悔恨

  もしそれが許されるなら もう1度だけ夢を。



「それでアサギがさ、」
 廊下にカガリの楽しげな声が響く。
 その隣を並んで歩きながら、キラも笑顔で話を聞いていた。
「でもカガリのことだからそのままじゃないんでしょ?」
「当たり前だ。」
 自信満々で即答されて苦笑う。
「カガリって彼女達と本当に仲良いよね。」
「まぁアイツら 私が姫だからって手加減したりしないからな。」
 元々姫扱いされるのが嫌いな彼女だから それが彼女にしてみれば嬉しいのだろう。
 カガリから見れば彼女達は貴重な友人なのだ。


「―――そういえばカガリ、君 クサナギに戻らなくて良いの?」
 艦の指揮官がこんなに長時間離れていて良いものだろうかと。
 さっきからずっと一緒にいる彼女に 不意に浮かんだ疑問をぶつけた。
 引き止めたのは自分だが、それでなくても彼女も戻ろうとした様子はなくて。
 だからつい長話になってしまっていたのだけれど。

「…。良いんだよ、お昼食べたら戻るから。」
「今の間は何。」
「っ 何でもないって! それより早く食べに行くぞ!」
 ジト目で見てくるキラから視線を逸らして泳がせる。
 そしてふと見た視線の先、反対の通路を通り過ぎる彼の姿を見つけた。

「アスラン!」

 彼女の呼びかけに応えて彼は立ち止まる。
「ほら、アイツも誘おう。な?」
 逃げる口実ができたといった感じで 彼女はキラの返事も待たずに彼の元に走って行った。

 でも、きっとそれだけじゃないのはキラも知っている。
 その表情がとても嬉しそうなのは偶然に彼と出会えたからだろう。
 キラは一緒に行くことはせず そこに立ち止まって、溜め息をつきつつもそんな彼女の背中を
 優しい眼差しで見送った。



「アスラン、お前も一緒に食堂行かないか?」
「それは構わないが…」
 了承の言葉にパッと顔を明るくしたカガリだったが、アスランは1拍置いてびしりとブリッ
 ジの方を指差す。
「―――と、その前にクサナギに連絡。」
「…なんで?」
 意味が分からずカガリは本気で首を傾げる。
 その瞬間、プチリと小気味の良い音がした気がした。
「なんでじゃない! キサカさんが探してたぞ。」
「ゲッ」
 マズイとカガリが思ったときには遅い。 
「お前はもっと指揮官としての自覚を―――」
「っキサカみたいなこと言うなーっ」
 叫んで耳を押さえたら掴まれて引き剥がされて。
 逃げるのを押さえ込まれて説教が始まった。



 「……」
 2人のやり取りを見ながらキラはクスリと笑う。

 変わらないアスラン。
 僕にも同じようによく怒っていた。

 でもそれは 僕に対してより少し優しい。
 彼女はアスランにとって大切な人だから。
 守りたい人を、君も見つけたんだね。

 昔はそこに僕がいた。
 でも 今は彼女の場所―――

 キラはそっと離れると 2人に背を向けた。








 「キラ! お前も見てないで……!」
 助けを求めに振り返って、けれど忽然と姿を消していた彼にカガリはアレ?と首を傾げる。
「今までいたのにどこに行ったんだ…?」
「…アイツなら ずいぶん前にどこかに行ったよ。」
「何?」
 そういえばアスランはキラと向かい合っていたのだからいなくなったのならすぐに分かった
 はずだ。
 「って 呼び止めろよ!」
 思わず怒鳴る。
 キラも一緒に、3人で行くつもりで誘ったのに。
 それでキラがいなくなったら意味がない。

 「……俺が?」
 それに返したアスランが向けたのは かなり困ったような表情だった。
 それにカガリは戸惑う。
「…俺は、キラと必要以上に話さないのにか?」
「え…?」
 だって戦闘のコンビネーションは絶妙で、打ち合わせだっていつも隣で同じ意見で。
 でも、言われてみればそれ以外で一緒にいるところは見たことがない。

「アイツは… 俺と目を合わせようとしない。」
 視線が合ってもすぐに逸らされてしまう。
 戦闘中は全てを忘れていても、生身で会えばその態度はお互いぎこちなかった。
 その度に もう元には戻れないんだなと思ってしまう。
「けれどそれも、仕方が無いことだ…」
「アス ラン…」

 2人は親友だったんだ。
 本来ならこんな風になる必要なんかなかったのに。
 でも、戦争は 憎しみは、そんな2人すら引き裂いてしまったのか。

 アスランの言葉に カガリは何も返してやることができなかった。




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