08. It is a broken sound. (1)
会いたくないと思う時に限って出会ってしまう。
見たくないと思うものほど目に入る。
そういえば――― キラと会うのは何カ月ぶりだろう。
先日ついに実現した地球とプラントの協定を祝してのパーティーが今日はオーブで行われていた。
それをカガリが主催するとなればそれなりの規模になる。
各国の要人が大勢招かれ、当然ラクスもプラントの代表の1人として呼ばれていた。
そして、彼女が来るのなら"彼"が出席するのも当たり前のことだ。
今も数人のお偉方に囲まれて話している彼女の隣に立ち、共に彼らの話を聞いているようだった。
「…分かりやすいな、お前。」
隣で進行について話していたはずのカガリが突然笑ってそんなことを言う。
「え?」
驚いてカガリに視線を戻せば、彼女はもう1度声を上げて笑った。
「目が追ってる。さっきからずっと、あっちばっかり見てる。」
「……」
否、と否定することもできずにアスランは黙り込む。
確かにずっとキラばかり見ていたから。
隣に立つのが自分でないことに胸を痛めても、それでも見つめずにはいられなかった。
「仕方ないさ。それが当たり前だ。」
言いながら彼女は明るく笑っているけれど、たぶん傷ついてもいる。
どうしても心はキラに向いてしまうから。
それでも良いと傍にいる彼女だけど、傷ついてないことは決してないはず。
それに謝ろうとしたら、謝るなと先に怒られた。
―――そんな彼女の強さには惹かれるし、尊敬もするけれど。
それでも彼女に応える気持ちを持てない自分が、とても恨めしかった。
正直、アスランの姿を見たくはなかった。
見れば 押し殺した感情がまた溢れだすから。
傷つくと分かっていても、心が彼を求めてしまうから。
でも 結局は感情に負けてちらりと見てしまった。
そして目に入る、すらりとした立ち姿。
ただそれだけに見惚れ、言葉を失ったけれど。
アスランは背中を向けていたからどんな表情をしているか分からなくても。
カガリは何か楽しそうに笑いかけていたから。
あぁ、相変わらず仲が良いんだなと、ぼんやり思って。
―――泣きたいほどに心が痛くなった。
「―――…ッ」
あまりにじっと見ていたからその視線に気づいたのか、アスランが振り向く気配を見せ、目が合い
そうになったキラは慌てて目を逸らす。
見ていたことに気づかれるわけにもいかなかったから。
それは羞恥心と、ほんの少しの罪悪感の為。
「……と、」
逸らしたそこでキラの目に入ったのは、テーブルの上のグラスに注がれたジュース。
深い海の色をしたそれを誤魔化すように乱暴に手に取ると一気に飲み干した。
―――しかし、
「…っ ゲホ!」
途端込み上げるものがあって、思い切り咽てしまった。
視界がグラリと揺れ 顔が一気に熱を帯びる。
今飲んだのがジュースではなくカクテルだったと気づいた時には、膝がガクンと折れてその場に
座り込んでいた。
「キラ!?」
驚くラクスの声が聞こえるがそれも今は遠い。
口元を押さえうずくまっても、気持ち悪さは増す一方で。
いくら飲むのが初めてじゃないと言っても、突然度数の高いアルコールを一気に流し込めば身体が
びっくりするだろう。
それに最近忙しくてろくに睡眠も取れていなかったから。
ゆっくりと、しかし確実に襲ってくる眠気を何とか振り払い立ち上がる。
軽く蹌踉けた身体をラクスが寄り添う形でそっと支えてくれて。
小さくお礼を言ったけれど、でもそれ以上はどうすることもできなかった。
彼女にこれ以上体重を預けることはできないし、だからといって1人で歩いてこの場を去るなんて
こともできそうにない。
…その頃にはもう半分が夢見心地で。
だから、反対側から強い力で肩を抱かれたところで、それが誰だかなんて気づけるはずもなかった。
「俺が連れて行きます。」
今にもまた座り込んでしまいそうな華奢な身体を支えるように抱き寄せる。
目を伏せ肩で浅く呼吸をする彼は、見たところまだ意識はあるが 状況はあまり認識できていない
ようで。
ただ この様子だと単に眠いだけなのだろうと少し安心して息を吐いた。
「アスラン…」
呟くように呼ばれた名に顔を上げる。
ラクスはアスランが駆け寄った時は驚いたような表情を見せていたが、今目が合った時には眉根
を寄せて渋い顔をしていた。
「ラクス…?」
こちらとしてはそんな顔をされる謂れはない。
それを訝しみつつも 今更他の誰かに渡す気にもなれないアスランは、さらに彼の肩を引き寄せて
彼女と対峙した。
この後を任せてパーティーに戻ったところで、どうせキラが気になって仕方がないのだから。
「―――女の貴方ではキラを支えるのは難しいでしょう?」
そんなもっともらしい理由をつけて、一応の彼女の許可を待つ。
その言葉に 一瞬彼女の表情が揺れた。
…何かおかしいと思った。
それはこの前幸せだと言った彼女が見せるものじゃない。
「……お願い、しますわ。」
答えた彼女は常の彼女だったけれど。
1度浮かんだ疑問はすぐには消えてくれなかった。
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次はようやくアスランとキラが会話(?)
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