会場にはいつもアスハ邸が使われるが、主催はヤマト家とアスハ家。
元は誕生日に引き離すのは可哀想だという親達の思いから始まったものだ。
けれど、あのアスハとヤマトのパーティーだということで 規模は本人達の意思とは関係
なく年々大きくなっていっている。
純粋に祝いに来てくれているのはどれくらいいるだろうか。
―――まぁ、キラ達にしてみれば、大好きな人達がおめでとうと言ってくれればそれで良
かったから 特に気にはならなかったのだけれど。
「あら。今年はエスコートの必要はないのですか?」
ホールの端近くにアスランの姿を見つけたラクスが揶揄するように話しかける。
今日の彼女のドレスはスカイブルー。背中が大きく開いたデザインだが 彼女が着るとと
ても上品に映るのは彼女から滲み出る気品故か。
「…思い出させないで欲しいんだが。」
疲れたように返すアスランのタキシードは紺。
彼のビシッと決まったそれと スッと背筋が伸びた立ち姿は女性達をときめかせるには十
分なもので。
ラクスが男性を、アスランは女性達の視線を無駄に集めてしまっている。
どんな表情をしていても格好いいと映るから美形は得だ。
「…ねぇ、あれ。」
「あら。やっぱり絵になるわねぇ。」
貴婦人達の囁きが2人の耳にも届く。自分達が言われているのはすぐに分かった。
―――アスラン・ザラとラクス・クライン。
本人達にその気はないが 未来を担うカップルだと称される2人は並んで立っているとい
うだけで注目を浴びている。
しかしすでにもう慣れている為 それらを完全に無視して友人という立場で会話を続けて
いた。
婚約していながら甘やかな雰囲気が微塵もないのは 彼らの想い人が別にいるからだ。
2人は昔から互いに友人で、周りがどう思おうとそれは変わらない事実。
婚約した当時からコツコツ続けていた根回しもあと数年もすれば完全になるはず。
それまでは仮面の婚約者を続けるつもりだが、特にこの日にそれを演じる気はなかった。
「去年は本当に楽しかったですわ。」
ふふっと彼女は本当に楽しげに笑う。
見ている方はそうだろう。可哀想だったのはアスランとキラだ。
「……俺はいい加減忘れたい………」
切実だが忘れることなどできないことも十分解っている。
完全に他人事だからそう言って笑えるんだと、巻き込まれた当事者であるアスランは深く
息を吐き出した。
去年の双子は両方ともドレスで、仲間うちでの厳正なるくじ引きの結果 アスランはキラ
のエスコートをすることになったのだ。
ちなみにカガリのエスコートは同様の方法で決まったシンが務めている。
シンにはステラがいると分かっていてもやきもきしてしまったり、ゲームであわやキラと
キスさせられそうになったり。
去年のこれには良い思い出があまりなかった。
「私はその前の性別逆転も好きだったのですけれど。今年は2人ともタキシードでも素敵
だと思いませんか?」
「それはキラの女装以上に洒落にならないんだが……」
キラの女装は違和感がなくて2年連続で大好評だった。
そういえば一昨年のカガリのタキシード姿に女性陣がわいていたのを思い出す。
あれはなんとなく面白くなかった。
それに彼女がタキシードでは一緒に踊れないので、可愛い彼女にはできればドレスを着て
欲しいのが正直な願望だ。
「楽しみですわね。」
悶々と悩む彼の胸の内に気づいているのかいないのか。
読めない笑顔で彼女は言って アスランの溜め息を一つ増やした。
フッと全ての照明が落ちる。
続けて中央の白いリボンで仕切られた通路にのみスポットが当てられ、話し声が止んだ会
場の視線も全てそこに集まった。
「―――大変長らくお待たせしました。」
前方のステージにもスポットライトが灯され、司会の男性が現れる。
このパーティーではもうお馴染みとなった男性は、長ったらしい前置きを綺麗に省いて
入り口を掌で指した。
「では本日の主役の登場です。」
合図とともに中央入り口の扉が開かれる。
それと同時に聞こえてくるのはゆっくりとしたパイプオルガンの調べ。
誰もが一度は聞いたことがある曲だ。
ただ、問題はその場所。
とある式の式場で、主役の男女が現れる時に、それは聞くはずの……
「あれは…!?」
気づいた者から順にざわめいた声が上がった。
柔らかい絨毯が敷き詰められた真っ赤なヴァージンロード。
2人はそこを仲良く腕を組んで歩く。
彼らを包む色は白と、キラキラと輝く光。
通路の両脇に並ぶパーティーの招待客はまるで式の参列者。
―――どこから見てもそれは "結婚式"そのものだった。
「あらあら。」
「カリダさんも思いきったことを…」
周囲が驚いて様々な反応を見せている中で、カリダの人となりをよく知るアスランとラク
スは苦笑い。
彼女の行動と発想はいつも予想をはるかに飛び越える。一体何の勝負だと言われそうだが
今回もこちらの負けだと思った。
その結果を、やられた と意味もなく悔しく思うのは、自分達も予想するのを楽しんでい
るからだろう。
…今年があれなら来年はどうなるだろうな。
そう思える自分は他と比べて余裕なのだろうと アスランは自分達の前を笑って通り過ぎ
る双子を目で追った。
壇上に立った双子は 司会からマイクを受け取ってペコリと頭を下げる。
拍手が止んだ後、先に口を開いたのはキラの方だった。
「今日は僕達の結婚披露宴にお集まりくださりありがとうございます。…というのは冗談
ですが。」
最後の付け足しは冗談に取れない人達のために。友人や常連の参加者は笑って終わるが、
中にはキラとカガリの関係を知らない人もいる。
数人ほどが明らかにほっとしているのを見て キラは内心でくすりと笑った。
「―――では改めまして。今日は私達の誕生パーティーへ来てくださってありがとうござ
います。」
アスハ家とヤマト家にそれぞれ引き取られて 11回目の誕生日。
最初は立っているだけだったここで、今 2人は自分達だけで話している。
双子の実の両親は共に研究者だったから 引き取られるまでこんな世界とは無縁に過ごし
てきた。
その頃はこんな風に人前で堂々と話せるようになるなんて全く予想もしていなかった。
「今年のコンセプトは見ての通り結婚式だそうで、理由は単純に私達が18になったからだ
そうです。」
「僕としてはドレスじゃなくて良かったとホッとしています。2年続けて女装させられた
ので今年もかとひやひやしていました。」
わざとらしいほどのキラの溜め息に会場内の誰もがくすりと笑う。
ちなみにどこからか聞こえた"残念"という呟きは黙殺した。
「私は似合うから構わないと思うんですけど。」
「もう無理。女の人って本当にすごいと思います。あんな高いヒールでスタスタ歩いたり
踊ったりできるんですから。」
「それは本当に感心しますねー。」
「って、カガリは賛同しちゃダメだよ。」
キラのツッコミに再び笑いが沸き起こる。
それにカガリはぷぅっと頬を膨らませてキラを睨んだ。
「だって苦手なんだよ。」
打ち合わせ無しの双子の会話はツーカーぶりを発揮して軽快に進む。
飽きさせないトークは招待客にとっても楽しいものだが、ちらりと時間を確認した司会が
頃合いを見計らって間に割って入った。
「…あの、そろそろ……」
申し訳無さそうに、こっそりといった感じで。
すると気づいた2人はそこで話をぴたりと止める。
「そうだった。早くしないとせっかくの美味しい料理が台無しになってしまう。」
「それもだけど、お客様も足が疲れてしまうよ。」
仲良くごめんなさいと謝ってから2人はマイクを司会に返した。
「次は花束の贈呈―――なんですが、今年は結婚式がコンセプトですので指輪の交換なら
ぬ花束の交換といきましょう。」
「「え??」」
司会が目で合図を送ると 5歳くらいの少女が2人やってくる。
彼女達はキラとカガリにそれぞれブーケサイズの花束を手渡してすぐにいなくなった。
2人が持たされたのは白いリボンで結ばれた 白いバラの花束。
こんなところにまでお遊びが入っていて、ひょっとしたら祝われるより遊ばれているよう
な気もしないでもないけれど。
「…えーと、」
互いに見合ったまま、なんだか照れ臭くて小さく笑う。
「おめでとう、カガリ。」
「おめでとう、キラ。」
そういえばまだ伝えていなかった言葉と共に。
差し出されたそれをありがとうと言って受け取った。
けれど、受け取ってそれで終わるはずが、何故かキラはさらに手を伸ばす。
流れるような動作で手首を掴んで彼女の体を引き寄せて。
「え?」
よく分からずに戸惑うカガリが意図に気づくよりキラの行動の方が早かった。
「…!?」
頬に感じた柔らかで温かな不思議な感触。
それがキスだと認識したのは一瞬後のこと。
周りからはおおっと驚きにも歓声にも似た声が上がる。
一部空気が固まった気がしたのは、どうせアスランだろうしということで気のせいにして
おいた。
「これもプレゼントに追加しておいてね。」
さっさと離れたキラはウインク付きで小さく舌を出す。
「ッキラ!!」
そんな可愛い顔で言うなんて卑怯だ!とか 頬を押さえて真っ赤になったカガリの意味不
明な叫びも笑顔で受け流して。
慣れた司会がストップをかけるまで、仲良し双子は端から見ればバカップルのようなやり
取りを続けていた。
「―――えー、それではケーキの登場です。」
奥から運ばれてきたそれに、会場は再び驚きでざわめく。
現われたのは三段の大きなケーキ。
生クリームをふんだんに使い、白い下地にピンクやグリーンのクリームで模様が描かれて
いる。
上には果物もたくさん乗っていて、最上段にはお決まりのお菓子で作った新郎新婦。
「制作はAA学園クッキング部の皆様です。これもまた結婚式になぞらえ ケーキ入刀を乾
杯の合図と致します。」
最後まで結婚式のアレンジで思わず苦笑いをしそうになるけれど、でもこんなノリだから
楽しくて仕方がなかったりもして。
今からもう来年が楽しみだ。
「お飲み物をどうぞ。」
ウエイターが会場の客人にそれぞれグラスを運ぶ。
乾杯用のシャンパンであろうそれは中にチェリーが沈んでいて、泡が時折押し上げて中で
踊っているようだった。
「では皆様、グラスをお持ちになりましたか?」
キラとカガリには銀に輝くナイフが渡され、一緒に持ってケーキの前に立つ。
シンとなった会場で司会の方を見ると、彼はどうぞと頷いた。
せーの、
合図は心の中で。
だって、声に出さなくても2人はちゃんと分かるから。
サクッとナイフが入った途端 一斉にクラッカーの音が鳴り響く。
誰もがグラスを高く掲げ、会場も一気に沸いた。
『おめでとう!!』
『乾杯!』
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また誕生日にウエディングドレス(笑)
でも双子でウエディングをやりたかったのです!ラブラブな双子を書きたかったのですよ!!
ちなみに立食なのでキャンドルサービスは無しです。本当はやりたかったけど さすがに長くなりすぎるので〜
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