03. Lacus side



「……ごめん、ラクス。」
 彼が零した呟きに、カップに紅茶を注いでいた手が一瞬止まる。
 けれどそれは本当に一瞬のことで。

「…ミントティーはお嫌いでしたか?」
 わざと、全然違うことを言って。
 するとやっぱり彼は困ったような顔をした。

「そうじゃ、なくて……」

 彼が何を思い、何を言おうとしているのか。
 もちろん知っている。
 ただ、聞きたくないだけで。


 私が隣に腰掛けるのを待って、彼は口を開く。
 けれど、こういう時、彼は私を見ない。
「…君の気持ちを知っているのに… こんな、中途半端な関係で……」

 その言葉にちくりと胸が痛む。
 これは罪悪なのか、恋する女としての醜い心なのか。

「あら。今のこの状態を望んだのは私ですわ。」
 心を隠して笑顔を作って。
 そっと彼の手に自分の手を重ねた。
「でも、こんなことじゃ君が幸せになれないよ。やっぱり―――…」
「キラ。」
 彼の言葉を遮る。
 この先は絶対聞きたくはない。

「お願いします。そんなことは言わないで下さい。」
 縋るように彼に身を寄せると、彼は優しく肩に手を回す。
 さらに身体を傾けて肩に顔を埋めた。
「私には貴方が必要なのですわ。いなくなられたりしたら 私は…」
「ラクス…」

 ズルイ自分。
 汚い自分。

 こんな風にして、彼を縛り付けて。
 涙を見せて困らせて。


「貴方が誰を想っていても構いません。だから…っ」
 ギュッと彼の服を掴む。
 跡が残るほどに、震えた指で。
「傍に、いて下さい…」
 ポタリと滴が彼の服に落ちた。

 なんて浅ましい自分。
 こうすれば彼が離れられないのを知っていて。

「ラクス… 本当にごめん……」
 言いながらも、優しく瞼にキスを落としてくれる。



 優しい貴方が好き
 好意を返そうとしてくれる、そんな貴方が好き
 心だけは手に入らないけれど


 己の願いと引き換えに、
 私は貴方の心を失いました








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2から随分経ちました。inラクスの屋敷。



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