Possessions ::後編::






 誰にも会うなと言ったわりにあっさり外出許可をくれたアスランは、別荘から少しだけ離れた町に
 連れて来てくれた。
 ショッピングモールとまでは言えないけれど、それなりに栄えているらしく 店の数は少なくない。
 簡単なランチと店を数件見て回った後にスーパーに入って、僕達は今夜の夕食の材料とケーキを
 買った。


 アスランに先にそれらを車に持って行ってもらって、自分は買い忘れのリンゴと、さっき近くの雑
 貨屋で目を付けておいた銀のチェーンを2つ購入すると 急いでアスランが待つ駐車場に向かった。
 わざわざリンゴを"買い忘れた"のに、必要以上に遅れたら怪しまれてしまう。



「―――ねぇ。カノジョ一人?」
 そろそろ良いかなと少し歩調を緩めたら 聞こえなかった周りの音も聞こえだして。
 ついでに何とも不快な音まで入ってきた。
 でも、今はそんなものには構っていられない。

 その"カノジョ"が本気で困ってたら助けようくらいの気持ちでとりあえず先を急ぐことにした。
 アスランが待ってるし、実際あんまり関わりたくない輩だ。


「無視しないでよ♪」

 ポン

 ……は?

 肩を叩くというより掴まれて、キラの足が止まった。
 どうやらその"カノジョ"というのは自分のことだったらしいと、何処か冷静な頭で思う。
 もっとも、気分的には冗談じゃないと蹴りでも入れてやりたいところだけれど。

 あからさまに嫌な顔をして 肩の手を払い落としつつ振り向けば、妙ににやけた顔の男が立ってい
 た。
 造作は悪くはないが、常にその何倍も秀麗な顔を見慣れているキラにすればどうということもな
 い。
「…何か用ですか。」
 不機嫌最高潮とばかりに地を這うほどの低い声と完全に据わった目で返してやった。
 …けれど、相手は全然堪えていないようで。
「俺達と遊ばないかってことだよ。」

 ……俺、"達"…?

 言葉の違和感に首を傾げたところで、不意に背後から陰が落ちた。
 それに キラが即座にその場を立ち去らなかったことを後悔するより早く。

「へぇ。」
「可愛い子見つけたじゃん。」

「…っ!?」
 5人ほどの男に囲まれてしまった。
 どれもキラより高くて身体の方もわりと鍛えている方らしく逃げるには不利な状況だ。
 でも、不利とはいえたぶん逃げれないことはないし、アスランのところまで行けば問題はないんだ
 ろうけど。
 ただ昨夜のあれのおかげでまだ本調子じゃない。喧嘩は弱くはないけどそれでこの人数はちょっと
 キツイかもしれないから。

「この辺のキレイどころは全部目を付けてたはずだがなぁ。」
「旅行者じゃない? 見かけない顔だしさ。」
 じろじろと上から下まで不躾に見られて さらに機嫌を降下させていくキラはお構いなしに、彼ら
 はそんなことを言ってくる。

 むかつくのは人を完全に女扱いしてる辺りだ。
 格好からしてどう見たって男なのに どうして間違うんだ。

「……僕は男です。誘うならもっと可愛いお嬢さんにしてください。」
 ここは誤解を解いてさっさと行ってしまおう。
 いくら何でも男と分かってまで誘うバカはそんなにいないだろう。

「冗談ばっかり。それに君ほど可愛い子なんていないって。」
 ぷつっと、何かが切れかかったような気がする。

 冗談ってなんだ、冗談って。
 事実だ。

「断るならもっと上手にね。ね、遊ばない?」
 1番最初に声をかけた男が馴れ馴れしく触れてきて、キラはそれを煩げに音がするほど派手に叩
 いた。
 ナンパ男が2度も気安く触るな。
「遊びません。」
 キッパリ言い放ち その相手を睨みつけるけれど。
 それでも輪から出ることは叶わずに内心舌打つ。

 …体調が万全なら即刻蹴り倒すのに。

 キラにとって"女の子"とは護るものだ。大切にするものだ。
 だからこんな男達は許し難い馬鹿の部類に入る。

「1人じゃ寂しいでしょ?」
 そろそろ声を聞くのも嫌になってきた。
 実力行使に出ないだけまだマシか。褒める気はないけれど。
「…連れがいますから。」
「友達? 友達なら一緒に遊ぼうよ。」
 瞬間色めき立つ男達に 馬鹿らしいと溜め息が出るのを止められない。

 …友達、だけど。
 それも男だ。彼らが喜ぶものではない。



「―――友達じゃなくて恋人、だろ。」

 救いの声は 男が邪魔で見えなかったけれどキラの前方から聞こえた。

「! アスラン!!」
 喜びとやっとというような安堵を含んで キラは"恋人"の名を呼ぶ。
 彼が来たならこんなところに用はなかった。

 声とキラの視線につられて振り返った男達が空けたスペースから滑り出る。
 突然現れた完璧に整った容姿の男に彼らが愕然としている間に すでにキラはアスランの腕の中。
 ハッと正気に戻った時には、一対の絵が出来上がっていた。


「あんまり遅いから探しに来てみれば。まさかナンパされてるとはね。」
 少々呆れも入った言葉に キラはムッとして唇を尖らせる。
「僕のせいじゃない。」
 悪いのは女と間違えた上に、男だと言っても信じないあちらの方だと。
 それを聞いたアスランも納得したように苦笑いした。

「…そうだな……」
 そしてちらりと男達の方に視線を送る。
 腕の中に囲われたキラには見えなかったけれど、それは相手を射殺しかねないほど冷たい視線で。
 威嚇された男達は完全に怯んだ。

「キラに目を付けた君達の見る目には感心するが、あいにく他人に渡す気はないんだ。」
 自分のものだと主張するように抱きしめていた身体をわずかに離すと、今度は片腕で腰を引き寄せ
 もう一方で顎に手をかける。
 何をされるのか意図したキラは内心慌てた。
 言っておくがここは人目も多い公道だ。

 え… まさか……
 ちょ、ちょっと待っ……!

「ア―――…っ」
 言葉はほとんど音にならずに吐息の中に消えた。


 公衆の面前以前に目の前に人がいる状態でキスなんてどんな神経してるのか。
 しかもすぐ終わるかと思っていたら 無理矢理口を抉じ開けられて舌が入り込んできた。

 頭の芯が痺れ 足の力が抜けて身体は震えだす。

 一瞬舌を噛んでやろうかと思い、けれどそれはすぐに諦めてされるがままに任せることにした。
 もっとも その頃にはすでに、思考回路も上手く働かなくなっていたけれど。



「―――綺麗だろう?」
 声すら出せずに呆然と立ち尽くした男達の前で濃厚なキスシーンをやってのけた彼は、ようやく
 キラを解放すると肩口に凭れかかるキラを見 次に男達を見た。
 挑戦的でいて色気を感じるような微笑、でも凍えるほど冷めた瞳だ。
「…もっと見せつけて欲しいか?」

「「「「「…け、結構です……っ!!」」」」」

 見事に声を揃えて言うと、走るように彼らはその場から逃げ去った。





「…珍しく抵抗しなかったな。」
 帰りの車内、助手席のキラに少し意地の悪い笑みで言う。

 いつもならこんなことすれば暴れて舌でも噛まれるところ。
 早くその場から解放されたかったにしても、その後拳のひとつでも飛ぶはずだから。
 アスランにしてみればそれは当然の疑問だった。

「だって、僕は君のモノだから。」
 やけにあっさりした答えだった。
 沈黙したアスランは気にせずに キラはポケットの中を探りながら続ける。
「ここは知り合いもいない所だし、だったら良いかなって思ったから。」
 要は誕生日の約束を守っただけなのだと。
 他の日にやったらやはりいつもの反応が返ってくるのだろう。
「残念だな。」
「贅沢。」
 言いながらも、ポケットから出した小さな紙袋をひっくり返して銀の鎖を取り出す。

 さらにその1つの金具を外して、信号で止まったのを見計らって彼の首に素早く取り付けた。
「…え……?」
 アスランが驚いてる間に自分ももう1つを身につける。
 2人の首に同じ物がシャランと音を立てて下がった。
「…キラ?」

「……前にお揃いの指輪くれたでしょう? まだ2つとも箱に入ったままだけど。」
 なんだか妙に言うのが恥ずかしくて、視線を窓の外に逃がす。
 そこに映った自分の顔は赤い。
「でも、これなら、しても良いかなって思って。」

 指輪を指にはめることは結局できなかった。
 それは単に僕の我が儘。

「―――良いさ。今は。」
 笑った気配がして振り向けば、やっぱりアスランは笑っていた。
 とても嬉しそうに。
 それを見て 再び顔が熱くなる。

「でも、いつかはそこに、な。」
 そう言って指差された左手の薬指。
 つい見てしまって、気恥ずかしくなったキラは誤魔化すように窓を全開にした。



「…いつか、ね。」

 果たしてそれはアスランに聞こえたのだろうか。




 END




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脱線しまくりました。これでも一応アス誕です。

約束したのに 買い物出かけてナンパもされてるキラ(笑)
つまりは知った人物達に邪魔されたくなかったってことでしょうか。一部アスランが敵わない人もいますしねー
ちなみにキラのナンパネタは、やっぱり一般人にもキラは女の子に見えてしまうのだと実証された為に思いつきました。
実証したのは母です。私が吃驚しましたよ。

ではアスラン。はぴ ばーすでいvv
(いつの話とかツッコミはしないで下さい… 自分で言ってて悲しいんで…)


[[Possessions=所有物]]



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