鎮魂歌 -requiem- (4)




 星から漏れる明かりだけのこの場所。
 今日もまた部屋を抜け出してキラはそこに来ていた。


 音が無いはずのここで、聞こえるたくさんの"声"。
 目を閉じてそれに耳を傾ける。

 胸を刺す痛みも 沈んでいく心も当然のことだから。
 受けるべき罪、これは僕に課せられたことだから。
 だから涙は流さない。
 僕にはそんな資格すらない、できるのは受け入れることだけ。



 <キラ、>

 声と共に 光がキラの身体を包んだ。
 それと同時に彼の周りを取り囲んでいた闇も薄れていく。
 彼女以外の声が遠くなる。


 <もう止めて。>

 光は彼女の姿を形作って その白い手は彼の耳を塞ぐ。
 正面に来た彼女の姿はわずかに透けて その先の宇宙が見えていた。

「でも、これは僕の責だから。」
 ゆるゆると首を振って 彼女の手に自分の手を添える真似をする。
 それに今度はフレイが首を振った。

 <ダメよ。私にも限界があるの。これ以上はダメ。>


 霊の強さは思いの強さ。
 彼女にあるのはキラを護りたいという意志の強さ。
 フレイがその姿を人前に現せるのもキラを護れているのもそのおかげだ。
 でも、数が多ければ彼女でさえ太刀打ちできない。
 日増しに増える数に フレイももう守護の限界を感じ始めていた。


「大丈夫だよ、一人でも。」

 青白い顔で、それでも安心させようと笑みを浮かべる。
 それがどんなに儚く危うく映っているか、本人に自覚はない。
 フレイの表情が泣きそうに歪んだ。

 <キラ! もう止めなさい! 貴方の身体がもたないわ!>

「…ごめん、フレイ。僕の我が儘なんだ。だから、」
 放ってくれて良いよ、と。
 ふ と、フレイから視線を逸らした。


 <……っ>
 何かを言おうとしたのを飲み込んで、フレイが姿をかき消す。





「―――ゴメン…」

 1人残されたキラは宙を仰ぎ呟いて、静かにその目を閉じた。




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