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 抵抗を止めて素直に身体を預けてくる彼女に気づいて、アスランの表情にも自然と笑みが漏れ
 る。

 1年半ぶりにこの腕の中に戻ってきた最愛の恋人。
 この嬉しさをどう伝えたら良いのだろう。


「キラ…」
 ありったけの想いを込めて名を紡ぐ。
 震える瞼に、赤みを帯びた柔らかな頬に、名前を呼んでくれる唇に、それぞれキスの雨を降ら
 せながら。


 何度夢見たことだろう。
 何度、魘されて飛び起きたことだろう。
 最後はいつも腕の中でかき消えてしまう、キラがいなくなる夢を、繰り返し繰り返し。

 このまま狂ってしまいそうだった。
 いや、もうすでに壊れてはいたのかもしれない。
 あのシンでさえ心配そうに俺を見ていたし、ラクスからは「しばらくお休みをいただいてはい
 かがですか?」とまで言われた。

 探して探して探し続けて。
 軍の権限だけでは足りず、煩わしいとさえ思っていたザラ家の名まで使ってやっと。

 ―――そして彼女が腕の中に落ちた時、その時初めて心からの安堵を覚えた。
 失ってからずっと開いたままだった穴も塞がって、壊れ 狂いかけていた心もやっと安定でき
 たのだ。

 それほどまでにキラの存在は俺にとってかけがえのないもので。
 無くては生きていけないものだった。


 だから決めた。


 次にその手を掴んだ時には、何があっても2度と離さない、と。
 何をしてでも自分の傍に留めさせるのだと。




「ね… アスラン、き……ンっ」
 話は後で聞くからと、何かを言おうとする唇を塞ぐ。
 今はどうしても彼女が欲しくて。
 今度こそ夢ではないという確信が欲しくて。
 ゆっくり話を聞きながら、なんて余裕が今の彼にはなかった。


 片手で彼女の服の胸元をはだけさせ、もう片方は中へ入り込ませて露になった乳房に触れる。
 包み込むように揉みしだきだしたところで記憶と違う感じがして あれ?と視線を落とした。
「…大きくなった?」
「い、ま だけだ…ぁ、ゃ……ッ」
「―――ああ、サラがいるからか。」
 納得したら一瞬過ぎった心配も消えて 動きを再開させる。
 時折ツンと尖った先を親指の腹で撫でたり爪を立てたりして刺激を与えてやればびくりと身体
 がはねた。

 柔らかい肌、甘い香り、
 理性はあっさりと 確実に突き崩されていく。


「ッ アス、…!」
 キスの合間に彼女はまだ何か言おうとするけれど、それを許さずにさらに深く奪う。
 すると今度は震える手がシャツの合わせ目を強く掴んだ。
「きみ、も… 僕だけ、じゃ 嫌だよ……」
 それは今にも消え入りそうな、途切れ途切れの声。
 そこで初めて、ほとんど脱がされているキラとは正反対にアスランは着込んだままだというこ
 とに気づいた。
 いくら彼女を欲して止まなかったといっても 余裕がなさ過ぎたようだ。
 苦笑いしながらボタンに手をかけ外しにかかるが、2つ目で面倒になり残りは引きちぎった。





 降りていく手のひらが腰に触れる。
「…っ は、ぁ…ッん……」
 的確に弱いところを攻め立ててやれば、声はさらに甘さを増した。
 アスランの手に素直に反応する身体はさらにアスランを酔わせてくれる。

 けれど、身体のラインをなぞっていくうちにふと気づく。
 少しでも手荒に扱えば壊れそうな細い身体。
 そんなにヤワじゃないと知っていても一瞬躊躇ってしまう程、彼女は小さく儚げだ。
 これで本当に子どもを産んだのだろうか。未だに信じられない。

「…アスラ ン……?」

 考え込んでいるうちにどうやら止まってしまったらしい。
 不思議そうに見上げてくる彼女になんでもないと笑顔を作って、腰から滑らせた指先で秘部を
 撫でる。
「ッ! ひ、ァ…ッ!?」
 一際大きく仰け反った身体を片手で押さえ込んで すでに濡れていたそこにゆっくり指を差し
 入れた。


「久しぶりだから負担をかけるかもしれないな…」
 丹念に施してやりながら ボソリと呟く。
 最後に彼女に触れたのは別れる直前の強姦に近い行為だった。
 彼女の心も身体のことも何も考えず、自分の欲求だけで彼女に無理を強いたこと。
 それを彼女は責めなかったけれど かなり酷いことをしたと思う。
 もうあんなことは2度としない、…したくない。

 そして今日は あの日の分まで優しく愛したい。


「っアス、ラン…! も ぅ…ッ」
 いつもより丁寧にし過ぎたのか彼女の方が限界にきたらしい。
 涙目で訴えてくる彼女の瞼に唇を寄せ それを承諾の返事の代わりとした。

「キラ…」
 腕を首に回させて、初めての時のように耳元で名前を呼び続けて。
「キラ、力を抜いて…」
 緊張で強張る彼女を安心させようと 優しい声音で言葉をかける。
 余裕なんてアスランもないけれど 彼女を傷つける抱き方はしたくなかった。

「―――っ あ……ッ!」
 背中に彼女の長い爪が食い込むのも甘い刺激。
 その誘惑にも抗って 最後まで挿れるのにも常の倍の時間をかけた。
 …それでも彼女には負担になったようで 肩で今にも切れそうな息をしていたけれど。




 ベッドの軋みはいつもより緩い。
 激しさを抜いた行為は弱火で煮込むような感覚に似ていると思う。

「アスラ…ッ ね、おねが、ぃ…!」
 余裕を失ったキラが訴えても アスランは激しく動こうとはしなかった。
 もし我を失い暴走してしまえばどうなってしまうか分からないし、久しぶりの彼女にどれだけ
 負担がかかるのか。
 けれど彼女にとっては焦らされているのと変わらないらしい。
「いじ わる…!」
 終いにはそんな風に言われてしまって。
 さすがにアスランも心外だと眉を顰めた。
「無理をさせたくないだけだ。」
「…や、…も おかし くな……ッ」
 ぎゅっと腕に力を込められて 身体がゼロに近くなる。

 プツリ、とまずはひとつ。


「アスラン……」

 耳にかかる吐息でふたつ。


「すき… 大好き、だよ……」


「―――――ッ!!」


 甘い声が最後の砦をぶち壊す。

 アスランの理性はそこで完全に焼き切れた。
























 夜明けまでにはまだ少し時間がある。
 熱が過ぎ去ってから約半刻が過ぎても、アスランはまだ眠れずにいた。

 こんな時間に起きている者が他にいるはずもなく、部屋の外は物音一つしない。

 ―――音の無い静かな世界。
 この世に2人だけのような、そんな気分にさせられる時間。



 つい突っ走ってしまったせいで さすがにこちらの身体も多少の気だるさを感じるが、彼の心
 はいつになく満たされていた。
 抱きしめているキラは消えない。
 甘えるようにアスランの胸に頬をすり寄せ、うとうととしている最愛の人。
 確かにここにいる その存在がこれは夢ではないのだということを示していて。

 彼女がいるだけでこんなにも安定できる事実。
 自分にとってキラがどれだけ必要なものだったか、アスランは改めて実感した。


「……キラ」
 眠いのなら応えず寝てしまっても良い。
 キラはずっとここにいるのだから明日でも言える。
 それくらいの気持ちで囁くと、意外にもはっきりとした反応が返ってきた。

「アスラン……? どうか、した…?」
 腕の中に収まったままで見上げてくるキラを見つめる。
 こういう仕草は1児の母とは思えないほど可愛らしくて、つい抱きしめたくなってしまうけれ
 ど。
 今は少し我慢してでも伝えたい言葉があった。

「―――ありがとう。」

「…え?」
 きょとんとして大きな瞳を瞬かせる彼女に優しく笑む。
「俺の子を産んでくれて。」
 少し予定が狂ってしまったが、元々そういうつもりで計画していた。
 これが彼女を手に入れる最後の手段だったから。
 …そのことを彼女には内緒にしていたけれど。
「…え、……ぁ。」
 彼女はもう1つ瞬いて、意味が分かると今度は真っ赤になった。
「ア、アスラン…ッ あれは……!」
「そのおかげでキラを迎えに行くことが出来た。」
 焦る彼女の言葉を笑顔とキスで遮る。
 軽いソレは熱を呼び覚ますものでもなく、ただ黙らせる為だけのもの。
 そしてその通りに黙り込んだ彼女にもう一度柔らかいキスを送った。

 キラとも相性が悪かったわけじゃない。
 ただ、ラクスの遺伝子がキラのそれより少しだけ相性が良くて、そして彼女が"ラクス・クラ
 イン"だったから。
 2人の違いはそれだけだった。

「正式にラクスとの婚約を破棄したんだ。」
「……ウ ソ…」
「ホント。」
 ココにキラをつれてきた意味を今やっと実感したのか、キラの表情がみるみるうちに強張って
 いく。
 別れの言葉を告げた時に「無理だ」と泣きそうな表情で言った彼女には信じられないことだっ
 たらしい。

 けれど "婚姻の優先"を考えれば実際に子どもができたキラの方が上。
 評議会の方は渋っていたようだが、婚姻統制の力はやはり強く、結局婚約破棄は受け入れられ
 た。
 そしてそのことは近々公にするつもりでいる。
 戦争が終わってもう3年だ、仮初めの婚約も十分だろう。

「お前と結婚するためにいろいろ準備をしていて 迎えに行くのが遅くなった。」
 それは本当の話だ。キラを迎え入れる準備には2ヶ月近くかかった。
 それを差し引いてもディアッカやシンに先を越されていることも知っているが、悔しいのでそ
 こは言わずにいた。



「…許して、くれるの?」
「許すもなにも。誰がいつお前を手放すなんて言った?」
 恐る恐るそんなことを聞いてくるキラに、何を言っているのかという顔で返事を返す。
 いつか必ず取り戻すと言った言葉を忘れたのだろうか。
 そもそもキラが勝手に離れただけで 俺は諦めたつもりもない。
「俺にはもうお前しかいない。キラがいなくなってから周りに散々心配をかけたし、どんな顔
 をしていたのか シンにまで心配された。それだけキラは俺に必要なんだ、いないと困る…と
 いうかいないと俺は俺でなくなってしまう。…そのこと ちゃんと分かってるのか?」
「〜〜〜ッッ!?」
 湯気が出そうなほど耳まで真っ赤に染まったキラがバッと顔を背ける。
 返事が聞けてないと顔を上げさせようとしたけれど 絶対に向けてくれなかった。
「…キラ?」
「バカだよ… どうしてそんなにバカなの、君は…」
 顔は向けてくれなかった。
 けれど 声はどこか笑っているようにも聞こえる。…そして、呆れているようで どこか嬉しそ
 うな声でもあって。
「俺はキラが好きなだけだ。」
 なおも正直に言えば またバカ、と呟かれた。


「―――ね、アスラン。…まだ君は僕に夢を見てる?」
 何を言われたのか一瞬気づけなかったけれど、すぐに別れ話を切り出された時に言っていたこ
 とだと思い出す。
「…? あぁ。そういえば前に 俺に"夢を見るな"とか言ったな。」

 あれは俺を遠ざける為の言葉だと分かっている。
 同時に、本心であることも。

 キラは、元々大人しく守られてくれるような性格はしていない。
 それを誰よりも知っているのはアスランだ。

「…確かに周りが思うよりお前は強かなんだろう。―――だが、お前はお前自身が思うより弱
 い。」
「そ―――…ッ!」
 キラは何か言い返そうとして、でも止めたようだった。
 数秒沈黙した後にアスランにしがみ付くように腕を回して擦り寄る。
「…弱い、かな……?」
「一般的に言えば強い方かもしれないが。だからといってそんなに強くもないだろう?」
 心なしか弱々しくなっている声を訝しく思いつつも、アスランは思うまま正直に答えた。
 
「キラは1人では生きていけないから。だから早く迎えに行きたいと思っていた。」

 本来甘えたがりで寂しがり屋のキラ。
 そんなキラが1人でいるなんて心配だった。
 …その心配の一部には、そこに付け込んで言い寄ろうとする男がいないかどうかもあったけれ
 ど。

「ちゃんと育ててたよ。一緒にいてくれるって言ってくれた男の人達も全部断ったし。」
 少しばかりムッとして、言い返す声はどこか拗ねたようにも聞こえる。
 やっぱり言い寄られてたかと思いながらもそこは表に出さず、アスランはわざと呆れたような
 顔をした。
「それはゆりかごの中だからだろう。外に出て同じ言葉が言えるのか?」
「言えるよ、……たぶん。」
 自信なく付け足された言葉にほら、と返せば、言葉で負けたお返しなのかギュウギュウと無言
 で締め付けてくる。
 並より細いキラの腕なのだからそれほど苦しくもない。むしろ密着してくる身体に煽られると
 いうか。
 けれど、それを非常にマズイと思いつつも離す気にはなれなくて。
「……その平気そうな表情がむかつく。」
 別の意味では結構切羽詰まった状況なのだが そこは気づいてもらえなかったらしい。
 不機嫌そうに睨み上げていたキラは 何を思ったか、腕を離して伸び上がると首にかぷっと噛
 み付いた。

「な…ッ!?」
「―――アスランも少しは困ると良いんだ。」
 離れた彼女が勝ち誇った笑みを向けるけれど アスランはそれどころではない。
 歯を立てられた場所が熱い。
 彼女的には隠せない位置のキスマークを周りに見られてからかわれろという意味だったのだろ
 う。
 しかし、ギリギリで抑え込んでいた今のアスランにその行為は決定打。

「…煽ったのはそっちだからな。」
「え?」
 コロンと彼女の身体を返すとその上に圧し掛かる。
 そこでやっとキラは自分が何をしてしまったのかに気づいたらしく ざっと青褪めて慌てだす。
「! ちょ、…僕が悪かった! 謝るからッ!」
「遅い。」
 いまさらそう言われても止めることはできない。
 一言で切り捨てて、なおも慌てるキラの身体に愛撫を始めた。

「ゃ…っ あ…」
 抵抗の言葉はさっさと嬌声へと変えて、静まったはずの熱を再び呼び起こす。




 ―――その後 熱がおさまったのは、すでに空が明るくなり始めた後のことだった。




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アスラン視点のえにょシーン。
途中で疲れてしまったので省いたりしてます。
闇月で散々書いたのでもうえにょ書きたくないです… 疲れる…(汗)



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