Lost child −≪01≫
戦後しばらくして。
1人の少年が姿を消した。
そしてその後を追うように もう1人の少年も行方を晦ました。
普通の少年達ならば、世界は何も変わらなかっただろう。
変わるのは少年に近しい者だけだ。
けれど、その2人の場合は違った。
…2人は世界の中心だったのだ。
新生オーブの指導者、キラ・ヤマト。
プラントの最高権力者、アスラン・ザラ。
世界に2人を知らぬ者はいない。
親友でありながら1度は敵対した2人が、再び手を取り合い共に平和を作り出した。
その物語は誰もを感動させ、彼らの言葉に人々は耳を傾けた。
そして今、その2人によってナチュラルとコーディネイターは歩み寄る道を進み始め、世界は
本当の平和へと向かっている。
2人は世界の中心だった。
常に人々の前に立ち、穏やかな日々を望みつつそれを押し殺して平和の為に奔走した。
世界とそこに住む人々の為に。
まだ10代の少年達が。
英雄だと称えられ、子どもとしての要求は抑えられ。
それでも平和の為に自分を犠牲にした。
だから、
こうなってしまったのは仕方の無いことだと。
彼らをよく知る栗色の髪の女性は思ったのだった。
「無理をさせ過ぎたのよ。私たち大人は…」
反省するべきね。
誰に言うでもなく、彼女は1人、ポツリと呟いた。
まだ2人の失踪は公表されていない。
知っているのはオーブとプラントの上層部の者だけだ。
そして、事実を知る両機関の職員たちは戸惑った。
突然指導者を失ったのだ。それは無理もないことだと思う。
けれど、彼らの前に現れたもう1人のプラントの指導者は そんな彼らを一喝した。
「貴方がたはあの2人がいないと何もできないのですか?」
そうではないでしょう? と彼女は告げる。
その凛とした声は癒しの歌姫のもの。
以前の穏やかな雰囲気はそのままに、それに加えて一本筋の通った態度はもう1つの彼女の姿。
「信頼されているからだとお思いなさい。」
自分が居なくてもできると思っているから彼は姿を消せたのですわ。
それくらいお分かりなさい。
子どもを叱る母親のように 自分より幾分も歳の多い者たちを窘める。
「あの2人が戻ってくるまで私とカガリさんが代行します。」
アスランの補佐をラクスが、キラの補佐をカガリが、それぞれ請け負っていた。
けれど補佐とはいえ彼女達も人の上に立つだけの器は十分ある。
「だから今は… ゆっくり休ませて上げてください。」
2人の傷はまだ癒されていません。
まだ あの時に取り残されたままなのです。
だからキラは姿を消したのでしょう。
ひょっとしたら…
その仮定はラクスの中に留めておいた。
それは周りを不安にさせるだけだったから。
---------------------------------------------------------------------
管:放っておくの?
ラクス(以下 ラ):ええ。特にキラには無理を強いていましたから。
管:自分で選んだ道じゃないの?
ラ:確かにキラの意志ですわ。けれど彼は元々普通の少年、私やアスランとは違いますわ。
管:失踪した理由はそこに?
ラ:それは分かりません… でももしそうなら 無理に戻ってきなさいとは言えませんわね。
マリュー(以下 マ):キラ君はもう自由になって良いと思うわ。
ラ:マリューさん。…そうですわね、キラはもう十分やってくれましたものね。
管:―――ところで。アスランだけに任せて良かったの?
ラ:良いのではありませんか? 探すのは恋人の役目でしょう。
管:知ってたんだ…
ラ&マ:皆知ってる(ます)わ。
管:そう、なんだ…
BACK
NEXT