第2話 − 嵐 来たる



「婚約!?」

 4人の城である生徒会室。
 そこに集まったのは一緒に昼食を取る為だったのだけど、食後のお茶を楽しんでいるところで
 キラがそれを口にした。
 珍しく感情を表に出して驚いたラクスにキラは苦い表情を向ける。
「うん、そう。父さんも頑張って阻止してくれてたんだけど 周りがそれを許さなくて仕方なく、
 ね…」

 婚約はしないとキラは言っていた。
 自分には心に決めた人―――ラクスがいるから。
 両親はそれを認めていたのだ。
 しかし、祖母を含む親族がそれを認めなかった。


「…そして私も婚約した。」
「「!?」」
 不機嫌な態度を隠しもせず、組んだ足の上に頬杖をついてカガリが続けて爆弾発言。
 今度はアスランも驚いて がばりと彼女の方を見た。
「相手は僕達と同じ双子。良縁だって周りは大喜び。」
 肩を竦めてキラが言うと カガリはますますブスッとふくれる。
 今回のことは彼女にとってよほど不本意なものらしかった。
「いくら仲が良いからってこれはないと思わないか? しかもキラの方はとばっちりに近い。」
「とばっちり?」
 アスランの問い返しにコクリと頷く。
「私の婚約の条件は知ってるだろ。"私より強くないと認めない"って。」

 趣味と護身術を兼ねて、カガリは一通りの格闘技も会得していた。
 そちらの方のセンスもなかなかのものだったようで、今のところ彼女を負かすことのできる相手
 はアスランとキラしかいない。
 しかもそれは彼女の癖をよく知るという理由からで。
 だから 婚約から逃げる口実としてそんな無茶な要求をつけていたのだが。

「まさか…」
「そのまさか。勝っちゃったんだ、彼。」
 ブスッとしてるカガリの代わりにキラが答える。
「条件は条件だからな。いくら私が認めないって言っても通じない。」
 事実はどうであれ、カガリが負けたことに変わりはない。
 それに、ここで渋って新しい要求を突き付けるような真似はカガリにはできなかった。
「でも、どうしてカガリが…?」
 彼女の強さを知っているだけにアスランには俄かにそれが信じられない。
 並の男子では敵わないのだ。一体どんな奇跡が起こったというのだろうか。

「……理由は聞かないでやってね。」
「え?」
 怪訝な顔をするアスランにキラは苦笑い、カガリは少し顔を赤らめてそっぽを向く。
「ぁ……」
 それで察してアスランも押し黙った。


「―――その方々はこの学園の方ではないのですね?」
 もしそうだったらもっと騒ぎになっているはずだ。
 ラクスの確認にキラが頷き返す。
「2人とも今は留学中らしいから。だからとりあえずは肩書だけの関係ってことになるかな。」
「…俺達と同じってわけか。」
「煩わしいものだよね、ホント。」
 アスランの少し疲れたような溜め息にキラもまた同意して肩を竦めた。


 ……初めはその程度のことだと思っていた。

 けれど、やっぱり嵐は来てしまったのだ。






「はじめまして。ウォルター・フィルゲンです。」
「ヴィオラ・フィルゲンです。よろしくお願いします。」

 まさかその双子が転校してくるなんて考えてもみなかった。
 しかも同じクラス、おかげでカガリの機嫌は下降一直線。

 3年前と同じだなぁと思う一方で、これはしばらく荒れるな…と、キラは直感で思った。










 転校生というものは初日質問攻めに遭う、というのは 何か決まりごとのようなものだろうか。
 例に漏れずフィルゲン兄妹も休み時間ごとに囲まれていた。
 なまじ容姿が整っているせいか、その人気はかなりのもののようで。

 また キラ達の方も生徒会の仕事で1日ゴタゴタしていた為、2人と会話というものは一切なく。

 ―――このまま無事に終えるかと思っていた日は、しかし放課後 見事に崩れさった。




 帰り支度を済ませ生徒会室に向かおうと、いつものように4人で視線を何げなく交わす。
 それからカバンを持って、キラも席を離れようとした時だった。

「―――キラ様。校内を案内してもらえませんか?」

 彼の進路を自然に塞いで、にこりと彼女が笑った。
 ざわりと、その言葉に教室がどよめく。

「ヴィオラ さん… でもそれはクラス委員の……」
「あら、何か不都合でも?」
 困ったように笑って切り返した言葉もあっさりと受け流されて。
 どうしようかと返答に窮しているといつの間にやら腕を絡められてしまった。
「ちょ、」
「こら お前! キラに何を…!!」
 すぐにそこにカガリが割り込む。
 そして引き剥がそうとするが、それは別の手にさりげなく止められてしまった。
 そのまま流れるように引き寄せられて、慌てる間もなく肩を抱かれる。

「じゃあカガリさん、貴方もご一緒しませんか?」
 様子を微笑ましく見ていたはずのウォルターが、こちらも笑顔で言い出したのだ。
「はぁ!? 何で私が。」
 明らかに不機嫌な反応を返してくるカガリに、それでも相手は笑顔を絶やさない。
「キラ君とヴィオラが一緒では僕がお邪魔虫になってしまうでしょう?」
「そんなもの私が知るか!」
 関係ないと突っぱねようとした彼女の動きを、しかし彼は先手で封じる。
 彼女の肩に置かれていた手が顎へ撫でるように伝い、そっぽを向くどころか逆に無理矢理上を向
 かされてしまった。
「貴方も関係なくはないでしょう?」
「……っ」
 至近距離で言われ 一瞬息を飲む。
 しかしすぐ我に返って、その手を振り払うとその場から1歩逃げた。
 それでも顔が赤くなるのを抑えられないのは、彼女が異姓のアプローチに対して免疫がないせい
 で。

 ―――それに気づいたアスランが、わずかに眉を顰めたのは 誰も知らないこと。



 ざわざわと教室が次第に騒がしくなる。
 ギャラリーが増えてきたようだ。

「…マズイ、よね……」
 誰にも聞こえない程度の声でキラが呟く。

 この学園に生徒会4人の仲を知らない者はいない。
 それで今 この会話は非常に危険だ。
 いかにも詮索してくださいと言わんばかりの これは。

 ……頭痛がする。

 彼女は腕を離してくれそうもないし、これ以上この場にいたらもっと人が増える。
 今これ以上拒絶するのは得策ではないと キラは判断を下した。


「…ラクス、アスラン。僕達1時間ほど遅れるから先に行ってて。」
 深い溜め息の後、未だ何も言わない恋人と親友の方を見る。
 彼らの方への詳しい話は戻ってからするからと。
「了解した。」
 表情と視線で状況を正確に理解してくれていたアスランは、すぐさま3人分の鞄を持って教室を
 出て行く。
 ラクスも一瞬だけ視線を合わせると 彼に続いて出て行った。

 さて、ホントにどうしようか……





 その日の放課後、
 見知らぬ美少女に腕を組まれて困った様子のキラと、見知らぬ これまた整った容姿の青年の隣
 で不機嫌オーラを纏ったカガリの姿が多数の生徒に目撃された。
 それには皆一様にして驚きを隠せなかったという。
 何故なら、生徒会の2組のカップルは教師の間にすら黙認という名の公認で認められていたもの
 だったから。

 そしてその一大ニュースは、後日発表された婚約という形で全生徒の知るところとなった。







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オリキャラ登場。これから出張りまくります。
どうでも良いですが この兄妹のカラーは金髪に灰青色の瞳のイメージです。



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