06. We are accomplices.
(Cagalli&Lacus)
行き慣れた店の扉を開けるとカランと音が鳴る。
軽く辺りを見回して窓際に目的の人物を見つけると、何も言わず正面の椅子に腰掛けた。
それとほぼ同時にウェイターが来て、メニューも見ずに彼女と同じ物を頼む。
彼が去ってカウンターの向こうに消えたところで、正面の少女が長い髪を揺らして視線を外から
こちらに移した。
「久しぶり、になるか?」
それを挨拶にすれば、応えに彼女はいつものふわふわした笑みを返してくる。
実際に会ったのは1カ月以上前で、それも公の場だけだった。
「互いに忙しくてなかなか会えませんものね。」
メディアを通してなら毎日のように見られるが、それはその分プライベートな時間が取れないと
いうことに他ならず。
頭を付き合わせて会話などどれくらいぶりになるだろうか。
「…空いた時間は"恋人"とのデートだしな。」
カガリの皮肉めいた言葉にラクスは苦笑する。
そう、このカフェだって普段は互いの恋人と来る場所。
女性2人でテーブルを囲むことはまず無い。
それどころか4人で会うこともないから、相手以外と来ることはなかった。
アスランとキラは互いを避け合っている。
そして、そう仕向けたのは自分達だ。
―――私達は同じ罪を犯した者。
「で? その会う時間を使ってまで私を呼び出したのはどうしてだ?」
せっかく来たものにも手をつけず、カガリは真っすぐにラクスを見据えた。
今日相手を呼び出したのはラクスの方で、それはたまたま2人の時間が合ったのもある。
しかし今日アスランはいないがキラは家にいるのだ。
そういう場合は恋人を優先するのが常だったはずなのに、彼女はカガリを呼び出した。
何かあるのかとさらに目で問えば、躊躇うようにラクスは視線を彷徨わせる。
彼女にしては珍しく、何かはっきりしない態度に違和感を覚えた。
「ラク…」
「……キラが……」
やっとの思いでと、彼女の口から出てきたのは最愛の弟の名。
それに当然のごとくカガリは反応する。
「―――優しくなりました。」
「……は?」
予想にもしなかった言葉に、つい変な顔をしてしまった。
"優しい"といえばキラを知るほとんどの人間が使う褒め言葉だ。
ラクスだってよく使う。
けれど、そのキラに対して"優しくなった"とは?
怪訝な目で見るカガリに、ラクスは小さく首を振る。
「キラは優しい方です。…けれど、恋人として接してくれたことは1度もありませんでした。」
請えば抱きしめてくれる、キスも受け入れてくれる。
けれど、"恋人"としては触れてくれなかった。
一度も 彼からキスをもらったことはなかった。
「今は違うのか?」
「はい。」
カガリの問いにラクスはこくりと頷く。
いつからか――― つい最近のことだけれど。
明らかに接し方が変わったのだという。
別れの挨拶に自然と頬にキスをくれた、と。
身代わりは要らないと拒んだはずのキラがどういう心境の変化なのか。
「それは アイツがアスランを忘れられたという意味か?」
「……いえ。気づかなければ私は幸せでいられたでしょうけれど。」
それが本当なら良かったのに。
そう思ってしまう自分は醜くて嫌いだ。
「…キラの心は今も、そしてこれからもアスランのものですわ。」
言っても聞いても虚しいものがあるけれど。
それが真実。
「じゃあ何が変わったんだ?」
「それが分からないのですわ。だから貴方にお聞きしたくて。」
呼び出した理由はそういうことなのだと。
どんな些細なことでも良いから教えて欲しいと彼女は言う。
不安に思う気持ちが分からないことはない。
…"恋人"として接してくれて、幸せでなく不安を感じるなんておかしいことだけど。
でも、私達の関係は元が普通じゃないから。
そんなことは言われなくても解っている。
「―――私は、何も知らない… キラは何も話してくれないから。」
キラはきっと知らない。
アスランの気持ちも、自分の気持ちが私に知られていることも。
そして私はキラが考えていることを全然知らない。
私達の間には隠し事が多すぎる。
せっかく 一緒に住んでいるのに。
お互いにたった1人しかいない姉弟なのに。
本当なら、知らないことはないくらいたくさん話をして一緒に笑って泣いて。
そんな風に過ごしたくて決めた家だったのに。
…どこで狂ってしまったんだろう。
「……私達は間違っているのか?」
「ある意味では。けれど私達はそれを承知で選んだのですわ。」
私達は共犯者
同じ罪を犯した者
自分の幸せの為に大切な人の幸せを奪った
全てを知っていて、彼の未来を奪った
代価として失ったものもあるけれど
それでも
欲しいものがあったから
失くした代価を贖罪に変えて
私達は"今"を手に入れた
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5からさらに時が経過。
…この話の主人公は4人です。
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