悔恨 A




「私も似たようなことをキラに聞いたことがありますわ…」
 訪ねて来たカガリに向かって、ラクスは深い溜め息をついた。

 ―――アスランは… 僕を見る時、とても辛そうな顔 するから。

 だから目を合わせられない、と。
 自分の罪は決して拭えないものだと思い知らされてしまうから、と…

「っだあぁぁ! イライラする!!」
 思わず立ち上がってカガリは叫んだ。
 ラクスはそれに驚かない。きっと自分が彼女でもそうしていただろうから。
「つまりアレだろ? 相手は許してんだけど自分は許せないって。」

 お互いがしてしまったことは許されないことだけれど。
 それが戦争というもので。どちらも必死だった。
 だから 事実は事実で受け止めて、相手も受け入れて。
 でも 自分は許せない。

「…なんだかんだ言って 似てんだよな、あの2人。」
 どかっと座りなおし、椅子の上で片膝を立てる。
 むしゃくしゃして頭をかき回して。でも気分は晴れない。
「さすがは"親友"だよな…」
 小さい頃から一緒に育っただけのことはある。
 余計なところまでそっくりだ。
「でも このままにはしておけませんわ…」

 お互いが同じ思いなだけ、2人の溝は埋まらない。
 お互いが歩み寄ろうとしないから、2人の距離は縮まらない。
 再会した時から隔てられたままの 2人の間にある壁。
 その壁から離れていくだけで 壊されない。
 壊すだけの力もあるのに。
 悔恨というものの為に 2人はそれを避けている。

「そうだな…」


 ―――……戦うことに迷いは無いよ。ただ アスランとはもう元に戻れない。それだけ。

 悲しい言葉。
 寂しげに笑って言った、聞いた方が泣きたくなりそうに切ない彼の言葉。
 それを言わせた戦争というものがとても憎らしく思える。
 誰が、何が、キラとアスランを引き裂いて良いものか。
 共に戦うようになっても避けあわなくてはならないようにしたのは。


「―――きっかけを作りましょう。」
 唐突にラクスが言った。
「まずはお互いに話し合うことですわ。」

 避け合うならば、話そうとしないならば。
 話せる場を作ってあげれば良い。
 すぐには無理でも、少しずつでも歩み寄ってくれれば。
 今の2人は見ている方も辛くてならないから。
 どうにもならなくてもどうにかしたいから。

「…でもどうやって?」
 カガリが問うと、ニッコリと 何か面白いことを思いついたように彼女は笑う。
「カガリさんにも手伝っていただきたいのですけど…」
 そう言って、彼女の耳元で笑いを含んだ声で囁いた。













「…ん?」
 後ろから 自分の赤い服を掴む者がいるのでアスランは立ち止まる。
 こんなことをするのは今は1人しかいないから、振り返らなくても名前は呼べた。
「…何の用だ? カガリ。」
 緑の瞳を伏せて 優しげな声音で名を紡ぐ。
 それにピクリ、と 手が反応したのに気づいた。

「あ、あのな…っ」
 照れているのか何なのか、続きの言葉はなかなか紡がれない。
 それをアスランはゆっくりと待った。

「後で… その…… 話があるんだが…」

 何をこんなに照れてるんだろう 私は…
 ラクスに教わった通りのことを言うだけなのに。
 顔が火照って熱い。

「…今じゃダメなのか?」
 アスランの疑問はラクスが言った通りの反応だ。
「え、あ、うん。で、用が済んでからで良いから展望室に来てくれないか?」
 安心したからか 今度は普通に言えた。
 そして彼の次の返答を待つ。

「別に 良いけど…」
「ホントか!?」
 OKをもらえたことに演技ではなくカガリは素直に喜んだ。
「じゃあ後でな!」
 嬉々とした笑顔で彼女は手を振り 去る。
 それを不思議そうに、置いて行かれた気分でアスランは見ていた。







「散歩に行かれませんか?」
 部屋に突然やって来て言われたのはそれで。
 え? とキラがパソコンの画面から目を離すと彼女は微笑んで続けた。
「疲れてらっしゃるでしょう? 気分転換に。」

 この桃色の髪の少女は 気分が沈んでいる時にやって来てはこうして気晴らしを提供してくれ
 る。
 無意識なのかもしれないけれど、それはとてもタイミングが良くて。

「…うん、良いよ。」
 そう言ってパソコンの電源をOFFにした。


「展望室が良いかもしれませんわね。」
 その時彼女が何を思ったか、キラは最後まで気づかなかった。





→次へ




---------------------------------------------------------------------


 



BACK