Punish
目の前で失われたもの、それが代償。犯した罪の償い。
もしこれが罰だというのなら、一体 誰の罰なのだろうか…
「キラ、今日はお客様をお連れしましたわ。」
高らかに響く声、キラはベッドに座ったままゆっくりと顔を向ける。
アスランは 自分の鼓動が早く大きくなったのを感じた。
あの美しい紫水晶の瞳が自分を捉えた時、彼はどんな反応を示すのだろう。
怒りか、恐怖か、けれどどれでも構わない。
「……」
目が合った気がした。
けれど、
えっ……?
キラは本当に1度見ただけでまたふと視線を前に戻してしまった。
まるで何事も無かったかのような態度。
怒りも拒絶も感じられない、虚無の表情。
アスランはその予想外の反応に戸惑いを隠せなかった。
ラクスはそんなキラの態度に笑って近づく。
「今日は機嫌がよろしいようですわね。いつもは見てもくれませんもの。」
「!?」
キラの手元ではピンクのハロがクルクル回っている。
アスランからの贈り物で、ラクスの1番のお気に入り。
彼女がそれを手放しているのは珍しいことだった。
「ピンクちゃん ご苦労様。」
「ハロハロ♪ キ・ラ!」
クスクスと笑う。
「そう、キラ。ちゃんと覚えましたわね。」
彼女が手を差し出すと ハロはぴょんと飛び乗った。
それを「良い子ね」と撫でてから またキラの手元へと戻す。
「…ラク、ス?」
これは一体……
不思議そうにアスランは見ている。
振り返ったラクスから 不意に笑みが消えた。
「キラは…」
…これを知ったら 貴方はどう思うでしょうか。
「キラは貴方を失ったこと、自分だけが残ってしまったことを知った時に、心を失くして
しまったのですわ。」
「!」
アスランは息を呑み、その表情から自分でも分かるほどに血の気が引いていくのを感じた。
「笑うことも泣くことも、話すことすら今の彼には不可能です。」
淡々と、けれど少し震えた声でラクスは言う。
「いつも遠くを眺めているだけなんです。今 キラは人形と同じ状態です。」
「っキラ!」
たまらずアスランは駆け寄る。
そんな…っ 嘘だ!!
「俺はここだ! キラ!!」
肩を掴んで揺する。
けれどキラと視線は合わない。
どんなに彼を正面に向けても、焦点の合わない瞳は自分を見ていなかった。
「―――無駄です アスラン。」
彼の後ろから 非情とも取れる言葉をラクスは降らせる。
けれどそれは何か感情を押し殺しているようで、泣いているような印象さえ受ける声だった。
「貴方が無事だということはきちんとお伝えしました。けれど、何も変わりませんでした…」
何度も伝えた。
それでキラが元に戻ってくれるならと思って。
けれど彼は何も聞こえていないように 変わらず虚空を見つめ続けていた。
「遅かったんです。私が貴方の無事を知った時には もう……」
「キラ! キラ!!」
愛しい名を幾度も呼ぶ。
抱き寄せてその柔らかい髪に触れながら。3年振りの彼の温かさに触れながら。
でも返事は返ってこない。声が聞けない。
「…ッ!」
これが代償なのか…!?
これがキラを殺そうとした俺への…!
「……」
アスランの背中をラクスは無に近い表情で見つめる。
彼の腕の中に居ながらも変わらないキラの様子に 最後の望みも潰えてしまったと思いながら。
あの方の瞳はもう誰も映していない…
そして、最後まで私の方を向いては下さらなかった…
最後までキラはアスランしか見えていなかった。
自分もまた、彼を守りたいと願う者であったのに。
彼が見ていたのはただ1人だけ。
その人の為に涙を流し、その人への想いの為に心を失って。
けれどその腕に抱かれても 失ったものは戻って来なかった…
「…後悔、なさいましたか?」
変わらない表情でラクスは問う。
「いえ…」
落ち着きを取り戻したアスランは、キラから離れ自分を見ない彼を見た。
傷ついてないわけではなかった。
胸は抉られるように痛い。
けれど。
「これが罰というなら 俺は何をしてでも償います。キラは、俺が救います。」
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