Lost child −≪05≫
「ちょっ…!? ここ、道の真ん中…っ!!」
こんな祭りの喧騒の中では 誰もこちらなんて見ていないのに。
キラらしい、相変わらずの反応。
思わず苦笑いが漏れたけれど離す気はない。
「久しぶりに会ったセリフがそれ?」
からかう調子で耳元に囁けば、かかる息にキラの身体がビクンと跳ねた。
同時に突っぱねようと力を込めていた腕がピタリと止まる。
何か言いたげに唸る声が聞こえるけれど、アスランはあえて聞こえていないフリをした。
「…キラ、耳まで真っ赤だよ?」
「〜〜〜〜〜っ」
抵抗を止めて胸に顔を埋めるキラにクスクス笑う。
隠しても今どんな顔をしているかなんて簡単に分かるのに。
でも、そんな仕種も可愛い。
変わらないキラに安堵したせいかもしれない。
今までの不安も何もかも吹き飛んで、残ったのは触れた身体の温かさ。
夢で1度も触れられなかった姿が 今はこの腕の中に居た。
「勝手にいなくなるな… 心配する。」
ポツリと零れた言葉に もう1度キラの身体が跳ねた。
さっきのとはわずかに違う。
すぐに返事がなかったことを怪訝に思って、何か言おうとアスランが口を開きかけた時、
「―――ちゃんと、紙に書いたよ?」
唐突に返ってきた言葉は子供の言い訳のようで。
声も、正直な身体に反して一見普通に感じられるようなものだった。
「少し…考えたいことがあってさ。もうすぐ帰るつもりだった。」
ここ1ヶ月近くの苦悩は何だったのかと言いたくなるような返答を返されて。
常のアスランならここで脱力するか怒るかしたのかもしれない。
けれど、今のアスランは言葉の意味には取らなかった。
「―――嘘、だろ?」
見縊るなよ。
俺がどれだけお前を見ていると思う?
だてに傍に居るわけじゃない。
お前を想ってきていない。
「帰るつもりなんかなかったくせに。」
「…っ!!」
息を呑むキラの気配が伝わる。
キラが嘘を付くのが下手なわけじゃない。
感情を隠すのが 今のキラは得意だから。
ただ、それ以上に俺がキラの変化に気づけるだけだ。
「…そんなに俺から離れたかった?」
「っ!? 違っ!!」
反射的に顔を上げたキラの表情は必死で。
それは少し意外な反応だと思った。
「じゃあ 何故?」
離れがたさを無理矢理押し込んで身を引き離す。
肩に置いた手だけを残して 離れた熱に寂しさを覚えつつ、でもこうしないと真っ直ぐに紫苑が見
れないから。
「俺の前から消えた理由は何?」
重なったキラの瞳はすでに潤んでいた。
始めはゆっくりと、そしてだんだん強く、言葉を否定して首を振る。
「アスランのせいじゃ、ない…」
そんなんじゃなくて…っ
でも言葉が続かない。
言葉を探すキラを、アスランは無言で見つめる。
「何が」キラをこんな行動に移させたのか。
アスランが今知りたいのはそこだ。
"ずっと一緒にいよう"という誓いを自ら破ったその理由を。
キラの真意を知りたかった。
「ヒビキ〜っ!!」
「!?」
緊迫した空気を一気にぶち壊してくれた声が響く。
ドン、と言わんばかりの全体重をかけて、キラの腰に飛びついてきた白い物体。
前によろけた身体をアスランが支えて、2人は"それ"に目を向ける。
年は14、5歳くらいだろうか。
フワフワと柔かそうに揺れる金の髪。
純白のワンピースからのびる 日に焼けた細い四肢。
腰に抱きついたまま見上げる少女は笑顔をキラに向けていた。
「突然居なくならないでよね。」
頬を膨らませて言うと、キラは苦笑いを返す。
「ごめん、アリア。パレードが始まっちゃったからつい見てて。」
「…まぁ良いわ。ヒビキがふらりと居なくなるのは今に始まったことじゃないものね。」
「……?」
どうやら聞き違いじゃないようだ、とアスランは思った。
今確かに彼女はキラを"ヒビキ"と呼んだ。
どこかで聞いたことがあるような、と考える前に彼女はアスランへと視線を向けて。
「―――貴方は誰?」
よく考えれば尋ねて当然のことを聞いてきた。
探るような目でじっと見つめてくる。
「―――ひょっとして ヒビキを迎えに来た人?」
答えを聞く前に彼女が自分で導き出した答えはそれ。
アスランはそれにひとつ頷いた。
「ああ。俺はキラを探してここまで来た。」
他に目的などあるはずがない。
俺の世界の中心。絶対唯一の存在。
キラ以外の為に誰が動いたりするものか。
「…"キラ"? それがヒビキの本当の名前?」
「そうだ。どうして"ヒビキ"なんだ?」
"ヒビキ"という呼び名しか知らない少女と "キラ"としか呼ぶ名を知らない少年と、2人の視線が
集まる。
すいっと視線を離して周りを巡らせていたキラは、一点を見てピタリと止まった。
「―――あそこのカフェに行こうか。」
「…キラ。」
はぐらかしているとも取れる言葉に反論しようとして。
でも、キラは振り向くとにこりと笑った。
「長くなりそうだから。…あそこで全部話すよ。」
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※アスランもアリアも"ア"で始まるのでちょっと表記変えます。
管:なんつーか… 再会した途端なんでそんなラブラブかな君ら…
アス:恋人なんだから当たり前じゃないか。
管:そうね、そうよね。聞いた私が悪かった。
キラ:…アスラン? その人は?
アス:キラ!(パッと表情を変えて駆け寄る)
キラ:って アスラン!?(抱きつかれて当惑)
アス:やっぱり抱き心地が良いな、キラはv
キラ:じゃなくて! あの人は!?
アス:んー 何?(聞いてない)
管:―――管理人ですー はじめまして キラ君。って聞こえてないかな?
…と、オリキャラちゃん。君もはじめまして。
アリア(以下アリ):はじめまして。アリアよ。
管:君のことは後々出てくると思うけど。まぁ1つだけ。
アリ:何?
管:ぶっちゃけキラとの関係は?
アリ:ロイなんかは同棲とか茶化すけど… はっきり言って居候と宿主の関係以上はないわ。
管:…つまり 恋愛感情は無いわけね。
アリ:不思議とね。ヒビキに好きな人がいるって知ってるし。
管:アレ、だけどね。(指差し)
(人前お構い無しにキスを贈るアスランと、赤面しながら受けるキラ。もちろんこちらは眼中に無い。)
アリ:…予想以上ね。
管:いずれ見慣れるのかね。
アリ:……それはそれで複雑だわ。
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