鎮魂歌 -requiem- (1)
プラント臨時最高評議会が地球軍に停戦協定を申し入れてしばらく。 戦後処理のごたごたで、まだラクス達は艦の中での生活を余儀無くされていた。 そこで今は艦内から外と連絡を取り合い、情報収集などを行っている。 少しずつ動き始めている世界。 そろそろ自分の未来への選択を考えなければならない頃。 …そんな中、クルー達の間である噂が広がっていた。 「―――赤い髪の少女が艦内を彷徨っている、か。」 昼食の時、ディアッカがぼそりと呟いた。 AAの食堂は現在人気も疎らで、そこに集まっているキラとラクスを除く10代メンバーの他 には数人しかいない。 「ホントなのかねぇ…」 その噂は当然彼らの耳にも届いていた。 「信じる?」 「そんなこと言われても…」 「私も…」 話を振られて困ったように答え、そのまま沈んだように俯いてしまったのはサイとミリアリア。 カガリも少し複雑そうだ。 ピンとこないのはアスランとディアッカで、それは"赤い髪の少女"を知らないエターナルや クサナギのクルー達も同じだった。 逆に彼女をよく知るAAのクルーは皆、その噂を複雑な表情で聞いている。 「フレイ、かな… やっぱり…」 「かも、しれないよな…」 「?」 思い詰めたようにちらりと互いを見やるサイとミリアリアにディアッカは怪訝な顔を向ける。 カガリは何も言わない。 「どうしてだ?」 「それは…」 「"守らなきゃいけない"人―――?」 言ったのはアスランだった。 ディアッカの視線が彼の方へ移る。 「何だ ソレ。」 「キラが前に言っていた。傷つけた、守らなきゃって。」 救命ポットから聞こえた少女の声。 連れ去られそうになったそれをただ必死に追いかけたキラ。 それだけ大事な人だったのだろうと思った。 でも同時に、義務感のような言葉に違和感を覚えたのを覚えている。 「じゃあそいつはキラを探してるって?」 「それは分からないが…」 「探しているのは構わない…」 「カガリ?」 怒りを抑え込んだ声音に アスランが眉を顰めてその顔を覗き込む。 何かに耐えるように震えている彼女の肩に手を置いて宥めようとして。 けれどそれは特に何の効果も与えず、激しく振り払われた。 「でも これ以上キラを苦しめることがあるなら私は許さない…っ」 「カガリ! どうしたんだ?」 「っ なんでもない!」 そこで我に返ったカガリがハッとして、慌てて首を振る。 ―――みんなには黙っておいて。 青白い顔で、うっすら涙の跡が残る顔で。 それなのに 悪戯が見つかった子どものようにおどけて言った。 誰も知らない夜の出来事。 偶然知った、キラに残る心の傷。 毎晩魘されていたなんて知らなくて。 気づけなかった自分が悔しくて。 ―――バカ野郎…ッ! こっちが泣きそうになって抱きついた。 「とにかく私は キラに苦しんで欲しくないだけだ!」 戻る と、それだけ言ってカガリは食堂を飛び出した。 →次へ ---------------------------------------------------------------------