>--scene.06:side.B--<




 キラがいなくなった。
 俺の前から、そしてここから。


 本当は彼女の話を完全に信じていたわけじゃなかったんだ。
 けれど通知が来て、引き継ぎをして、彼女の場所が少しずつなくなっていって。
 現実だと思った時にはもう全てが済んだ後。

 キラは俺に何も残してくれずにここを去っていった。







「アスラン! キラはどこへ行った!?」
「知らない。」
 わざわざ執務室にまで乗り込んできて問い詰めてくるイザークに アスランは素っ気ない一言
 で返す。
 でも聞かれたところで実際知らないのだから仕方ない。


 彼女は結局教えてくれなかった。
 どれだけ問い詰めてもかわされて逃げられて。
 それならばとこちらで勝手に調べようとしたが、彼女が望んだのか軍の意向か 結果は徒労に
 終わった。

 今の剣幕からイザークも知らなかったことを知って少し安堵したけれど。
 …けれど、返せばつまり 彼女は本当に誰も知らないところへ行ってしまったのだ。


「どうして止めなかったんだ! あいつを止められたのは貴様だけだろう!?」
 イザークの苛立ちもアスランと変わらないくらいのものなのだろう。
 そしてその憤りをぶつけられる相手がアスランしかいなくて。
 アスランもそれは分かっている。気持ちも分かる。
 だが、彼に負けないほどアスランも苛立っていたのだ。
「俺はこんなことを望んであいつの話にのったわけじゃない! それとも、貴様のキラへの想い
 は別れたくらいで冷めるようなものだったのか!?」
「っ煩い!!」
 思わず怒鳴り返すと叱責の声がぴたりと止んだ。
 しかし驚いたという顔ではなく、やっと言ったなと満足げな顔をされて。
 やられたと思ったが、言い訳なら聞くぞと目で促す彼に今日は負けを認めて力を抜いた。

「止められるわけ、ないじゃないか…」

 そういえばイザークを使われたのだ。
 引き留めるのを諦める原因になった相手の顔をアスランはじっと見る。

「引き留めたらイザークと結婚すると言われたんだ。」
「……何言ってるんだ? 俺はそんなこと知らないし聞いてもいない。」
 明らかに初耳だという返事が返ってくるが、それは予想通りのものだった。
 何も言えなかったのはあれを信じたからではない。
「だろうな。だが脅しでもそれ以上は言えなかった。そこまで拒絶されてまだ縋れるほど俺は
 自尊心が低くなかったんだ。」
「馬鹿だな。」
「…イザークの言う通りだよ。」
 本当に馬鹿だ、と自嘲気味にアスランは笑った。


 もっと食い下がれば彼女はいてくれただろうか。
 頑固なキラが決めたことを変える可能性は低くても、諦めなければせめて何か残してくれたか
 もしれない。
 この世界に"もし"は存在しないけれど、もっと後悔しない選択をすれば良かった。



「認めたことは褒めてやる。だが俺はもう知らん。」
 好きにしろと投げた態度でイザークは背を向ける。
 けれどそれが本心とはかけ離れたところにあることくらいアスランにも分かった。
「…諦めることなんてできないくせに。」
「貴様には言われたくない。」
 呟くと即座にそんな反応が返ってくる。
 互いに図星のそれに、2人共苦笑うしかなくて。




 ―――キラに捨てられた男が2人

 閉ざされた道の先は見つからず




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短く 短く。
…アスランもイザークもキラの居場所を知りません。
が、1人だけ知っている人がいました。次回は1年後、その人物とキラの話です。



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