お伽話の世界へ




「うー… 暇だ〜…」
自室のベッドに寝転んで、キラは1人呟く。
普段は寝るまで家族と暖炉の前で話しているが、今は誰も相手をしてくれる人が居ない。
かといって全く眠くもならないので余った時間は退屈でならなかった。
「お城でパーティーかぁ…」
美味しいものがいっぱいあるんだろうなぁ。
…ダンスに興味が無いあたりはちゃんと男の子である。
あっても怖いが。
「1人で家に居てもつまらないよぅ…」
退屈はそろそろピークに達しているようだ。
普段離れない家族なだけに、少し離れるだけでもとても心細い。
「僕も行きたかったなぁ…」
その目的はパーティーではなく家族と離れて寂しいだけ。
愛され甘えて育った彼には仕方が無いことだけれど。



「その願い、叶えてあげましょうか?」
「!?」
声にビックリしてキラはベッドから飛び起きた。
しかし、辺りを見回しても人の姿は何処にも無い。
というか、ここには自分以外は居ないはずだ。
「こっちですよ。」
楽しげな声がして キラはそちらを振り向いた。
そこは窓の外、コンコンと彼は窓のガラスと叩いている。

「…?」

ベッドから降りて窓を開けると 彼は礼を言って中に入って来た。
そこまでは特に何も思っていなかったが、窓を再び閉めようとして はたと気が付いた。
「…ここ、1階じゃないよね…?」
「そうですね。だって僕浮いてましたから。」
「!!?」
事も無げに後ろで言われて キラは驚き彼を見る。
そこに居る人物は漆黒のローブを身に纏い、手には長い杖のような物を持っていた。
フードを外すとそこには若い草色のクセのある髪が現れて、少年と少女の中間のような面立ちで
優しげな笑みを向けられる。
「どうも、魔法使いです♪」
「はぁ!?」
そんなあっさり言われても とキラは目を丸くする。
「僕 暇で夜空を散歩してたんですけど、そしたら貴方の声が聞こえて。」
あ、面白そうとか思って。
そこは言わないけれど。
「お城に行きたいんでしょう?」
「え、でも、僕は男だから行けなくて…」
「大丈夫です。僕の魔法で、ほら。」


杖を軽く振ると、光に包まれキラの身体に変化が起こる。
白いブラウスにズボンだった服が金と白のグラデーションを持つドレスに変わり、胸元にはある
はずが無い膨らみがあらわれる。
ブーツはヒールの高いガラスの靴に、真っ直ぐな髪は腰まで伸びた。
そしてその先にはガラスのティアラが乗せられていて。


「何これ!?」
自分に起こったことが信じられなくて、キラはまじまじと自分の姿を見た。
たまに姉2人に遊ばれて着たことはあるけれど、いつもは余るそこにはちゃんとあるものが
あって。
「うーん、我ながら完璧ですね☆ 服と髪を変えただけでこんなに美しい女の子です。」
「いや、それ以外も変わってるし…」
そこが1番問題な場所だと思うんだけど…
「まぁ そんな細かい所は考えないで下さい。」
「考えるよ 普通…」
しかしキラの言葉を相手は聞く耳持たない。
早く早くと急かして 彼を外へと引っ張っていった。








「さて。それではお城へ向かいましょうか。」
「って乗り物は?」
「そんなものすぐに用意できますよ。」
杖を一振りすると立派な馬車がそこには現れる。
唖然とするキラに魔法使いは微笑んだ。
「あ、12時の鐘が鳴り終わるまでに馬車に乗ってくださいね。」
時間制限があった方が面白いでしょ?

「…はぁ。」
もうどうでも良いや、好きにしてという感じでキラは曖昧に応える。
「あと、キスしちゃうと新しい魔法が発動してしまうので気をつけてくださいねv」
「……は?」
「内容は言いませんけど。女性化のちょっとした副作用ってところです。」
何ソレ。
ツッコミを入れたいところだったけれど、言ってもまともな答えは返って来そうに無いので
諦めた。
素直に馬車へと乗り込む。





「あ、そうだ。君の名前は?」
馬車の窓からキラが尋ねると、彼はニッコリと笑った。
「ニコルですよ、キラさん。」
「ありがとう、ニコル。」
退屈な夜を変えてくれて。
こうして キラはお城へと赴いたのであった。




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