第4話 − 騎士と姫君
まったく、冗談じゃない。
ここのところ機嫌は最悪だ。
アスランとはまともに話せないし、家でも学校でもアイツが付きまとう。
―――そう、アイツ。…私の婚約者とかいう男。
いっつも喰えない笑顔で、悔しいほど余裕って態度してて。
ものすごい自然に私とアスランの邪魔をしてくれる。
はっきり言って すっごくムカつく。
いい加減ストレスで胃に穴でも開きそうだぞ 私は。
「―――どこへ行くんですか?」
「……」
また来た、とばかりにうんざりした顔でカガリは振り向く。
「どこでも良いだろ? お前には関係ない。」
これから生徒会室に逃げ込もうとしていた、なんて素直に言うつもりはなかった。
言ったところで妨害されるだけだ。
「そういうわけにもいきませんよ。貴方は僕の婚約者だ。」
「…ッ」
…殴りたい。思いっきり。
今すぐ、グーで。
「婚約者がどうしてそこまで把握する必要があるんだ!?」
今すぐ振り上げそうになる拳を 震えながらもなんとか耐える。
ここは廊下の真ん中で、不本意だがこいつは私の婚約者で。
それだけならともかく、自分の行動のせいでキラに迷惑がかかることだけはしたくなかった。
「で、どちらに行かれるんですか?」
肩に手を回された瞬間にぞわりと総毛立つ。
反射的に投げ飛ばさなかった自分を褒めてやりたいが 気持ち悪いことに変わりはない。
「…離せっ」
「何故? 恥ずかしいんですか?」
そんなわけないだろうがとツッコミを入れたいのは山々だが。
恐らく…というか確実にこの男はわざとだ。
…私のことを好きでもないくせに。
気づかないわけがない。
笑顔で囁かれる甘い言葉も 感情がこもらなければ白々しいだけだ。
今は"本物"を知っているから分かるんだ。
ってか 誰か助けろよ…っ
無茶な願い事だとは思っても、そう思わずにはいられなかった。
目立つことこの上ない状況でも 立場的には彼の行動に問題はない。
当然 周りは見て通り過ぎるだけだ。
カガリにはそれが歯痒くて 悔しくて。泣きたいくらい嫌で。
それに触れられている肩が気持ち悪くて仕方がなくて。
無意識に心で助けを求めてしまう。
こんな時、脳裏に浮かぶのは彼の姿、、
―――アスランっ!
「!?」
突然 ぐっと腰を彼から引き剥がすように引かれる。
その場に倒れるかと思った身体は、予想外に 優しく何かに抱きとめられた。
「こんな往来で女性に無理強いをするのはどうかと思いますが。」
「アスランッ!?」
まさか本当に来てくれるとは思っていなかった。
びっくりして、丁寧な言葉の割にどこか機嫌が悪そうな顔を見上げる。
その アスランの射るような視線は、目の前のウォルターにのみ注がれていた。
「…おやおや。騎士気取りですか?」
怒るふうでもなく 逆にからかうような口調にカガリはカチンとくる。
けれどアスランの方はさらに目を細めて視線を鋭くしただけで、その場はあえて無言で通した。
「―――まあ良いか。今日のところは譲りましょう。」
意外にあっさりと諦めて、ウォルターは両手を上げて降参のポーズを取る。
諦めたといっても、彼自身はそれさえも大したことではないような態度だったけれど。
「…あ。来週末、楽しみにしてますね。」
ギクリと強ばるカガリと、彼女を抱くアスランの手には僅かに力がこもる。
その反応が満足するものだったのか、楽しげに1度笑うと彼はひらひら手を振って2人に背を向
けて去っていった。
「遅かったね。」
生徒会室へ避難した2人を先に来ていたキラ達が出迎えた。
応接セットでくつろいでいるものの その表情には疲労が僅かに見え、ラクスに至っては分かり
にくいがたぶん機嫌が悪い。
…落ち着けるのはここだけか。
いつもならラクスが注いでくれる紅茶を、自分とカガリの分を自ら注いで アスランもソファの
一つに腰を下ろす。
隣のカガリはスカートで足を高く組み、頬杖をついて不機嫌オーラをまき散らし。
今回は理由が理由だけに さすがにいつものように止める気はアスランも起きなかった。
「…これは本気でどうにかしないと。」
「カガリが爆発しそうだもんね。」
アスランの呟きにキラが苦笑いで賛同する。
ちらりと彼が見やった先ではカガリが"ムカつく"を繰り返していた。
彼女の様子で 現場を見ていないキラも事態を察したようだ。
「―――俺もな。」
サラッと返すと キラはギョッとなってアスランの方を振り返った。
「え、アスランもやっぱり頭にきてるわけ?」
「当たり前だろう。」
当然だ。
こちらの関係を承知した上でのあの態度。
状況をただ楽しんでいるだけのようなところも気に食わない。
それに、あんな場面を見せられて冷静でいられるわけもなかった。
俺はそんなにできた人間じゃない。
「うーわー 本気でどうしよう……」
引きつった顔でキラが呟くと同時、全員のため息が重なった。
―――嵐の到来から1カ月弱。
事態はかなり深刻だった。
---------------------------------------------------------------------
今回はアスカガメインでした。なんでかキラだけマイペース…
BACK
NEXT