05. Only at least loving permits. (Kira&Cagalli)



 日が落ちて辺りを薄闇が包む頃、門の前に見慣れた車が停められる。

 ―――アスランの、だ。

 見てすぐに分かるのは見慣れているせいか、それとも彼のだからなのか。
 不毛すぎて考えるのはすぐに止めた。

 車から降りて2人は何か話している。
 なんだか楽しそうで、僕にはもう見れない優しげな笑みがそこにはあって。
 それが羨ましくて苦しくて。
 でも、目が離せなくてずっと見ていた。
 きっと2人は僕が見ているのには気づいていない。


 不意に重なる2人の姿。
 遠くても視力が良過ぎる自分には明かりの下の彼らがはっきり映る。
 見えるから遠くても彼を見ていられるけど、こんな場面を見たいわけじゃない。
 こんな時だけは 見えてしまう自分が憎らしい。

「……っ」
 感情が溢れてしまわないうちに 力強くカーテンを引いた。







 階段を中程まで下りたところで玄関の扉が開かれる。
「ただいまー」
 キラの存在に気づかない彼女は、下を向いたまま気のない声かけをする。
 部屋にいたなら気づかない程度の小さな声だ。
 それはおそらく無意識の言葉――― クセのようなものだろうか。
 …本当に独りの時も言っているのかな?
 そう思うと少し可愛くて、それが彼女らしく思えて。

「おかえり」
 からかうように笑いを含んで言ってみた。
「!?」
 やっぱり応えが返ってくるとは思っていなかったのか、カガリは一瞬動きを止める。
 ゆっくりと顔を上げた彼女と目が合ってから キラは残りの階段を下りた。



「帰ってたのか?」
 ラクスと出かけていたんじゃないのかと。
 疑問符を浮かべているカガリには苦笑いで返す。
「夜は予定が入ってるんだって。忙しいから仕方ないよ。」

 政治家としても歌姫としても活躍する彼女は本当に多忙で。
 プライベートで一緒にいることは滅多にない。

「そっか。…私も明日からしばらくは帰れないんだよな。」
「僕も。明後日からラクスに付いて行かなきゃ。」


 姉弟だけで過ごしたいと購入したこの家も、実際2人で過ごすのは半分にも満たない。
 彼女はオーブの中心人物だし、自分は政治家としてのラクスを支える役割にある。

 それでもここに帰って来ようとするのは唯一の血の繋がりを確かめたいから。

 ―――でも、カガリは純粋にそれだけなんだろうけれど、僕には もうひとつ。
 …それは、彼女の傍にいれば"彼"の情報が手に入るから。
 直接会えなくても元気だと分かるから。
 そんなこと、カガリには言えないけれど。


「なかなか暇にならないな。」
「そうだね。」
 元々無理な願いだけどな とカガリが肩を竦め、キラも苦笑いで返した。



「キラ」
 不意に気づいたようにカガリがポイッと袋を渡す。
 大きさの割に軽いそれに 何だろうとキラは首を傾げた。
「?」
「私とお揃いだ。」
 笑う彼女に促されて中を探ると出てきたのは白いマフラー。
 彼女が今首に巻いているのと同じもの。
 色は彼女の方が少し緑がかっていたけれど シルエットは同じだった。

「……ペアルックならアスランとしなよ。」
 あんなものを見た後だからだろうか、無意識にキツイ言葉が出て 内心舌打ちをする。
 こんなこと言う立場じゃないのに。
 けれど彼女は気にかけた様子もなく純粋に怪訝な顔をした。
「アイツにこれが似合うわけがないだろう? それに、私はお前に買ったんだ。」

 カガリは優しくて良い子だ。
 だからアスランが惹かれるのはすごく分かる。

「…要らなかったか?」
 キラの態度から何か感じ取ったのか、覗くような視線でカガリが問いかけた。
 それは少し伺うような、拒絶を怖がる少女の顔。
 時折見せる 護りたくなる表情だ。
 こんな顔はあんまりさせたくない。
 だから誤魔化すように笑った。
「ううん。ごめんね、本当は嬉しかったんだ。ありがとう。」
「そっか。良かった。」
 ほっとして再び笑顔が戻る。
 笑顔がとても可愛くて。その度に敵わないって思う。


 ―――もう止めよう。
 大切な人と大事な君、2人の幸せを願うよ。



「いつもやってるの? アレ。仲良いね。」
 意地悪な笑みで頬を指して言うと、途端彼女の顔が真っ赤になる。
「って 見てたのか!?」
「見えたの。」
 キラの言葉にカガリはますます慌てた。
「や、あ、あれは…っ 挨拶で…!」
 顔を真っ赤にしたり青くしたりしながら言い訳を探している。
 そんな彼女のくるくる変わる表情が面白くて、キラはプッと吹き出した。

「夕飯できてるよ。一緒に食べよう。」





 何も望まない
 何も願わない


 ―――ただせめて、想うだけは許して







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4とほぼ同時期。
オーブにマフラーが要るほど寒い時期があるのかというのはツッコミ無しの方向で…



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