>--scene.04:side.B--<




 連れてこられたイザークの部屋は 自分の部屋と同じくらいに殺風景だった。
 どうやらどこまでも自分達は似た者同士らしい。
 そんなどうでも良いことを考えながら アスランはイザークとは向かいのソファに腰掛けた。



「まずシンの件だが。…表向きは一応規律違反、ということになっている。」
「表向き?」
 2人きりで話す時点で 周囲に知らせるわけにいかないことだとは分かっている。
 キラの沈んだ表情からもその重さは伺い知れた。
 しかし虚実を用いてまで隠さねばならないシンの過ちとは一体何なのか。アスランの疑問は膨
 らむばかりだ。
「ああ。罪状は命令無視と単独行動といったところか。…あながちこれも間違いでもないんだ
 がな。」
 ますますワケが分からない。
 不在中に戦闘があったという報告は受けていないし、それ以外でシンは何の命令を無視したの
 だろうか。
「今回の処分の真実は俺とキラ、後はレイしか知らない。」
「何があった?」
 焦れたようにアスランが問う。
 イザークは深く息を吐いて、口に出したくもないと苦い顔を見せた。

 その時過った嫌な予感。
 杞憂であって欲しいと願った。…が、、

「―――あのバカ、キラを無理矢理犯しやがった。」

「っ!!?」
 一瞬 呼吸が止まった。

「本当ならその場で殺してやりたかったが……キラが止めた。」
 イザークの言葉は上滑りしてアスランの頭には入ってこない。
 頭は真っ白で、ショックなのかも分からないくらいで。

「シンが… キラを…?」
 呆然として呟く。言葉にしてもまだ信じられなかった。

 弟のように可愛がっていた部下が、最も愛しく思うヒトを。
 何の悪夢だ、これは。

 ―――シンが、キラに対して抱く感情の正体を知っていた。
 だがそれはそんな激しいもののはずじゃなくて。
 もっと幼くて淡い程度の、本人すら自覚のないほどのものだったはずだ。
 それが何故 突然そんなことになるのか。

「さらには経歴に傷を付けさせたくないからと、キラ自身の手でこの件は隠蔽されたんだ。」
 とんでもないお人好しだと呆れるイザークの言葉には その通りだと頷きたくなる。
 …キラなら相手が誰であろうともそうしただろうが。

 しかし、原因が分からなかった。
 自覚すらしていなかったはずのシンがどうしてそんな行動を起こしたのか。
 キラの方は相手がシンだったこともあって思いきり油断したのだろうが、シンが暴挙に至る経
 緯が理解できない。


「…原因は貴様の婚約だ。」
 考え込むアスランにイザークが答えを与える。
 ただそれはかなり意外なもので。
「なに?」
 思わず聞き返すと、足を組み直したイザークはもう一度息を吐いた。
 2人共その時のことを詳しくは話したがらないから憶測ではあるがと付け加えて。
「真っすぐで純粋な単純バカは、惹かれた女が婚約者がいる男を好きだなんて理解できなかっ
 たんだろう。」

 しかも片思いではなく恋人同士。
 それはおそらく16の少年の理解の範疇を越えていたのだ。

「知ってるか? 真実を知らない者――― 一般人にとってキラは国が認めるカップルに横恋慕
 する悪女だ。」
 とんでもない言い掛かりだと思った。
「!? 何を馬鹿な、」
「あぁ、馬鹿な話だ。」
 即座に返した反論には当然だとばかりの反応が返ってくる。
「実際先に言い寄ったのは貴様の方で、ラクスの方も貴様に気は全く無いというのにな。」
「…そうだな。」

 世間の評価とはおかしなものだ。
 真実を知らない者が誤解をしたまま彼女を評価する。
 それで彼女が悪者扱いされるのは非常に不愉快だ。それはイザークも同感だろう。

 しかし隊の中にもそんな者がいたということには驚いた。
 隊の半分はクルーゼ隊の頃から知っている者だったし、アスランは隠しているつもりがなかっ
 たから新規メンバーの中にも気づいている者は当然いたから。
 むしろ知らなかったシンの方が珍しいくらいだ。

 本国へ戻る前の晩、はっきりとキラとの関係を見せつけたあの時のシンの顔をアスランは思い
 出した。
 シンはあの瞬間まで婚約のことを当然のように信じていて。だからきっと混乱したのだろう。

 元を正せばシンの暴挙の引き金は自分か、と。
 八つ当たりを今更悔いても遅いのだが。



「この後のシンの処分はお前が決めろ。俺の範囲はここまでだ。」
「ああ、ありがとう。」
 何事もなく済むはずだったのに、彼には要らぬ苦労をかけてしまった。
 だがそれを謝っても受け取るどころか気色悪いと言われるのがオチだから、簡単に礼を言うだ
 けに止めておく。
 …まぁ、たまにはそれすらも素直に受け取ってくれないが。

「イザーク、やはりキラにはあまり言わない方が良いのか?」
 最後にもうひとつだけ と、そう言ってアスランがイザークに尋ねる。
 その時の状況をよく知らないアスランにはどこまで踏み込んで良いかが分からない。
 キラにはかなりショックな出来事だったのだろうし、刺激しない方が良いのかと思ったのだ。
「…たぶんな。」
「?」
 答えるイザークは少し歯切れが悪く、どこか様子がおかしかったが。
 聞いたところで何でもないと返されそうだったので止めた。




「―――シンの件は分かった。他には何かあるか?」
 気持ちの上ではまだ整理できていないが、隊を束ねる者としてはそれ以上個人感情で動くわけ
 にもいかない。
 無理矢理気持ちを切り換えて アスラン・ザラから隊長へと表情を改めた。



 時は進む

 掌から零れ落ちる砂のように




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次回、キラ始動。
余談ですが、古参メンバーはキラとアスランがいろいろと苦難を乗り越えてくっついたのも知ってますし、アスランとイザークが
キラを取り合っていたことも見守っていたので知ってます。
新規メンバーのほとんどは見ていて気づいたものの、周りが温かい目で見守っているのを見てなんとなく察したようです。
そういったものに興味がない者を除いて知らなかったのはシンくらいだったのではないでしょうか…(汗)



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