鎮魂歌 -requiem- (2)




 眼前に広がる闇。
 ガラス1枚を隔てた先は無音の空間。生き物が生きることを許されない虚無。

 でも綺麗だ。
 全てが生まれた場所。いつか還るところ。

 手を伸ばして触れると、ひんやりとした感触が指から伝わる。
 このガラスの向こう側もこんなふうに冷たいのだろうか。



 <キラ―――…>

 "声"がして、白い腕が首にまわされる。
 触れる感触はないけれど、"彼女"を包む淡い光は確かに温かくて。

 <キラ、>

「大丈夫だよ。」
 ふわりと笑って振り返ると、目の前には訴えかけるような眼差しの少女の顔。
 光りに包まれた、映える紅い髪の少女の姿がそこにはあった。

「ありがとう、"フレイ"…」
 ハッとして、彼女は続けて泣きそうな顔になって。
 それでもじっと見てくる。

 言いたいことは知ってる。
 でも僕は他にどうすれば良いかを知らないから。





「キラ!」

 不意にその場に響き渡る"彼女"でない低い声。
 大きなその声が聞こえた途端に彼女の姿はかき消える。
 視線だけ振り返ると 相手は軽く地を蹴ってあっと言う間に横に並んだ。

「アスラン。」

「また展望室にいたのか。」
 言葉には呆れも含まれていて、苦笑いで返すしかない。

 今は"夜"と位置づけられた時間。
 そんな時間に出歩くなと、何度言われたか知れない。
 それでも出歩く自分を、この親友はいつものように呼びに来てくれたのだ。

「お前の体調は万全じゃないんだ。ちゃんと休んでおけ。」
「うん、ごめん…」

 ポンと肩を叩かれて、くるりと反転する。
 キラは一瞬だけちらりと振り返り見て、また名前を呼ばれたから急いでそこを後にした。




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