第8話 − それぞれの思惑?
「―――と、いうワケで。うちのクラスはカフェに決定しましたー!」
ホワイトボードに記された多数決の結果を見たお祭り実行委員長(not学級委員)が宣言す
ると 教室がわっとわく。
そこは予想通りというか、票数はダントツだった。
「じゃあ次は役割分担だな。接客の他に何があるっけ?」
調理、運搬 等々。周囲からポンポン投げられる意見を書記がボードに書き出していく。
話し合いの進行は司会のトールのリードが上手いのか、思った以上にスムーズに進んでい
た。
「…僕は裏方が良いな……」
「何言ってんだ。そこの4人組は接客担当に決まってるだろ。」
キラがぼそりと呟いたのを聞きつけたトールから即座にツッコミが入る。
さらには一緒にいたアスラン達までひとくくりで勝手に接客欄に名前を書かれた。
「ちょっ、なに勝手に…っ!」
「だいたいさー お前達がやんなくて他に誰がやるんだよ。」
トールに意見を改める気はないらしい。
横暴だと反論しても彼の意見はキラ以外納得しているために味方がいなかった。
本人は自覚していなくてもキラもまた有名人。そんな人物を裏方に回したら顰蹙ものだ。
トールはそれを知っていた。
「僕、そーゆーの苦手なのにっ」
「却下。」
キラの意見はまたもバッサリ切られてしまう。
ラクスは分からないが 他の2人は元から諦めているらしく何も言わなかった。
相手はこういう時に実力を発揮するお祭り実行委員長、むしろ反論するキラの方が無謀な
のだ。
だいたいクラス全員を相手取ってどう勝ち目があるというのか。
「とにかく、僕は嫌だからね。」
それでもキラはどうしても嫌らしく、人前に出るなんて冗談じゃない と突っぱねる。
すると今度は別方向から意見が飛んできた。
「えーっ キラくん 着てくれないの!?」
「貴方が着てくれるなら私達も作り甲斐があるのに!」
嫌がるキラに反論したのは数人の女子で、彼女達は席を立ってキラにつめ寄る。
「キラくんが着てくれるの楽しみにしてたのよ!?」
「そうよ! あーゆーのは見目が良くなきゃダメなの!!」
「え…? あの、…!?」
あまりの勢いに さすがに彼も押されて強く言うことができなくなった。
「……てか、それなら 別にアスランだけでも良いんじゃ………」
「良くない! 足りないわ!!」
譲れないのはキラも同じだが、彼女達の勢いはそれを上回る。
彼女達の後ろに立つトールは勝ったとでも言うようににやにゃと笑っていた。
「―――という衣装班女子からの強い要望だ。これでも嫌と言うのか?」
「…う……でも………」
「私も見たいわ。」
「っマリュー先生!」
彼女はくすくすと笑いながら 非難を込めて睨むキラの視線を受け流している。
自分の席で黙って成り行きを見守っていた担任まで敵にまわってしまった。
ここまでくれば完全に勝ち目がない。
「…ダメ?」
女子からの期待の眼差しが突き刺さる。
「ダメかしら?」
担任は笑顔で圧力をかけてくる。
「……………」
キラはついに根負けして肩を落とした。
「……分かりました…」
その途端に女子からは歓声の声が上がる。
基本的に押しに弱く 女性からのお願いは断れない性格だ。今回も無駄な労力を使っただ
けで終わってしまった。
「嫌々引き受けさせて悪かったな。代わりにペアやシフトは好きにして良いからさ。」
不機嫌なキラへのフォローなのか、役割分担が決まった後にトールはそう言ってきた。
時間さえ満たしていれば後は自由にして良いとのこと。
ウエイトレス&ウエイターとして表に出るのはキラ達を含め男女各6名ずつの計12名。
そのシフトは男女の比率が片寄らないようにするために男女でペアを作って回すことに決
まっていた。
「じゃあ ペアは僕とカガ…」
「―――でしたら私、キラと組みたいですわ。」
『!?』
突如、爆弾発言をかましたのは隣のラクスだった。
けれどこれに関してはキラもあっさりと良いよと頷いてさらに周りを驚かせる。
そして良いことを思いついたとでも言いたげな爽やかな笑顔でくるりと親友と姉の方を振
り向いた。
「と、いうわけでカガリとアスランがペアね。」
「は……?」
「ちょ、!?」
長年の経験から先読みし、慌てたカガリが何かを言う前にキラは素早く肩を引き寄せる。
ラクスが与えてくれたせっかくのチャンスを逃す手はないと思った。
「…ペアになればシフトがずれることもないから一緒に回れるよ。」
そう アスランには背を向けた形で彼女の耳元に囁いてやる。
それに彼女の心が揺らぐのを感じ取ったキラはもう一押しだと言葉を続けた。
「最近2人きりになってないでしょ? これってチャンスだと思わない?」
「……やる。」
彼女の肯定を聞きほっとしたキラは、顔を上げてラクスに視線でありがとうと告げる。
それに彼女はふわりと笑った。
(ラクス…?)
あの朝と同じなんとも言えないものを再び感じて、アスランは彼女に怪訝な目を向ける。
なんとなく感じてはいた。
ラクスのキラを見る目は特別な者を見る目だ。
それはまるで彼しか見えていないかのように 真っすぐに向けられている。
前に聞いた初恋の君にキラが似ているのか、あるいはあれはキラ本人のことなのか。それ
は知らない。
だが、確実にラクスの想いがキラへ向いているのは分かった。
知ってしまったら無視できない。
それが今更どうにもならないと分かっていても。
―――ラクスの想いが届かないことをアスランは知っていた。
(ラクス、キラには………)
言えない言葉は重く心に落ちていく―――…
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アスランが聡いのではなく、単にラクスが好意を隠してないだけというか。
本当は7、8話は一つのはずだったんですが… だんだん長くなっていく……
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