Possessions ::前編::
10.28.11:30pm ソファで雑誌に魅入っていたキラの背後に影が落ちる。 それが誰かなんて考えなくても分かること。この家には他にいない。 だから、キラは無視して続きを読み進めることにした。 「キラ」 それに相手は機嫌を損ねたわけでもなく、くすくすと笑みを漏らしながら今度は悪戯に触れて くる。 お風呂上がりの温かい掌が首筋を這うと ビクリと身体が反応し、面白がってさらにもう片方の 手でも触れ――― そして、紙の上にポタリと滴が落ちたところで、キラはひとつ息を吐くとページを閉じた。 気が付けば身体は倒され、上には彼が覆い被さっていて。 上機嫌で 彼は他人には滅多に見せない笑顔を向けて見下ろしてくる。 暑いからなのか 上半身はバスタオルを引っかけただけ。 自分より肌の色は白いくせに、軍人らしく鍛えられ引き締まった身体は 同じ男として羨ましい ほどでなんだか悔しい。 …でも、悔しいけれど、好きなんだ やっぱり。 ゆっくりとのしかかってくる心地よい重さと近づく体温。 ぼんやりと この身体に抱かれる時のことを思い出して、自分がそれを期待していることに気づ く。 調子に乗られたら自分の身が持たないから絶対言うつもりもないけれど。 気づかれないようにわざと視線をずらして。 しっとりと濡れた闇色の髪から光の滴が落ちたそれが、とても綺麗だなとキラはのんびり思った。 瞼、額、頬、唇、etc... 悪戯のように落とされる軽いキスに油断していたら、耳を噛まれて思わず小さな声を漏らしてし まった。 満足したように、ふ と笑む雰囲気がして、やられたとぷいと顔を背ける。 それすらも相手を調子に乗せるに充分だと分かってはいるけれど、こちらも恥ずかしいからそう するしかないわけで。 いつまで経っても彼には敵わないと、半ば諦めの境地で思ったけれど それも黙っておいた。 「キラ。誕生日に言った約束覚えてる?」 息がかかる近さで 鳥肌が立つほど色気のある声で囁かれる。 キラでなければ腰が砕けたかもしれないが、あいにくキラはその"聞き慣れた"という唯一の感覚 を持つが故に、えーとと考え始めただけだった。 「……約束というと、僕の誕生日に何でも願いを叶えてくれる代わりに君の誕生日には1日君の モノってアレ?」 「ソレ。」 至った答えに問えば即答に近い形で返事が返る。 「…僕はいつでも君のものだけど?」 最初に言われたその時も思った同じ疑問をもう1度尋ねる。 あの時はついに答えをもらえなかった。 僕は君のもの。 それは言わなくても決められていること。 今だって。こうして抵抗もせず肌を許しているのだから。 消えない疑問を表情に出せば、彼は笑顔のまま否と言う。 「違う。明日は俺以外の誰とも話すのもダメ。俺だけを見ていて欲しい。」 …… えーと? それは、つまり…… 明日はアスランとだけとしか会えないし、話せないという… 「…独占欲 強っ」 言葉の意味をやっと理解して、非難しても相手は痛くもないといった様子。 「これでも我慢してる方だ。」 さらにはそんなことまで平気で言ってきた。 「…アレで?」 いつどこで君が我慢なんてしてきたんだ。と。 彼の今までの所業を思い返し、胡散げにすぐ近くにある端正な顔を見る。 「アレで。」 けれど やっぱり彼は涼しい顔だ。 人前でベタベタ触るし、キスすら平気でしようとするし。 誰かと仲良さそうに見えれば目の前で妨害してくれる。 それで即答できる神経が分からない。 ―――でも それでも。 惚れて縛ってしまったのは僕だし、少しは嬉しかったりするから。 「…… 明日は1日家かな。」 はぁ、とちょっと遠い目をして呟いた。 誕生日だけだと言っているだけでも、まぁ良いと思っておこう。 「…ところで。何処までいくつもり?」 太ももに降りそうになった腕を掴んで半眼で睨む。 肌は許すが、流されてやるつもりはない。 「だって12時過ぎたから。」 言葉につられて壁にかかった時計を見れば、確かに文字盤は12の線を過ぎていた。 こんなことやってる場合じゃなくて 言わなくちゃならない言葉がある。 「アスラン、誕生日おめでとう。」 「ありがとう。」 でも、のほほんとした雰囲気の会話はその一瞬。 「ってだから! その手は何なのさ!?」 早速脱がしにかかる手を力尽くで押し留めて。 明るい部屋の しかもソファの上でなんて冗談じゃない。 彼が気にしていなくても、自分は大いに気にする。 「1日は24時間しかない。勿体無いじゃないか。」 「……」 呆れはとっくに通り越してしまったが、諦めた。 約束は約束、こういう意味だろうなぁと分かってはいたし。 「…良いよ。ただし、せめてベッドに連れてって。」 それだけは我儘を通させてもらいたい。 いくら約束といえど、そこだけは。 「了解」 クスクスと、それは楽しそうに笑って、アスランはキラを抱え上げた。 目が覚めたら異世界でした。 ―――というわけではないけれど。 「ここ、どこ……?」 目を覚ました場所は、自分が知らない部屋だった。 →→中編へ --------------------------------------------------------------------- また先に前編だけ… すみません 火傷が… 以前日記に書いた没ネタを書き直してみました。 アスランのノリが軽すぎる気がしますが、これは読んだ本の影響かと… …このアスランはお酒を飲んでるんですよ、きっと! 下手すれば監禁モノ発言ですが、これはシリアスではないのであっさりですね。