お伽話の世界へ
一方変わってお城では。 王子2人が父親から小言を言われてウンザリしていた。 吹き抜けの2階のバルコニーに座って、ワインを片手に下でくるくる回る男女を見下ろす。 はっきり言って何が楽しいのか分からない。 それは2人とも同じ意見だった。 明るい夜の髪と深緑の瞳の王子は三男で、何事にも冷めた性格の青年だ。 何事もそつなくこなし 冷静かつ的確な判断は誰もが感心するほど。 けれど何に対しても熱くなれず、日々の生活は退屈なものでしかなかった。 政治に興味が無い兄2人に代わって政務をこなすが、それですらただの義務でしかなく、 父のようにのめりこむことはできない。 穏やかで包み込むような笑顔は女性達を虜にするが本人は女性に興味を持たず、 全ては色褪せた世界だと思って日々を過ごしていた。 ガラスのような銀の髪と氷の瞳を持つ王子は次男、彼もまた今日のパーティーには興味を 示さなかった。 彼は別の意味で冷めていて、他人との関わりを絶とうとする人物だ。 民俗学に興味を示し、研究することに楽しみを見出している為、他人との交わりは煩わしいこと でしかない。 寄ってくる女性はごまんといても彼の目にすら入らない。 その冷たさが良いと言う女性もいるが、彼には見えていないのでその想いが届くことは 無いだろう。 「聞いているのか!? アスラン、イザーク!」 2人の後ろで父王…パトリックは声を荒らげる。 何の為に今日のパーティーを開いたと思っている! 「…聞いていますよ、父上。」 ふぅ と溜め息をついて、アスランがそちらは見ずに応えた。 「でも見つからないものはしょうがないでしょう。」 この世界を色鮮やかに変えてくれる女性などいるのだろうか。 アスランにはみな同じ顔にしか見えない。 …いや、知っている者はちゃんと見えるが だからといって興味は無いし。 イザークに至っては顔を見る気も無い。 元々他人との関わりが嫌いなのだから 話す必要も知る必要も無いだろうと。 「うだうだ言ってないで 下に行って誰とでも良いから踊って来い!」 そうすれば見つかるかもしれないだろう! 「…うだうだ煩いのは父上です。」 すっぱりと言い切って、まだ後ろで何か叫んでいる父親を無視し下を見下ろす。 何が楽しいんだ。 こんな所にいないで 早く部屋に戻って寝たいよ。 いい加減、アスランの退屈も限界にきていた。 ざわり 突然場の空気が変わる。 「…?」 不思議に思っていると、皆の視線はある一点、入り口の方に向いていた。 しんと静まり返ったホールに、カツンとヒールの音が響く。 ここまで案内してもらった者に礼を言って、彼女はゆっくりとした足取りで入ってきた。 …等身大の人形が動いているのかと思った。 白い肌も柔らかそうな唇も、艶やかな髪も絶妙に均衡のとれた身体も。 光を纏ったような雰囲気でそこに立つ人に、アスランは一瞬で目を奪われた。 そのすぐ後には考えるより先に体が動いていて。 驚く父に目もくれずに、彼女の元へと走り出していた。 えーと… 目の前に立つ人に、キラはどう対応したら良いものか迷っていた。 突然走ってきて微笑みかけるこの人に。 僕はどうしたら良いのだろう。 彼が期待しているものが何であるか、キラには理解できない。 ―――ってゆーか誰だっけ この人。 見たことはあるんだけど知り合いじゃない。 会場のどこそこから女性達の甲高い声が聞こえる。 でもその意味もキラには分からなかった。 「…踊りませんか?」 「え…?」 一瞬何を言われたか分からなかった。 思わず周りを見渡す。けれどそこには僕しかいなくて。 さらに それがダンスの誘いだと分かると、キラは慌てて首を振った。 「ぼ、僕 踊れません!」 一応彼も貴族の子息である為 男性の振りは分かるけれど。 それに姉2人とも遊びや練習を含めて散々踊ってきたものだし。 けれど、女性はさすがに分からない。 一緒に踊るから動きは分かるけど、分かるのと実際踊るのとは全然違うものだし。 「大丈夫です、リードしますから。」 にっこりととろけるような笑顔で微笑まれる。 ここで断ってはいけない気がした。 「…下手でも構わないなら……」 おずおずと手を差し出すと、彼は優雅にそれをとって輪の中心へとキラを連れて行った。 周りが見守る中で2人はくるくると回りながら踊る。 可笑しいと、アスランは心の中で笑った。 さっきまで何が楽しいのか全く分からなかったものが、今はとても面白い。 本当にいるとは思わなかった。 自分の世界を色鮮やかに変えてくれる人、そんな人が目の前に現れるなんて。 アスランのリードは本当に上手かった。 あまり考えずとも身体が自然に動いてくれる。 キラはホッとして、緊張を解き 素直に彼に身体を預けた。 →次へ ---------------------------------------------------------------------