07. Because it wishes your happiness.
(Athrun&Lacus)
彼女と2人きりになってしまったのは不運な偶然だった。
たまたま訪問の日が重なったらしく、廊下でばったり出会ってしまったのだ。
カガリがいるなら女性同士で話すからまだ良い。
しかし、あいにく今日はカガリの代理という立場の訪問で、当然1人でプラントに来ていた。
彼女も1人で俺も1人。
―――キラと居合わせなかったのが唯一の幸いというべきか。
挨拶まではぎこちなくてもなんとかやり遂せた。
しかしそれ以上となると何を話せば良いか分からず黙り込むしかなくて。
そんな自分を彼女は覗き込むようにじっと見てくる。
何故だか居た堪れない気持ちになって思わず目を逸らしてしまった。
「―――機嫌がよろしくないようですわね。」
それは婚約者だった頃に数度か聞いたことのある、姉のような母のような 心配そうな声。
「いえ、そういうことは…」
弾かれたように慌てて返せば、そこで見たのはやはりその時と同じ困ったような苦笑いだった。
全てを見透かされているような、その上での表情のように見える。
だから それ以上は何も言えなくて、またぐっと言葉を飲み込むしかなかった。
…彼女と話すのは正直辛い。
その全てを見透かすような深い瞳で見られると とてつもなく居心地が悪いから。
息が詰まる思いがする。
それでなくても キラの"恋人"という時点で、既に会いたくない相手だというのに。
彼女に罪はなくとも 感情は上手くコントロールできないから。
自分はまだ それほど大人じゃない。
「カガリさんにお会いできないからと私に当たらないで下さい。」
ふ と表情を和らげて、ラクスが笑った。
「え?」
余裕があったなら冗談めかせて頷いてみせても良かったはずのところ。
けれど間の抜けた返答しかできなかった自分に 彼女は目を瞬かせる。
「あら、違いましたか?」
「あ… いえ……」
言えなかった。
違う とも、そうだ とも。
混乱を招くだけのこの気持ちは決して表に出してはいけないもの。
彼の幸せを奪う権利など 俺にありはしないから。
「―――貴方はまた笑わなくなりましたわね。」
あまりに浮かない顔をしていたせいか、彼女が今まで笑んでいた表情を曇らせて言った。
見透かされたかと思って心臓が跳ね上がりそうになる。
「アスラン、貴方は今 幸せですか?」
「……っ」
直球ともいえる彼女の言葉に息を飲む。
本来ならすぐに肯定するべきなのだろう。でも それができない。
相手が彼女だからか。
自分の"幸せ"を彼女が持っているからか。
「…最近の貴方は私の前ではいつもそんな表情ですわね。」
あまり会う機会もないですけれど と付け加えつつ、どこか寂しそうに彼女は笑う。
「共に戦場で戦っていたあの頃の方が今より近しく感じました。そして自然に笑ってらっしゃい
ましたわ。」
それは貴方がキラを奪ったから。
そう言えればどんなに。
「…ではラクス。貴方は幸せではないのですか?」
唯一大切で愛しくて。
彼が自分の"幸せ"の形だった。
それを手に入れた彼女が幸せでないのなら、何を幸せと呼べば良いのだろう。
「私は幸せですわ。」
すぐに返ってきたその返答には ほっとしたような、けれどきっかけを失って残念なような。
アスランの心中に複雑な思いが残る。
それを表には決して出さなかったけれど。
「好きな人が隣にいて、優しくしてくださって。それで不幸と言うならその方はどこまで贅沢な
方なのでしょう。」
彼女の言葉は本当に幸せだから言える言葉。
突きつけられる現実に胸が軋む。
「そう、ですね…」
その言葉を返すのがやっとだった。
上手く笑える自信はないから笑みを貼り付けることさえせずに。
それに彼女は何も言わなかった。
「―――知ってますか、アスラン。」
不意に、彼女が思い出すような口調で 何気なく言葉を投げかける。
「幸せとは時に誰かの不幸の上に成り立つものなのだそうです。」
「え……?」
突然何を言い出すのだろうと思った。
けれどそれに納得してしまったのは、自分はそれを 身をもって知っていたから。
「私もこの恋の為に多くの犠牲を払いました。でも… それでも欲しかったから、私は誰かの
不幸と引き換えに自分の幸せを望んだのですわ。」
彼女はひょっとしたら俺の気持ちを知っているんじゃないかと、一瞬 そんな思いが過ぎる。
彼女の言う"犠牲"が何なのかは分からない。
ただ、それに俺のこの"心"も入ってるんじゃないかと思って。
―――きっと 未練からくる思い込みだろうけれど。
「……恋とは 時に優しく時に残酷ですわね。」
紙一重だと呟いた彼女の顔は。
その時そこにいたのは、平和の歌姫などではなく ただの恋する少女だった。
「それでも、貴方は手に入れたんですか。」
「ええ。一世一代の恋でしたから。諦めたくはなかったのです。」
勝った者の笑顔で彼女は答える。
後悔など微塵も感じさせない態度で。
それは美しくて、でも眩しすぎて。
自分は"負けた"のだと、不意に思い知らされた。
何を今更、とも思う。
何故俺はこんなことを思うのだろう。
キラは彼女を選んだ。
そして俺はそれを止めなかった。
幸せを願うから
自分の幸せより彼の幸せを願ったから
この想いは閉じ込めておこうと決めた
他の誰でもない、彼の為に―――
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何処までもすれ違いアスキラ。
なんか話が飛んでる気もしますが… えーと、スミマセン。修行不足…
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