お伽話の世界へ
お城からのダンスパーティーの招待状。 そこに"貴族の娘達はぜひ参加して欲しい"とか書かれていれば理由は1つ。 まぁ簡単に言えば王子様の嫁探し。 未婚の男性は参加できないとか言われたらそれしかない。 この国に王子は3人いて、3人ともまだ相手がいないというから親が心配してこういう企画を するのは当然といえば当然だろう。 娘達にとって王族との結婚は玉の輿。 しかもどの王子も容姿には申し分ないといえば、みな喜んで行くだろう。 もちろん中には興味が無い者達も居るのだが。 暗黙的に強制参加になっていたら行くしかない。 そしてここにもあまり乗り気でない家族が1つ… 「キラ… お前を1人で残していくのは心配だな。」 迎えの馬車を玄関に待たせ、急がなくてはならないが、彼は見送る息子が気がかりでならない。 「本当は貴方も連れて行きたいのだけれど… 貴方は城へは入れないものね…」 母も息子を1人屋敷に置いていくことはとても心配な様子だ。 この家には当主である侯爵とその夫人、そして2人の娘と1人の息子がいる。 侯爵は金髪碧眼の美丈夫で、普段は軽そうに見えるが仕事はできると民からの信頼も厚い人。 妻と子を誰よりも大切に愛している。 その奥方は豊かで美しい明るい茶の髪を持ち、大人の艶めかしさを嫌味無く魅せる人で、 優しげな微笑みは子ども達に惜しみない愛を与える。 そして、愛し合う2人に愛されて育った3人の子も、誰も愛らしく美しい顔立ちをしていた。 上の娘は桃色で艶やかな髪を腰まで伸ばし、海の蒼を移した瞳は常に穏やかな笑みを浮かべ、 貴族の女性らしい上品な雰囲気を纏っている。一つ一つの動きも流れるように美しく、 何処に行ってもおかしくない完璧な女性だ。 下の娘の方は性格が活発で、輝く金の髪も飾らず服にもあまり頓着していない様子ではあるが、 やはりレディとしてのたしなみは心得ているので ふとした仕種は優雅で気品がある。 琥珀色の瞳は強い光を放ち、それに魅せられる者も多い。 それから、末の1人息子である濃茶の髪に宝石と称えられる紫の瞳を持つ少年。 その女性的な顔つきは「どうして男なんだ」と知った者からは嘆かれ、"傾国の美女"と誰からか 称されて「だから僕は男だってば」と半泣きになって言ったことも幾度かある。 上が姉だけだというせいもあってか、仕種も性格も何処となく男性らしくなく、そこがさらに 誤解を招く結果となっていることを本人は気づいていない。 「心配しないでよ。僕1人でも大丈夫だって。」 僕だってもう16なんだから、と言いながら笑う。 「1人になったらちゃんと戸締りしろよ? 帰ってくるまで起きて待ってなくても良いからな。」 「もう、カガリ姉さんまで。僕ってそんなに頼りない?」 「無いから言ってるんだ。」 即答されてキラはふくれる。 「ひっどいな〜」 「事実じゃないか。」 それに他の家族も笑う。 確かにこの末の息子は何処かぽんやりしていて、放っておけないというか 危なっかしく不安だ。 カガリの言うことが最も正しいと、本人以外は納得する。 「…女装して連れて行ってもバレなさそうですけれど。そういうわけにもいきませんわよね。」 「あ、当たり前だよ!」 何言ってんのさ ラクス姉さんは! 「そうだぞ。」 けれど 慌てるキラとは別の意味で両親は反対した。 「もしキラが王子に見初められたりしたらどうするんだ。」 「…違う……」 父親の言葉に涙したが、それは全員が無視。 「有り得そうなだけに恐ろしいわねぇ…」 それだけキラは可愛いのだ。 後で実は男でしたと告白したところで無事じゃすまない気がする。 「フラガ侯爵 お急ぎください!」 御者が急かすように呼ぶ。 分かったと応えて彼はキラの方に向き直った。 「なるべく早く帰ってくるからな。留守番頼んだぞ。」 「うん。」 そして煌びやかな集団は、1人息子を置いて名残惜しげに家を発った。 →次へ ---------------------------------------------------------------------