第7話 − 初恋の人
「ラクスの弁当は誰が作ってるんだ?」
「お手伝いのアリスさんですわ。カガリさんは?」
「うちも乳母のマーナ。ちなみにキラとアスランはカリダさん…って、キラの母親の名前
なんだけど、彼女が2人分作ってくれるんだ。」
「そうなんですか。いつもキラのバッグから2つ出てくるのはそのためなのですね。」
「うん。母親同士が学生時代からの親友なんだ。」
「今も2人で旅行に行ったりするしな。」
「そういう関係というのもすごく良いですわね。」
「だよなー 私も羨ましいと思う。」
元に戻ったようで、少しだけ違うかたち。
初等部に入学してからずっと3人一緒に過ごしてきて、今まで他の誰も入り込めなかった
そこに、彼女はまるで前からいたかのように収まってしまった。
元々目立つ集団がますます目立つことになってしまったが、そこに関しては特に本人達は
気にしていない。
それにクラスの大半はアスランとカガリが仲直りして良かったという感想を持ったため、
案外あっさりその光景はクラスに溶け込んだ。
こうして4人でお昼を食べたりするのも当たり前になって。
意外に全員が弁当持参だったため、窓際に机を並べて食べるのが日課となった。
「…全く困ったものですわ。アスランにはこれといって断る理由がありませんから。」
「…………」
ふぅ と溜め息をつきながら、ラクスが婚約への不満を漏らす。
つまり完璧だと言っているのだけれど、全く歓迎していないのでアスランとしては内心複
雑な心境なのだろう。それがわずかに表情に出ていた。
ラクスもそれに気づいていたものの そこは敢えて気づかないフリをする。
協力するという言葉通り、まず婚約についてカガリに誤解されたままでは困るのだ。
自分とアスランの間には何もないのだと信じてもらう必要があった。
「どうしても断る理由が欲しくて転校までしてきましたのに。」
今までも婚約直前までいく人は何人かいて。
けれどそれら全て 何かしらの理由をつけて断ってきた。
今回はそういった"理由"がどうしても見つからなくて、だから転校まですることになった
のだ、と。
「婚約者を知るためにっていうのは同じだけど動機が反対なんだ。」
彼女の話から、その一般的なものとはかけ離れた理由にを知ったキラは苦笑って言った。
「……でも、どうしてそんなに婚約が嫌なんだ?」
何とはなしに言われたカガリの疑問は至極最もだ。
断る理由がないほどの相手なら普通はそこまで拒絶することはないはず。
けれど、ラクスにはちゃんとした理由があったから。
「―――私にはずっと前から好きな方がいます。」
「えっ!?」
その言葉にキラもわずかに反応を示すが、それに誰も気づかなかったのはラクスもアスラ
ンも身を乗り出したカガリの方を見てしまったからだ。
「それってどんな奴!?」
こういった話だとどこかイキイキして見える。そこは女の子らしい反応と言えるだろう。
ラクスはくすりと笑って いつも持ち歩いているハンカチの入ったポケットに視線を落と
した。
「幼い頃…あるパーティーに参加したときに困っていた私を助けてくださった男の子がい
ました。同じ時間を共有したのはほんの短い間でしたけれど…… 私はその方のことがそ
の時からずっと忘れられないのです。」
そっとスカート越しにハンカチに触れる。
「辛い時も不安になった時も―――ずっと、心の支えになってきた方なのですわ。」
話ながらも、キラの方は怖くて見れなかった。
ラクスにとっては何より大切な2人だけの思い出を 他人事のように聞いている姿は見た
くなかったから。
だから彼女は気づかなかった。
キラが、その話を懐かしそうに柔らかく笑んで聞いていたことに。
「それから会えてないのか?」
「再会はしました。…でも、その方は覚えていてくださらなかったのですわ。」
「うわっ サイテーな奴だな。」
相手が目の前のキラだと気づいていないカガリの言葉は容赦がない。
…逆にもし気づいていたとしたら、どうして忘れてるんだとど突いたかもしれないが。
「仕方ありませんわ。お会いしたのはたった1度きりでしたし、覚えている私の方が変な
のかもしれません。」
あの時 私達はまだ互いに6歳だった。
それを考えれば彼が忘れていても仕方ないことだと思う。
この想いすら 勘違いなのかもしれない、と。聞いた人は言いそうなくらい、それは幼き
日の出会い。
……けれど、幼い日のそれが初恋にも満たないものであったとしても。
「今でもそいつのことが好きなのか?」
寂しさを少し滲ませた表情を見てしまったカガリが心配げな様子でラクスを窺う。
彼女の態度でそれを悟ったラクスは 陰を振り払うように明るく笑って見せた。
「…ええ。向こうが覚えていなかったとしてもこの想いを消すことはできませんから。」
ずっと彼はここに―――心の中に住み続けていた。それは真実。
知らず育っていたこの想いが今さら嘘だなんて思えない。
「私は今でも…… いえ、今はもっとあの方を好きだと思います。」
…今の貴方も好きですわ。
声に出せない告白の代わりに 言葉を変えて想いを紡ぐ。
最初に惹かれたのは幼い日の彼。
心を占めていたのは思い出の中の彼だった。
―――"僕は好きだよ"
けれど、あの瞬間心を奪われたのは、、、、
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ぐるぐるとどれだけラクス様がキラを好きかを語っている話になってきたような…
アスラン、そこにいるのにしゃべってない(苦笑) 今回セリフ1コ……ごめん………
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