディアッカも追って来ていて、これで目的の半分には会えたことになった。

「こんにちはニコル。相変わらず可愛いですね。」
 ふふ と笑って挨拶を返せば、途端にピシリと空気が凍る。
「…貴方もお変わりないようで。」
 にこりと笑った彼は もう15の少年の空気をまとってはいなかった。
 絶対後ろに何か居る。
「それ、僕が一番嫌いな言葉だと知ってのことですよね?」
「もちろんですよ。」
 フフフ、ハハハと互いに笑顔のはずなのに空気が冷たいのは気のせいじゃない。

「久々の黒オーラ対決だな。」
 一歩下がってボソリと呟いたディアッカの言葉を聞き漏らさず、2人同時に彼の方を振り
 返る。
「「何か言いましたか?」」
「…ナンデモアリマセーン。」
 2人に笑顔で威嚇されて早々に戦線離脱。元々まともにやって勝つ気など毛頭なかった。
 アスランは最初から関わる気がないらしく、壁に凭れて傍観している。

 氷点下の空気の中での笑顔の応酬は、その後5分ほど続いた。



「―――そういえば、2人は今からどこへ?」
 気が済んだのか飽きたのか、ラクスが突然話題を変える。
 決着がつくものでもないので ニコルもさらりとそれを受け止めた。
「今からキラとイザークのところにデータを届けに行くんです。」
 そう言って手に持ったディスクとディアッカが持つファイルを指差す。
 急な変化にただ1人付いて行ってなかったディアッカがラクスの視線を受けて慌てて頷い
 たのを見て、何かを思いついたようにラクスは後ろを振り返った。
「じゃあ私も一緒に行きます。アスラン良いでしょう?」
「どうせそれが目的だろう?」

 どうでも良いとの許可(?)をもらって、いざ今日の最終目的地へ。














 室内にはキーボードを打ち込む音が響いている。
 1番奥の端末を陣取って、紅が2人で画面と睨めっこしていた。
「こっちの数値を上げてみるのは?」
「それだと片方に付加がかかりすぎる。」
「だったら…」

「仲良く頭付き合わせて何してるんですか?」
 近過ぎる距離が少し気に食わなくて にょっと2人の間に顔を割り込ませる。
「!?」
 突然誰だとぎょっとしたイザークは身を引くが、誰だか気づいたキラはパッと瞳を輝かせ
 た。
「ラクス! わぁ、会えるなんて思ってなかった!」
 嬉しそうにほんわり笑うキラにラクスも優しく笑み返す。
 彼女にだけは本物の笑顔を向けて。
「偶然ニコル達に会ったんですよ。…あぁ、対砂漠戦闘用の補正データですか。」
 近々クルーゼ隊は地球の砂漠地帯に下りる予定になっている。
 みんなが忙しそうにしているのはその為なのだろうと 今更ながら理解した。

「おい! 民間人が機密データを覗き込むな!」
 いつの間にか席を取られていたイザークがハッと我に返って怒鳴る。
 けれど相手はラクス、イザークが叫んだぐらいでは気にもしない。
「良いじゃないですか。知らない仲でもないですし。」
「そんな理屈が通用するかッ」
 真面目な彼の返答は至極最もな意見だ。
 しかしそれが通用するラクスではなかった。何を言われてもケロッとしている。
 
「…総合成績 私より下のくせに。」
「今それは関係ないだろうが!」
 過去の屈辱故か、イザークの怒声が増す。ここがどこかなんてお構い無しだ。
 幸いここには彼ら以外に誰もいないからどうでも良いことだけれども。

 アスランに 遊ぶならイザークで遊べと言われた。
 ならこの状況を逃す気はない。アスランで遊べなかった分も付き合ってもらわなくては。

「フンッ 貴様と違って俺は現役軍人だ。今ならナマっている貴様には負けんぞ!」
 現役軍人のプライドか、すでに勝ち誇ったようにイザークが言う。
 確かに現役ではないが「ナマった」と言われたらラクスも負けていられない。
 その言葉は意外に沸点の低いラクスの闘争心に火を点けた。
「へぇ。なら勝負しようじゃありませんか。射撃で3本勝負なんてどうですか?」
「望むところだ!」


「…仕事は?」
 氷の貴公子と白薔薇の王子が睨み合う中、キラが冷静なツッコミを入れる。
 データ補正はかなり急ぎの仕事なのに。
 
「聞こえてませんよ。はい、データ。」
 今度はニコルも我関せずと彼女にディスクを渡すと隣に座った。
「ありがと。」
 それを受け取って端末に読み込みをかける。
 ニコルが持ってきたバルトフェルド隊の実戦データ、これを使えば補正作業もぐんと進む
 はず。


「おい! 行くぞ!」
 いつの間にか話がまとまったらしく、イザークとラクスは連れ立って部屋を出て行くとこ
 ろだった。
 そして当たり前のように呼ばれてディアッカとニコルは顔を見合わせる。
「俺らも?」
「ま、そうなるとは思ってましたけど。」
 2人もやれやれと腰を上げてラクス達の後ろについて行くことにしたらしい。
 アスランはラクスの案内役だから当然付いて行くことになる。
 となると残りは、

「キラはどうする?」
「え、もちろん行くよ。」
 さっさとデータを自分のノートに移し替えていたキラも立ち上がる。
「ラクスの射撃なんて滅多に見れなくなっちゃったしね。」
 だから行く と、無邪気な笑顔でキラは言った。

















 ≪Perfect≫

 同時に同じ文字が表示され、またかと互いに睨み合う。
「また引き分けかよ。」
「じゃあ次は僕とディアッカですね。」
 いつの間にやらニコルとディアッカも参戦し、射撃での勝負は白熱する一方だ。

「平和だねぇ…」
 後ろの長椅子に座り 膝の上にノートPCを開いてキラがしみじみと呟く。
 眺めながらも手はほとんど休んでいないのが彼女の凄いところだ。
「…俺は眠い。早く帰ってくれ……」
 隣で嘆くのはアスランで、立ち上がるのも億劫だと全身が語っていた。
「ヤだよ。僕まだほとんど話してないのに。」

 勝負に参加しないのは射撃が苦手というのもあったが、1つの目的の為でもある。
 ラクスとたくさん話したい。
 その為にラクスにはまだ帰ってもらうわけにはいかなかった。

「寝ちゃいなよ。まだ終わりそうにないし。」
 キラが見た感じ アスランももう限界のようだ。
 けれど彼は首を振り 遠のく意識を無理矢理覚まさせる。
「いや… 今寝たら起きれない。」
「だからさ、僕に任せてよ。」
 にっこり笑ってアスランを見れば、彼はしばらく真意を探るように見返して。

「…本意じゃないが仕方ないか。今日はキラに譲る。」
 限界を認めたのか何なのか、完全に壁に背を預けると苦笑いで了承してくれた。
「ありがとう。」
 もう一度笑ったキラは俄然やる気が出てきたと画面の方に向き直る。



 ≪Perfect!≫

 その時、5度目の引き分けをマシンが知らせた。





「勝った方が昼食時キラの隣を独占できるんですからね。」
「負けられるか!!」








 そんな平和なザフトの1日。



→→ --その後のラクキラ--



---------------------------------------------------------------------


リクはれおりあ様より。
「ラクス(♂)×キラ(♀)」で、「キラinザフト」で、「ラクスvs紅4人」がお題でした。
期待通りに仕上がっているかは謎ですが、私は個人的に楽しかったです。
リクありがとうございました。そして遅くなってしまってすみませんでした。

inザフトなので 設定をどうしようかなぁと考えたのですが。
キラがザフトにいる以外は特に何も変えてません。
ラクス様はアカデミー総合成績2番で アスランが1番、イザ様が3番です。
ちなみにアスランとキラの関係は幼馴染というより兄妹に近い感じです。

眠気MAXアスランが 半ギレのせいかラクスにも負けてなくてちょっとびっくりしました。
…もちろんいつもなら5秒で言い負かされます。
ラクス(♂)はけっこう子どもっぽいというか 性格が軽いですね。これは姫設定です。



BACK