Possessions ::中編::
柔らかな朝の陽差し、ふかふかのクイーンサイズのベッド。 晒したままの肌に触れる布地はさらさらとしたシルクの触り心地で。 環境的にはこれ以上にない最上の場所だと思う。 ……でも、こんな場所を僕は知らない。 「―――っ!?」 がばりと起き上がると真白いシーツが肩から滑り落ちたけれど、目の前の光景に唖然としている 為に その時のキラにはそれを気にかける余裕はなかった。 ―――昔 アスランと見た映像の記憶。 お城に住むお姫様だとかの部屋にある金銀で飾られた家具や天蓋の付いたベッド。 今住んでる部屋1件入りそうな広さの部屋に、それに合わせた高い天井と大きく切り取られた窓 と。 夢のような世界だと、目を輝かせたことがある。 だがしかし。 それに似た光景がたった今、目前に広がっていた。 「…えーと……」 多少混乱した頭で必死に考える。 昨日は確かにアスランと部屋で寝たはず。 幾度目かで気を失ってそのまま眠りに落ちたのだろうけれど、それでも夢ではあり得ない。 それは身体に残る感覚が教えてくれている。 「??」 昨夜と今の状況があまりに違い過ぎて、また接点が見つからなくて。 頭が疑問符だらけになったキラは思わず頭を抱えた。 しかし、ぷっつり途切れてしまった記憶の糸をどう辿ろうと 答えは導き出せるはずがなく。 疑問に答える者もいなくてはどうすることもできない。 さらにはアスランの姿も見当たらなくて、それがさらに不安を呼んで。 無理にでも立ち上がって行こうかと手前の柱に手をかけたところで。 電子音と共に廊下側の扉が開いた。 「おはよう、キラ。」 それは今まで自分が思い浮かべていた彼の、甘く優しい声。 「ぇ…?」 声の主は片手で悠々とトレイを持ち上げ、にっこり笑って開いた扉の前に立っている。 キラが昨晩プレゼントした黒いハイネックのセーターにズボンと、彼はすでに着替えていて。 「アスラ…ン?」 呆然としていた間にすぐ傍まで来ていた彼は、トレイをサイドボードに置いて 朝の挨拶のキス をこめかみに落とす。 「何?」 朝食持って来たけど と言われて、だんだん意識が現実に戻されてきたキラは、はっとした途端 にアスランに迫りかかった。 「ここはどこ!? どうして僕達がこんな所にいるの!?」 1人じゃないのが分かったのは良かった。 どうしてアスランはこんなに余裕なのかも謎だけれどそれより。 現状把握の方が今は大事で。 詰め寄られて驚いていたアスランは、問われて理解するとキラの態度に合点がいったのか 小さ く笑って答えてくれた。 「―――ここは俺の別荘。ここにいるのは俺が連れてきたから。」 確かに正しい返答だ。 「……は?」 けれど 聞き馴れない単語にキラの思考はぴたりと止まった。 掴んでいたセーターは伸びるからとやんわり外され、それも気づかない様子で固まっているキラ に苦笑いしながら アスランはベッドサイドに腰掛ける。 「あの家じゃどんな邪魔が入るか分からなかったからな。」 握ったままだった手を絡ませたりして遊んで 悪戯でもしているような調子で。 ぼんやりしてそれを聞きながら、何故だか妙に納得してしまった。 今日はアスランの誕生日。 お祭り好きの面々は祝いと称して家に押しかけてくるだろう。 それは本人達からすれば一応好意というものからなんだろうけれど。 でもアスランからすれば傍迷惑だとか。 昨晩そんなことを言っていた。 それに、アスランが僕に要求したプレゼントは、僕が彼だけのモノになることだったから。 彼らが来たらその要求は成立できない。 …ここまでくると準備が良いことにただただ感心するしかないけれど。 「…でもさ、人が寝ている間に連れてくるのはどうかと思うんだけど。」 「だって キラが起きなかったから。」 …じゃあこの場合僕が悪いのか。 それを置いてもあまりに悪びれなく言われたから、思いっきり睨んでやった。 「抱き潰した人間がそれを言う? 起きれないほど酷使したのは誰だ。」 「もちろん俺だな。」 睨みつけても効果は悲しいくらいになかったようで。 悔しいけどこれは絶対 "可愛い"とか思われてるんだろうな。 冗談じゃないけど。 「昔はこんなじゃなかったのに……」 以前のアスランを思い出して、わざと聞こえる程度の声でぼやく。 「"こんな"って?」 「昔は僕が誰と話しても仲良くしてても ただ笑ってただけだったじゃないか。」 イライラしていたのは自分ばかり。 アスランは昔からよくモテたから、いつもいつも 見る度に。 自分だけ空回りしてる気がして、でもアスランが悪いわけじゃないから余計に溜め込んで。 ―――で、爆発してしまって。 気づいたら何故か恋人同士に。 いつからと言われれば、アスランの態度が変わったのはたぶんその頃からだと思う。 …"恋人"という肩書きを得てから、遠慮が無くなったというか…… 「無理をするのは止めたんだ。」 その頃を思い出したのか、わずかに苦みを含ませて笑う。 「欲しい気持ちを押し殺して遠ざかってみても、それは相手を傷つけるだけだって分かったから な。」 近くにいると傷つけるからと離れたアスランと。 それを嫌われたと勘違いして勝手に傷ついた僕と。 あの頃は酷かったなぁと 今はいい思い出になったそれを思い起こす。 「それに油断してたら誰に取られるか分からないから。牽制しておかないと。」 それは誰のことだろう? と首を傾げる。 聞いても教えてくれないからもう聞かないことにしているけれど。 「僕は今も昔もアスランだけしか見てないんだから そんな心配要らないのに…」 ボソリと呟いて、息を詰めたようだったから見上げたら。 とても珍しいものを見てしまった。 「…赤くなるアスランなんて貴重ー……」 口元に手を当てて、キラでも分かるほど赤くなったアスランがいた。 照れてるアスランなんか滅多に見れないから、つい覗き込んでしまう。 「……昼から買い物に行くか?」 それから逃げるようにアスランは顔を逸らして、少し距離をおいて。 そして出された提案に キラは笑ってわざとらしく首を傾げた。 「あれ? 昨日の約束はもう良いの?」 誰にも会うな、話すなと言ったのは昨夜のアスランだ。 「アスラ〜ン?」 彼をからかえる隙なんかあまり無いからここぞとばかりに責めてみる。 「……嬉しい言葉もらったから、な。」 返ってきた小さな声に。 今度はキラが赤くなった。 →→後編へ --------------------------------------------------------------------- …中編って何ですか(汗) 悪乗りし過ぎました。オチが無いのになんだか長くなってきました。 もう少しお付き合いください。