その後の2人。
昼食後、ラクスが秘書と話している間にキラもアスランもいなくなっていて。 独りでは身動きが取れずに待っていたら、戻って来たのはキラだけだった。 「―――そんなわけで。アスランが撃沈しちゃったので残りは僕が案内しまーす。」 にこにこと元気よく言ってくれるのは可愛らしいし、キラが案内してくれるのは嬉しい。 でも彼女には仕事があったはずでは…と急な展開に少し戸惑った。 「データの方はもう良いんですか?」 「ある程度はさっきの勝負の間にしておいたからあとは3人にお任せ。」 みんなサボって遊んでたから快く引き受けてくれたと、彼女は何か含んだ表情で答える。 そして、常のようにノってこなかったのはこのためだったのかと、ラクスはようやく悟っ た。 「では 遠慮なく。艦内デートを楽しみましょうか。」 そう言って自然に彼女の手を浚うとそのまま繋ぐ。 それを何の抵抗もなく受け入れたキラもにこりと笑って返して。 「ゆっくり、時間をかけてね。」 悪戯っぽく囁き合って また笑った。 「…じゃあラクスも地球に降りるんだ。」 「ええ。」 プライベートエリアから出て見学を再開し、キラが出す選択肢に答えながら道を選ぶ。 本当のところ 目的は既に達成しているから"見学"する必要はないけれど、滅多に会えな い彼女と会話がしたくて黙っていた。 ちなみに再び仕事がなくなった秘書は迎えの時間を約束してからホテルへ帰している。 きっと今頃ホテルの部屋でスケジュール調整をしているだろう。 「私はカーペンタリアからワシントンの方へ向かいます。降下は貴方達より1週間ほど早 いんですけど。」 「……忙しいんだね。」 ぽつりとそれだけ言って俯いた彼女は心配そうな顔を見せる。 安心して欲しくて、ラクスは殊更明るく軽い調子で笑んでみせた。 「忙しい方が良いんです。……それで貴方が少しでも戦場から遠ざかれば。」 相手が断定された物言いに キラは弾かれたように顔を上げ、大きな瞳をさらに大きく見 開いて凝視してくる。 最近は潜めていた"それ"に彼女は気づいたらしかった。 …だからと、訂正するつもりもないけれど。 「貴方を戦場に出さなくても良いように私は頑張っているんです。アカデミーを卒業しな がらも違う道を選んだのはその為ですから。」 開戦とほぼ同時にアカデミーに入学し、そこでキラ達と出会った。 気が合ったというよりは実力の関係からよく一緒にいるようになったメンバーの中にキラ もいて。 アスランもニコルも、イザークもディアッカも。たまには喧嘩しながら、それでも一緒に 過ごした。 互いに競い合うというのは良い刺激になったし、アカデミーでは戦い方以外にもたくさん のことを学んだ。 それは今の自分を形作るものであり、その経験が今の自分を支えている。 けれど、 「どういうこと?」 「私の願いは軍人のままでは叶えられなかったんです。」 首を傾げる彼女にラクスは小さく笑う。 最初は自分も彼らと同じように卒業したら軍人になるのだと思っていた。 けれど次第に別の思いが胸に住み着く。 それは今のままでは叶えられず、叶える為にはキラと離れなければならなくて。 悩みに悩んで、そしてたどり着いた結果。その思いを同室だったアスランに打ち明けた。 「―――アスランと約束したんですよ。」 話を聞いて、賛成してくれたその時に。 戦場ではアスランが彼女を守るから、自分は彼女が戦場に出ずに済むような世界を作る… 全ては目の前のこの少女のために。 「だから… だからあの時 アスランは反対しなかったんだ。」 ようやく納得できたとキラが呟く。 軍人にならないと聞いたのは本当に卒業の直前、寝耳に水の出来事だった。 何も知らなかったからキラも周りも当然驚いた。そして考え直すように言ったけれど、彼 はついに受け入れなかった。 でもアスランだけは何も言わなくて。それがキラにはずっと不思議で。 その謎がやっと今解けた。 「…それなら 僕にも相談して欲しかった。」 アスランばっかりずるいと彼女は口を尖らせる。 それに苦笑いしながら、ラクスはふと 彼女の長い栗色の髪に触れた。 「好きな人には良いところしか見せたくないものですよ。」 ―――好きな人、 それが耳に届いて理解して。 自分だと気づいた途端に耳まで一気に赤く染まる。 不意打ちのせいか対処しきれないようだった。 「ラクスっ」 彼女は怒って叫ぶけれど それもただ可愛いだけで笑みしか浮かばない。 彼女の心はまだここにあるのだと、自信が持てたから。 「言わないでって言ったのに…… 僕はまだ君に」 「言わなくても良いですよ。」 赤い顔のままぶつぶつ言っているキラの唇に軽く人差し指で触れて言葉にストップをかけ る。 言われることは分かっていたし、それはあまり聞きたくない言葉だったから。 「大丈夫です、ちゃんと待ちますから。今のはただ変わらない想いを確認してもらっただ けです。」 戦争が終わるまでは待ってと言われて承諾した。 慌てても彼女は手に入らないことを知っていたから。 でも、離れている分だけ不安も少しあって。 ―――だからたまには。これくらいは許して欲しい。 「早く"答え"をもらえるように頑張りますね。」 他の誰でもなく 貴方の為に、平和な世界を―――― --------------------------------------------------------------------- 遅くなってしまいましたが 続きのラクキラです。 特にラブってるわけでもないんですけど、オマケ程度に。 この2人の関係は"友人"で、でも両思いなのは知っている。そんな感じです。 貴方の為ってゆーか、自分の為にも聞こえなくもない最後のラクス様のセリフ…(苦笑)